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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
五章 発想創造遭遇
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47.調査依頼

 飲み会ではなあなあになってしまったから、と翌朝になってトニーさんとミシェルさんが宿まで来た。といっても、飲み会をした居酒屋の上階に併設された宿なわけだけれども。つまり、ミシェルさんのご実家である。


 立川さんが報酬として提示した『情報』という条件に対して、お二人は本当にヨーロッパにおけるいろんなモンスターの情報を教えてくれた。


 例えば、北の方には人語を解するヴァンパイアがいるらしい、とか。

 中部には耳のとがった妖精のモンスターが溢れているのだがそいつらが噂好きでうるさいらしい、とか。

 もっと南部に行くとしゃべる石像がなぞなぞを出してくるらしい、とか。


 そして、そういえば、といったように付け加えられた話に、立川さんの耳がぴくりと動いた。さすが野生児。僕は自分の耳を動かすことなどできない。ちょっと気になって後からどうやって耳を動かすのと聞いてみたら、勝手に動くからそう聞かれても答えられないが意識して動かそうと思ったら後頭部のあたりに力を入れる感じだ、と教えてもらえた。耳を動かすのに頭を動かすの? 僕の頭の中はハテナでいっぱいになった。


 ――――そういえば、ここいらで最近、喋る『亡霊』の姿を見たって噂が絶えないんだ。


 与太話といった感じで軽く教えてくれたミシェルさんだったけど、立川さんはどうやら強い疑惑を持っていたらしい。もしかしたら、亡霊じゃなくて何かしらのモンスターなんじゃないか。その亡霊が例の大量の《マミー》のポップに何かしらの関わりがあるんじゃないか。

 僕の頭によぎったように、立川さんもそう考えたらしい。

 僕たちはこの港町のギルドのひとにお願いされたのもあるが、件の森のなかに突然出来た、マミーが湧いてでた穴について調査することになった。

 ギルドの職員さんたちのおおよそは僕のギルドカードを見たからか、僕の実力に懐疑的だったけど、一緒に魔道具をばら撒きに行った職員さんの説得によって納得を得られたらしい。僕、逃げ足だけは世界と争えるからね!

 それに、元新聞記者であるから調査は得意中の得意だし。


 そんなわけで僕たちはいま、例の森にやってきていた。

 日帰りのつもりなので、車ではなく徒歩だ。徒歩と言っても車より速い速度で走っていたけどね。


「ここか」


 ほどなくして、マミーが大量にいた例の広場にたどり着いた。

 立ち止まった僕に続いて、急ブレーキをかけるように砂煙をあげながらなんとかストップした立川さんが、打ち捨てられた大量の『除霊の魔道具』を見て会得したように呟いた。

 マミーの姿がなくなった広場は、それはそれで異様な光景をつくっていた。

 木々の生い茂った森のなかにあるぽっかりと空いた空間というだけで、少々不気味だというのに、その広場の真ん中には大きな穴が開いていたのだ。まるで巨大な怪物が森の土や木々、動物の区別なくすべて飲み込もうと大口を開いているようだった。

 広場には足を踏み入れずに、木々の間から警戒しながらその場を観察する。

 土がなだれて陥没した大穴をよく見てみると、その淵のほうからレンガの破片のようなものと、コンクリートの残骸のようなものがちらりと覗いていることに気が付いた。


「人工物……っぽいものが見えてますね」


 僕と同じように広場には踏み込まずに待機していた立川さんに話しかけると、立川さんは驚いたように眉を動かした。そして、穴のほうを見つめると一拍遅れて頷いた。


「本当だ。なんかあるな」


 どうやら気が付いていなかったらしい。

 立川さんってばこういうときに、とりあえず何も考えずに突き進む傾向があるからなぁ……。それに、例のスキルもこういうところまで作用しているのかもしれない。

 危ない危ない。

 立川さんの観察力のなさに改めて肝を冷やしながら口を開く。


「あの大量の《マミー》は大量発生したわけではなく、この人工物の中に残っていた死体をもとに出来たモンスターであった可能性が高いわけですね」


 見たところ、新しくマミーは発生していないようだから、自然ポップというよりはその線のほうが高いだろう。大量に溜まっていたマミーが今の今まで気がつかれずにいたが、ここで土砂崩れのようなものが起きて、地上に出てくるようになった、と。


「ということは、ここは地下墓地カタコンベのようなものである可能性も高いですね……」


 考えをまとめながら、それを口に出す。

 立川さんが斬り捨てたマミーを除霊の魔道具で完全に退治したから、地上部のマミーは姿を消した。そして、いま現在もその姿が継続して見られないということは、ここがポップ地点になったわけではないことを指す。それに何より、この大穴から覗く人工物。


 絶対そうだ。


 半ば確信を以って口に出した考えには、立川さんも納得したらしい。頷いて目を瞑ると、立川さんが真剣そうな顔になった。


「まだ内部にはアンデッドモンスターが残っているかもしれないな。それに、あれだけの数のマミーが蓄えられるほどの規模のカタコンベなら、《マミー》だけということもあるまい」


 そうだ。それよりレベルの高い――強いモンスターがいる確立も跳ね上がった。


 ふと立川さんを見ると、彼の口角がにいと持ち上がっていた。おそろしい。

 おそろしいまでの悪役スマイルである。


 その表情は悠々と語っていた。調査しろ、とは言われたが、別に倒してしまっても構わんのだろう? と。

 ……僕も言ってみたい。

 攻撃力ゼロだから絶対いえないけど。調査しかできないけど。せいぜい出来て場を錯乱させるくらいだけど。



 立川さんは、その物騒な微笑を浮かべたまま歩き始めた。僕には立川さんの身体からモヤモヤとした蜃気楼のような闘氣が立ち上っている……幻覚まで見え始めた。あれだな。カタコンベなのであれば内部にいるのは絶対にアンデッド。アンデッドは前時代から違わず生者と見れば襲い掛かる習性を持つモンスターたちである。つまり、立川さん的にも遠慮は無用。

 そういうことなのだろう。

 立川さんの背中はやる気に満ちていた。


 これは、内部に潜んでいるモンスターさんたちにこうとしか言いようがないです。

 

 ――ご愁傷様。


お久しぶりです。

テストレポート地獄から解放され、久々の更新となりました。

次回更新は明日。

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