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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
五章 発想創造遭遇
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41.新たな拠点

 特になんの問題ももく、船旅は終わり、僕たちはユーラシア大陸に到着した。

 人生ではじめての大陸だ。

 大昔はヨーロッパにもいろんな国があったらしいが、『復活点』以降の混乱のさなかでそれらは統合されていったのだ。ヨーロッパのモンスターは日本の妖怪より凶悪なものが多い。

 一説には、日本の妖怪よりも攻撃性の高いモンスターの伝説や物語が多かったせいであるとか。

 そのへんのことは研究者ではないので、僕にはあまりわからないがとにかくヨーロッパの方が強いモンスターがいるということである。立川さんにぴったりの場所だね!

 僕? 僕は大丈夫だよ。どこにいても逃げ回っているだけだから変わりがない。


 見渡す限りの平原というものを、日本にいるとなかなか見ることはできない。

 そう、すぐ背景に山があったり、向こうには海がチラリと覗いていたりするからだ。ずっと横浜に住んでいた僕にしてみれば、見渡す限りの住宅街か、港が視界の常を占めていた。


「うわぁあ……!」


 僕は目をかっぴらいて感嘆の溜息を吐いた。

 はじめて降りたったヨーロッパは、げに大陸とは大きいと感じいる壮大な草原であった。そりゃあ港街もあるにはあるけども、街の先に山がないせいで視界が遮られることもなく、ずっと続く平らな陸を目にすることができるのだ。


「ここで走ったらすごい速度がだせそうだな……」


 僕は自分でポツリと呟いて、その発言に目をしばたかせた。なんてすばらしいアイディアなのだろう。

 脚がうずうずする。


「やめろ」


 駆け出そうと右足を前に出したところで立川さんに襟を捕まえられた。そのまま持ち上げられてぶらーんと垂れ下げられる。


「なんでですか! ちょっと駆けて来るぐらいいいじゃないですかケチ!」


 手足を空中でばたばたさせて抗議するも、立川さんの腕力の前では無力だった。


「土がえぐれる。それを直すのはお前だぞ?」


 冷静な声で言われて、僕ははっとした。危ない危ない。

 はじめての平原にテンションが上がりすぎて暴走しかけた。

 肝が冷えますなぁ。僕の俊敏値でダッシュをすると、土に穴ぼこがあいてしまうのだ。この調子でレベルアップしていけば、ソニックブームも夢じゃないとかちょっと思っていたりする。

 これだけ綺麗な草原に、土色の穴ぼこが空いてしまったら目立つし、車の移動などに支障が出る。直さなくてはいけないところだった。


 でもやっぱりうずうずする。これだけ広いんだから、ちょっとくらい穴があいていても怒られないんじゃないかな?


「ちょっと小走りするならいいですよね?」


 僕は両手を上から回して後ろにある襟を捕まえている立川さんの腕をつかんで、突然の行動に立川さんの握力がちょっと緩んだすきに、立川さんの手を軸に逆上がり。立川さんの腕のうえに座った。

 こんな行為をしてもびくともしないんだから、さすが立川さんである。

 そして、視線が高くなったのでさらに見通しがよくなる。草原、すばらしい。


「お前は……変なところで暴走するよな……」


 心底疲れたような立川さんの声が後ろから聞こえてきた。

 それと同時に立川さんの腕が曲げられて、僕の左足が捕獲されてしまった。


「やめとけ。お前、ちょっとだけだからとか言いながら、絶対途中から全力疾走するタイプだからな」


 さもありなん。

 そんな行動をする自分の姿がありありと目に浮かんできて、僕はがっくり肩を落とした。なだめたはずのテンションはなだめきれていなかったらしい。まだ暴走していたようだ。

 ぬう。よもや立川さんになだめられる日がくるとは。

 いつもは戦闘狂で暴走しがちな立川さんを抑えるのが僕の役目といってもいいほどなのに。


「ふふふ。君たちは面白いな」


 後ろから歩いてきた河内さんに笑われてしまった。


 ぬう。





 あのまま草原にいると、また僕は走り出しかねないので、急いで港町の中に入った。

 検問というか関所というか、そういうかんじのところがあったのだが、我らには河内さんがついている。顔パスでありました。

 こういうときに役立つのが肩書という信頼なのである。

 きっと僕たちだけでやってきていたら、冒険者ギルドに所属しているから、ギルドカードを提示すれば身分保障になるけど、それでももう少し書類を書いたりとかがあったはずだ。一応もうここは異邦だからね。もしかしたら、そのへんの手配をすでに河内さんがやっていてくれただけかもしれないけど。


「それじゃあ私はここで」

「ありがとうございました!」


 街に入ったところで、河内さんとは別れた。優雅に礼をする河内さんに、僕は深々と頭を下げた。優雅さなど欠片もないけれども、こういうのは気持ちなのだ。お辞儀の角度で誠意を示すしかない。

 船の手配から入国の手続きまでと河内さんには非常にお世話になったからな。

 傍若無人という四字熟語の化身のような立川さんも会釈をしている。 


 河内さんと別れたので、改めてまじまじと街を見渡す。お昼前の時間なので、街には結構な人が行きかっていた。

 やはり、異国に来たという気持ちが沸き上がってくる。

 日本にいるとき、立川さんはかなり長身で目立つため人目を集めたものだが、こうして街を歩いている分にはそこまで目立たない。

 モンスターが強いせいで、人間も大きくなったとか、そもそも北欧の人間は『前時代』から大きかったとか、いろいろ面白おかしくジョークがネットにはびこっているけれど、そんなジョークを言いたくなる気持ちもわかる。

 日本では立川さんが男前で長身だったせいで、視線を集めていたが、今度はあまりにも小さいせいなのか僕が視線を集めていた。……ちくしょう。

 あっちではパツ金の綺麗なお姉さん二人組が僕を見て、心なしかほほえましげな表情をしている。これは子供だと思われているのではなかろうか。それに、そのお二人の身長も僕を優に10㎝は超していた。

 ……ちくしょう。

 いまさら牛乳を飲んだところで僕の成長期は終わっている。これを万事休すというのか。絶望である。


 街並みは、『前時代』から続くレンガや石造りの建物に、明るめの石畳と僕が想像するヨーロッパの街並みそのもののものだった。普通に掛けられている看板にさえ、異国情緒を感じられた。

 わくわくしてきてしまって、年甲斐もなくきょろきょろとしてしまう。完全なるおのぼりさん状態である。

 こういう行動のせいで、余計に子どもに見られるのではないかという声がどこからか聞こえてきたような気もするが、でもやっぱり人生ではじめての異国なので興奮するものは興奮するのだ。

 きっと立川さんだって、変わらないはず。

 僕みたいに目を輝かせてあたりをきょろきょろと見回す珍しい立川さんを見られるはずだ!


 と、立川さんの方に視線を向けると――


「なんだよ」


 僕の不満げな顔に気が付いた立川さんが尋ねてきた。なんだよと言いたいのは僕の方である。


「なんで、そんな仏頂面なんですか。ヨーロッパですよ! 異国の街ですよ! テンション上がらないんですか?」

「お前はテンション上がりすぎだ……こう、興奮した人を見ていると返って自分は冷静になれるよな」


 むう。

 なんだいなんだい。僕のテンションが上がりすぎたせいで立川さんは騒げないと?

 なら僕が俯いて黙り込んでローテンションでだらだらと歩いていたら、立川さんは顔を上げて騒ぎ立てながらスキップで街をかけるというのかね?

 ……そんな立川さんは見たくないな。

 自分で想像しておいて、僕は顔を青ざめさせた。


 そんな立川さんは見なくていいと思ったので、僕は立川さんに親指をたててぐっじょぶをすると、再びテンションを上げて街を歩き始めるのだった。



今日は更新が遅れてしまいました。

そろそろテストやらなにやらがはじまるので明日から毎日更新から隔日更新になるかもしれません。

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