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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
四章 まず旅立ち、島飛び立ち
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37.魔道具の正体

 てんやわんやあったが、まあギルドに無事到着しました。

 え? なにがあったかって? ちょっと僕の両こめかみが未だにズキズキしているくらいです。

 ちゃんと理由は説明したというのに、立川さんってば暴力的おちゃめだ。


 横浜支部と比べるべくもなく、がらがらの受付に行く。受付にはひとりしかいないのだが、それは残念ながらお兄さんであった。

 こうなってくると、あのものすごい仏頂面の村田さんでもいいから綺麗なお姉さんがよかったという気分になってくる。

 拠点を移動するときには、受付に綺麗なお姉さんがいることを確認してからすることにしよう。僕はひそかに決心した。


「すみません、この骨を除霊していただきたいんです。あと、こっちの金属片がなんなのか、鑑定していただきたくて」


 僕は骨の風呂敷は受付のカウンターに載せて、立川さんの持つ風呂敷を指さした。


「はい。かしこまりました。そちらの鑑定については私が《鑑定》持ちの職員も兼任していますので、除霊が終わるまで別室で待機していただくことになるのですが、よろしいでしょうか?」


 なんとまさかの受付のお兄さんが各ギルドにひとりは配属されているとかいう、《鑑定》持ちの職員さんであったらしい。

 スケルトンTレックスの骨をカウンターに預けると、受付横の控室らしきところに通された。なかにはローテーブルをはさんでソファが二つ置いてあった。遠慮なくソファに二人並んで座っていると、すぐに除霊は終わったらしい。お兄さんが笑顔で入って来た。


「お待たせいたしました」

「いえいえ。これをお願いします」


 ローテーブルのうえに金属片を取り出す。


「それでは、失礼して」


 お兄さんは真剣な表情になると、じっと金属片を見つめた。《鑑定》のスキルを発動しているのだろう。


「これは……名称欄には『封印の魔道具』とあります。どうやら長い時間をかけて『封印』の意味が籠められた魔道具へと変化していったみたいですね」


 お兄さんのその言葉に、隣に座っている立川さんがぴくりと動いた。

 どうしたんだろう? 疑問を浮かべる僕だったが、それも一瞬のことであった。

 なぜならば、職員のお兄さんが続けてこう言ったからだ。


「これ、売ったらすごい値段になりますよ」


 高額。

 僕はがたりと飛び上がった。お札ほしい。あかりがないならこれでどうだ? とか言ってみたい。ああ、実際に燃やしたりなんて僕はしませんけどね。もったいないじゃないか! そんなことをするなら、お札の値段以下の安いランプを買うのだな。守銭奴なのである。あくまで妄想の話なのです。

 と立川さんに視線を向ける。こちらを見ない。

 仕方がないので立川さんのそでをつんつんと引っ張ってみたが、こちらを見ない。

 魔道具の方に視線を向けたまま、ぼーっとしている。どうしたんだい立川さん。

 僕たちに『ぜひギルドで売ってください』という視線を向けてくるお兄さんを、そして『ぜひ売ろうよ』という視線を向けている僕に気づかずぼーっとしているなんて。

 というかぼーっとした顔の立川さんとか、レアだ。

 って、そんなことはいいのだ。とにかく、いまは魔道具を売って、お金を得るのだ。


「立川さん、ぜひ売りましょ……」

「すまないが、売らない」


 口を開いた僕を遮って、立川さんはまっすぐ職員のお兄さんを見て宣言しやがった。

 無視ですか。スルーですか。

 さすがの僕も泣いちゃうよ。大の大人が泣いてごねて床に転がって地団駄踏んじゃうよ?

 いいの? そんな大人とパーティーメンバーであることになっちゃうよ立川さん。


 僕が身を削ったいやがらせをはじめようと決心するほどのすっぱり感であったが、ふと立川さんがいま気が付いたというような顔で僕を見た。


「すまん、勝手に決めてしまって。なんなら、山分けになるはずだった報酬を俺が立て替えてもいい」


 さっすが立川さん!

 僕は変わり身の術を使った。男前はお財布のひもまで男前なのである。太っ腹は男前なのである。


「ふふふ仕方ないですね。どうせなにかやりたいことがあるんじゃないですか?」


 僕も対抗するように内心とは真逆のことを言ってかっこつけた。

 まあでも僕の意地汚さを立川さんも知っているので、お金の確保は確実な確定した。

 立川さんはあきれたような眼になると、肩を竦めて立ち上がった。


「じゃ、そういうことなんでお暇する。支払いはパーティーの口座から差し引いてくれ」

「すみません。ありがとうございました」


 そういうと、立川さんはさっさと歩き出してしまう。呆然とショックを受けた顔になってしまっている職員のお兄さんに、少しの申し訳なささを感じながら、僕も立ち上がるとぺこりと頭を下げて部屋を出ていった。



「ちょっと、立川さん」


 車に舞い戻って来たところで、僕は口を開いた。

 やけに真剣そうな顔をしていたため、気軽に外で声をかけられなかったのだ。


「いったいどうしたんですか?」

「ああ、説明不足ですまない。ただ、この魔道具が『封印』の意味を持つなら、あの『神社』と同じように『あの声』を防ぐことができるできるんじゃないかと思ってな」


 いつもとは違って、真面目な声で立川さんが語った。

 僕もうむと唸る。立川さんはもともと人を襲わなかった生物が、人を襲うようになったのは、『人を殺せ』という声が頭に響くためであると当のモンスターから聞いたと言っていた。

 そして、そのモンスターが神社の境内にいるときだけはその声が静まると語っていた、とも。

 ならば、封印の意味がすべてのものに対して効くとすれば、その声も封印できるのかもしれない。


「それで売らなかったんですね」

「ああ、それで……」


 立川さんの表情が曇った。なんだか申しわけなさそうにしている、気がする。

 なんだか今日はやたらレアな立川さんを見る日である。

 僕はにっこり微笑んだ。


「実験するんでしょう? 報酬は、まあ魔道具代で勘弁してあげますよ」


 何をいまさら遠慮することがあるのか。

 とりあえず三十万くらいはほしいところである。


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