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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
五章 発想創造遭遇
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45.僕の仕事、彼らの仕事

 そんなわけで僕は全力ダッシュで街まで舞い戻って来た。

 走っている途中、残像が見えたような気もしたけど、嘘だと言って。僕の俊敏値も人のこと人外だとか言えないレベルになってきたみたいだ。


「なんだ、随分と早いですね。途中であきらめたんですか」


 ギルドに飛び込み、受付に向かうと、イケメンのお兄さんにあんまりなことを言われた。

 あまりの速さに、僕が途中で放棄して戻って来たと思われたらしい。

 確かにこの草原は僕が走り出したくなるほど広いから、目視できるといっても点レベルの森に、この時間で行って帰ってくるのは無理だと判断されてもやむないだろう。


「いえ、もうミシェルさんは救出できたので、浄化の魔道具を借りに来たんですよ!」


 いくら人外レベルに強い立川さんと言えども、対抗手段を持っていくのをわざわざゆっくりにする必要はない。

 受付をばんばん叩きながらそう主張するが、受付のお兄さんには疑わし気な目を向けられてしまった。

 その目は信じられないと語っている。


「信じられないなら、この僕のステータスを見るのです!」


 僕はギルドガードを取り出し、お兄さんの目の前に掲げた。

 普通、冒険者が他人にステータスを見せることなどしないが、ギルド職員となれば話は別だ。もともと受付と言う業務を行う以上、普通にステータスは閲覧できる立場にある。


「なんですかこの俊敏値!?」


 僕のギルドカードをいぶかしげに受け取ったお兄さんは、僕のステータスを見るやいなや飛び上がった。

 ふふん。僕のステータスはいろんな意味で恐ろしいだろう?


「わかったでしょう。無事に救出はできたんです」


 そういって僕は胸を張った。

 それで納得したような顔になったお兄さんが、やっと話を聞く気になったようだ。居住まいを正して、僕に向き直ってきた。


「それで、浄化の魔道具というのは?」

「とりあえず《マミー》の群れから連れ出しただけなんで、まだ殲滅はできていなくて、いま僕の仲間がとめている状況なんです。だから、早く浄化の魔道具とそれを設置する人員の手配をお願いします!」

「人員?」

「ええ。車でたくさん運ぶんです」

「車で?」


 僕の要望にお兄さんは困惑したように首を傾げてくる。

 なんだっていうんだ? ギルドの職員は車なんて使わなくても早いぞってか?

 それとも余所者にゃ魔道具は貸さんよ! ってわけ?


 徐々に僕の眉間にしわが寄っていくのが自分でもわかった。


「なんですか。手配、してくれないんですか?」


 ふつふつと湧いてくる怒りを自覚しながら口を開くと、思ったより低い声が出てきた。

 僕の怒りを察知したのだろう、お兄さんが手と首をぶんぶんと振りながら叫ぶ。


「その俊敏値があるなら車など足手まといだろう?! 人員を手配してもそのぶん時間がかかってしまうぞ! こっちのメンツを思ってくれているのだろうが、そんなことは気にしなくていい!」


 そっちか!

 僕は違った方のまさかの解釈に、こけそうになった。


「だから、よーくステータス見てみてくださいと言ったじゃないですか!」


 ばんとカウンターを叩きながら、訴える。

 ちなみに、さっきからカウンターを叩いて、とか言っているけど、音は鳴っていない。なぜならば、そう僕は――――

 

「攻撃力ゼロ!?」


 そう、攻撃力ゼロなのである。

 受付のお兄さんが思わずといった様子で立ち上がって叫んだ。声が裏返っている。

 というか、君、なに顧客の情報を大声で叫んでくれちゃってるのかな。

 僕は慌ててお兄さんの裾を引っ張って席に着かせた。いまの叫びで、非常にギルド内の視線を集めてしまっている。


「僕が設置すると、魔道具すら機能しないんですよ……」


 声を潜めて僕は言った。

 泣きそうな声になってしまったことは気にしないでほしい。

 僕の悲痛な訴えに、お兄さんは憐れむように眉を下げた。同情するなら金……ではなく、早く魔道具と人員をくれ。


「すぐ、手配します」


 眉を下げたまま、席を立ったお兄さんが奥に引っ込んでいった。

 はい。お願いします。





 そんなわけで、魔道具と車と人員が手配された。

 八人乗りの車の運転席には僕が座る。

 森でなくても、ものすごい速度を出して走ろうとなったら、たとえ車であっても反射神経と動体視力が必要になってくるので、僕のように俊敏値の高いものが運転するのがもっとも効率がいいのである。

 それに、今この場で《マミー》の群れの居所を知っているのは、僕だけである。


「ぎゃああ! は、は、はやいっ!」


 助手席に座るのは、さっき受付にいたお兄さんだ。

 噛みそうになりながら悲鳴をあげている。僕はその声を聴きながらアクセルを踏み込んだ。イケメンの顔が恐怖にゆがんでかわいそうなことになっているのって、嬉しいです。

 せいぜい醜い表情でいるんだな。

 そして、女子にもてなくなればいいんだ!

 後ろに乗っているのは、男女混合のギルド職員たちである。貸し出しという業務上、また貸しなどになると手続きが面倒になるとかで、冒険者の人たちではなく、職員の皆さんが設置する人員として派遣されることとなったのだ。

 僕とお兄さんを含めて、現在車に乗っているのは合計で8人である。


「いいですか、作戦はこうです。とにかく僕がものすごい速度で運転して回避しまくりますから……」

「私たちが窓から魔道具を投げまくる……ですよね?」

「そうです」


 作戦を確認しながら森に突入する。

 森に入ったとたん、地面に凸凹が増えたので車がさらにがったんばっこんする。隣から小さく悲鳴が聞こえてきたが、アクセルは全開のまま木々の間を走り抜ける。

 そして、群れに近づいてくると、木の上を飛び交うたちが視界に入って来た。


「なんだあれ……」


 ぎゃあぎゃあ叫んでいた受付お兄さんが呆然とした表情で呟いた。


 絶対立川さんだ……。


 僕は苦笑しながら、車を進める。


「もうすぐなので、魔道具を構えていてください!」

「了解です!」

「わかったわ!」


 僕の忠告に思い思いの了承が帰ってきた。よーし、立川さんも大いにハッスルしてくれているみたいだし、僕も頑張らなきゃな!

 広場に入るやいなや、僕はハンドルを切って、ブレーキに足をのばす。

 よっし、決まった! ドリフトである。

 広場の中心に、フロントを向けながら回転していく。車の両脇からは、軌道済の魔道具が投げつけられていく。安定した運転だから、投げやすいだろう。

 地面に設置された浄化の魔道具の近くにいる個体から徐々に動きが弱っていくのが見えた。広場を一周して、魔道具を投げ切ると、僕たちはすぐにその場を離脱した。

 開いている窓から叫ぶ。


「立川さん! 魔道具投げたんでそっちの方から、お願いします!」

「おう!」


 戦闘に夢中でもしや聞こえないかと思ったが、群れの向こうから立川さんの返事が返って来た。

 うん。

 この程度、立川さんには何でもないよね。

 

 と、そんなわけで僕の仕事は終わった。

 各地にばらまいた浄化の魔道具のおかげで、アンデッド特有の脅威的な再生力はなくなったので、あとは普通に殲滅するだけだ。


 立川さんのお仕事である。


 仲間を放って逃げ出す僕に、後部座席の職員さんたちがちょっとざわめいた気がするが、それは気のせいだろう。



なろうが混雑中なのか、入れなくて一旦PC切ったらなぜか今度はPCがつかなくなっていろいろ悪戦苦闘しているうちにこんな時間になっていました(言い訳)


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