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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
五章 発想創造遭遇
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49.未知との遭遇

 飛び出した気配は、大きな布をまとっていた。


「リッチだ……」


 僕は思わず呆けて呟いていた。

 金持ちなリッチじゃないぞ。かの有名なアンデッドモンスターの方だ。さすがアンデッドの王とか言われるだけある。僕はたらりと冷や汗を流した。

 それくらい、リッチは強大な魔力を持っていたのだ。

 これは僕と立川さんでは、戦うのに相性が悪いかもしれない。リッチというのは、基本的に魔法的な要素が大きく、それゆえに物理的な攻撃には強いという性質を持つのだ。リッチという呼び名はあまり定義が細かく定められているわけではなく、アンデッドのなかの強いボス、みたいな感じなのである。あと、莫大な魔力とともに布をまとっていたらおおよそリッチだと思って良い。なぜならば、布をまとうほどの知能を持っている証でもあるから。


 ごくりと息を飲みながら、秒速の世界の中でリッチを見つめる。

 それこそ、布の下が半透明だったら、本当に物理攻撃が効かないことになる。霊体だけだとかしゃれにならない。しろがいらない個体ということだ。依り代さえあってくれれば、物理的な手段でも攻撃できる。

 ギルドで借りてきた除霊の魔道具以外は役立たずということになるぞ……!

 地下の穴から勢いよく飛び出してきたリッチが、天井にぶつかるかぶつからないかのところで一瞬静止した。慣性で布がひらりと舞い上がる。

 そうしてあらわになった布の下に、僕は安堵の息を吐いた。


「スケルトンなリッチです……!」


 僕は叫びながら全力で後ろに飛び移った。

 懐中電灯の光がきちんと当たるように狙いを定めると、立川・・さんが立ち代わ(・・・・)り前へと躍り出た。……べ、別にダジャレじゃないんだからな!

 これならば、あの骨を粉砕すればあのリッチも倒せる。後は立川さん、君に任せた!

 僕は以前、小田原城で学んだ。アンデッドに対して僕ができることといえば、歩く灯台になることくらいであると。


「叩き割ればいいんだな!」


 立川さんが脳筋のような台詞を叫びながら、その身に背負う大剣を振り上げる。


『ちょ……! ちょっと待ってはくれんかのぅ!」


 そのときであった。どこかからか。声がした。

 誰かいるのか? でも、この場には僕と立川さんと、目の前に対峙しているリッチ以外の気配はない。僕は首を振り回して辺りを見回す。気配で察知できない何かとか――!? れ、霊的な何か!?

 半狂乱になって声の主を捜すが、しかし何も見つけられない。僕の幻聴とか?

 あまりの恐怖に幻聴まで聞こえるようになっちゃったのか僕。


 って、ちょっと待って。

 いま声、正面からしなかった?


 浮かんだ疑惑に、半信半疑……いや、一信九疑くらいで……僕はリッチに注目した。

 リッチは、大剣を振り上げる立川さんに近い方の手、右手をあげて、身を守るような格好をしている。


『わしじゃ! わしじゃから、ちょっと待ってくれい!』


 もう一度その叫び声が、耳に届いたとき、ちょうど同時にリッチのスケルトンなアゴがガクガク動いているのが見えた。

 リッチが……しゃべってる……!?

 それも理性を持っているみたいな……。


「ちょ、立川さん待っ……」


 しかし、リッチは声をあげるのがおそかった。

 立川さんの反射神経よりも先に身体能力だけで剣は振り切られていたのである。

 リッチの右腕が切り落とされた。


「Oh……」


 僕は思わず欧米人みたいな声をあげていた。


『手が、手がああああ!』


 リッチは、床に降り立ったかと思えば、ひじから先がなくなった右手を左手で掴んで咽び泣いている……。立川さんはというと、少しバツが悪そうにしながらも期待の表情をリッチに向けていた。


 しゃべる亡霊が、って噂があるって聞いてきたけど、もしかしたらこのリッチのことだったのかもしれない。

 これこそ立川さんの待ち望んだ、会話のできるモンスターかもしれないのだ。


 立川さんの期待の高さが瞳に現れていた。いつもの仏頂面なのに、瞳が輝いている。



お昼寝していたらこんな時間に。

少し短いですが区切りがいいのでここらで。

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