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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
終章 追い求め、追い求め
56/62

55.仮拠点に並ぶ



「声はどうですか?」

『まだ南西から聞こえる』


「声は?」

『まだ南西からだ』


「声……」

『まだ南西』


 そんな調子で南西に進み続け、次の日のお昼過ぎ、僕たちはマドリードに到着した。

 マドリードというのはスペイン地方で最も栄えている規模の大きな街だ。冒険者の数も多いし、情報も集まりやすい。活動がしやすいので、一旦ここの街で宿を取ることにしたのだ。レイさん曰く、声はまだ南西から聞こえているらしいからね。ヨーロッパの最南西がスペイン地方なので、探し回るなら拠点にするのはここがいいのだ……とレイさんが言っていた。


 道中?

 何もなかったよ!


 そもそも僕の気配察知があって、僕が用心して運転してればまずモンスターと戦うようなことにはならない。前回は立川さんが僕の忠告も聞かず適当に運転するからあんなことになったんだ。ナビもあるのに迷うなんて、ありえない。僕がいる限りモンスターに遭遇することも、ありえない。

 自動車より早い速度で移動ができるモンスターでもいれば、戦わなきゃいけないんだけど。

 そんなのめったにいないし。

 立川さんがいれば無問題(モウマンタイ)だし。


 何もなく運転しているだけだったよ!

 前回の湖特攻でもこうすればよかったんだ……。後悔というのは、後から悔いるとかくからな。結局、後からしかモノを見つめ直して良かったか悪かったかの判断は出来ないものなのである。

 ……なにか僕にとって素晴らしいハプニングでも起きれば楽しかったろうに。より具体的に言えば、ピンチに陥ってる新人美少女冒険者とかに出会いたかった。

 でも何事もなく着いてしまったのだから、もうどうしようもない。今から引き返すとかわけわからないからね。

 僕の願う、前時代の古典『ラノベ』のテンプレ的展開はいつも僕に訪れてはくれないのである。世の中って無情。


 そんなわけでただいま僕の目の前に広がるのは、濃いベージュや象牙色のレンガの建物たち、それにオレンジ色の屋根がのった家屋などが散らばるマドリードの街並み――――を取り囲む城壁であった。

 三、四メートルはあるだろうか。街並みと同じようにレンガなのかと思いきや、コンクリートでつくられたそれは非常に強固そうだ。きっと中には鉄筋が入れられているんだろうね。これは砦なのだ。

 そうだ、日本でもあった風景だから。モンスターから街を守るために強靭な壁は必要不可欠である。レンガより開発された特製コンクリートのほうが強いんだから仕方ない。ちょっと風情がないかなとか思っても、仕方ないのだ。ここまで頑丈でごつい壁があると、街並みに合わなくてかっこわるいなと思っても、ヨーロッパの方がモンスターが強いのだから仕方ないのである。


 そしてさらにいえば、僕がいるのはその城壁を通過して街並みに入るための城門の前に続く順番待ちの人たちの列だ。つまり僕たちは街の中に入るため、城門前の行列に並んでいる。

 横浜でもここまで街の外に人が並んでるのは見たことがないぞ。

 ヨーロッパでは冒険者の数も多いとか聞いたことがあるけどその噂は本当だったのかも。まあ冒険者ギルドがそんなことを公表してくれるわけではないのだけどね。いまや国から完全に独立した組織である冒険者ギルドである。登録者の情報を公表しないのが冒険者ギルドの方針らしいし、国もその方針に対して何も言えない。政治的な力関係的にも何かを要求できる関係ではないし、モンスターの素材や数々のクエストなどを通して莫大な利益を上げている冒険者ギルドは経済界においても世界で頂点に立つ組織なのだ。

 だから、国民がどれくらい登録している、などの情報は知られていない。

 まあ大体の数なら予想されているけどね。

 つまりいろいろ秘匿体質なのだ。僕も記者としていろいろ探ったけど、冒険者個人にしかアプローチできなかった。しかも立川さんのこと記事にしたらあっという間に本人にばれてこんな事態になっているし。いま思えば、僕の情報を何らかの方法で立川さんに回したのは、冒険者ギルドの関係者だったんじゃなかろうか。だって、僕だって用心して記事を売っていたんだから、いくら立川さんのガラが悪いからって新聞社が僕の情報を簡単にぺろりするというのはおかしい気がする。

 立川さんだって、そんな極悪非道の人間というわけではないし。


「なんだ?」


 思わず立川さんに視線を向けるとちょうど目が合ってしまった。

 地雷スキル所持の立川さんに視線を感じることなどできないから、きっと暇をしてちょうど僕を見ていたのだろう。


「いや、なんでもないです」


 僕は苦笑して首を振った。

 僕の情報を売った新聞社はギルドの指示で動いていたんじゃないですか? なんて立川さんに聞いたところで、彼がそれを気が付いていたはずがないからね。だって立川さんだから。

 しかも、今となってはなんだかんだで冒険者業は板についてきて楽しくなってきたし、それにモンスターを狂暴化させている諸悪の根源をぶっ倒すという世界規模の目標を以ていまは活動をしている。今更、出会いの理由なんてどうでもいいか。

 ……しかし、僕たちってば世界のひとびとを救うために冒険しているんだね。

 改めてそう考えると、まるで勇者じゃないか! 僕が勇者……ふふふ、なんだか興奮してきた。

 その筋でいくと、諸悪の根源は言うなれば『魔王』か。


 ――モンスターの脅威にさらされる世界の人々を救うため、魔王の住処を探し故郷を旅立った勇者清水。

  仲間の剣士立川と、モンスターでありながら崇高な精神を持って魔王に抗うゴースト、レイを伴い、世界をめぐる冒険を続ける……。


 くう! こういうとめっちゃかっこいいよね僕。最高に輝いちゃってるよね!


 まあ実際には僕が立川さんのおまけのマップ要員だということは忘れておこう。ヨーロッパに土地勘のあるレイさんのパーティー参入で僕の存在価値がまた下がってしまっているという事実についても考えないこととする……。行列が長いとだめだな。余計なことを考えてしまう。


「なんだこいつ。ひとりでにやけたりへこんだり百面相して」

『シミズは情緒不安定だな』


 立川さんとレイさんに変な顔をされてしまった事実も考えないことにする……。




ジャンルをファンタジーから冒険に変えました。

あんまりファンタジーファンタジーしていない気がしたので(笑)

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