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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
四章 まず旅立ち、島飛び立ち
34/62

33.はじまりは謎から


 そんなわけで、やってきたぜ。博物館跡。

 面影をまったく残していない上博物館としての機能を果たしていないため、皮肉をこめて『旧博物館』と呼ばれることもある。

 ここ小田原の博物館は幸いなことに、ダンジョン化はしていないとのこと。

 さすがに一日で二つのダンジョンに挑むなんて真似はしたくない。

 まあ比べてどちらが難易度が高いかと聞かれても困るけどね! どっちもどっちということである。


 そもそも世界中の人に『復活点の際に最も被害を出した場所は?』という問題を出したら、博物館と答える人と、墓場と答える人で半々に分かれるだろうくらい、旧博物館というのは危険な地帯となったのである。ひいて日本においては、圧倒的に博物館である。日本では前時代の前の古代から火葬が一般的であったため、ゾンビのもとも、スケルトンのもともなかったためだ。

 どうしてそんな危険地帯になったかって?

 それは博物館に展示物がたくさんあったからである! 恐竜の化石が復活し、スケルトンとして動き出し、はたまた石像などの美術品たちはガーゴイルとして動き出した。展示物がモンスターとなって襲ってきたのだ。

 こうして『復活点』を境に博物館は危険地域となった。

 だからダンジョン化していないからといって安全だなんてことはまったくないが、博物館である上にダンジョン化なんてしちやってたら本当に手に負えないので少しはマシなのである。つまり、めっちゃ危険ということだ。


 でも困っている人がいるなら放っておけない僕。正義感(金銭欲)にあふれているので、Tレックスを探して素材をとってくるなんて依頼、断るわけにいかないのである。


「たとえ危険があったとしても、僕の気配察知で避けられますし、どうしようもないときも立川さんがいますからね! 困っている人のため、僕たちの力を合わせ何としてでもこの依頼を達成しましょう!」


 僕は拳を握って熱く語った。立川さんは何故かやる気なさそうに肩を竦めている。

 まったく、それじゃあ高額報酬を貰えな……ゲフンゲフン、正義を果たせないぞっ!


 仕方がないので、僕は立川さんの分までやる気を出しまくることにする。フンと鼻息を吐いて、気配察知。

 博物館跡はダンジョン化していないとのことなので、屋外からでも内部の気配を察知できるはずだ。

 そう予想してやってみたら、案の定できた。

 僕のスキルは万能なのである。万が一、僕のステータスに0という数字がなければ僕は今頃稀代の英雄となっていたかもしれない。


「かーなりたくさんの気配があります」

「どうだ?スケルトン Tレックスの気配は識別できそうか?」

「ちょっと、待ってくださいね……」


 大雑把に把握していた気配のひとつひとつを手前から順に細かく分析していく。

 人くらいの大きさのものはおそらく、石像か何かだろうから違う。獣みたいなやつは、動物の剥製が動き出したミイラもどきかな。これも少し、小さすぎる。

と、右側に大きな部屋らしきエリアがあるな。

 うわ、なんかすごい大量の気配が空中を舞ってる地帯があるんだけど……。

 これ蛾? ちょうちょ?

 どっちでもいいけど、この大量さはやばい。光景を少し想像してしまってものすごくげんなりした。ぞわぞわする。腕をついさすると、鳥肌が立っていた。

 うん。

 気を取り直して。先のエリアに意識を向ける。

 博物館の敷地の、ちょうど真ん中あたりのエリア。ちょうどそこに、その気配はあった。

 体長十二メートルはあるだろう、巨大な気配が。いや、でもこれは――


「たぶん、見つけました」

「たぶん?」


 曖昧な報告をする僕に立川さんが首を傾げた。


「様子がおかしいんです」


 そう、おかしい。Tレックスなんて言ったら、常に獲物を探し求めて走り回ってるのが普通のモンスターであるはずだ。しかし、この巨大な影はというと……。


「敷地の真ん中にとどまったまま、一切動かないんです」


 困惑の極みにいながら困惑を招く情報を提供すれば、立川さんもまたその渦中となった。


「スケルトンTレックスではないとか?」

「大きな頭に大きな後ろ脚そしてそれに反比例するようにとても小さな前脚……という気配を感じるのですが」

「Tレックスだな」


 そもそも天下の『河内貿易社』の若き社長河内さんからの依頼で小田原の博物館に来ているのだ。スケルトンTレックスがそこにいるという確かな情報を得てから依頼しているに決まっている。だから、いないなんて可能性ははじめから考えていない。

 それに、気配は確かにスケルトンTレックスなのだ。

 ただ、その気配がその場に立ち止まって動いていない、というだけで。


「死んでるんじゃないか?」


 立川さんの言に僕は首を横に振った。

 それは僕も考えたのだが、Tレックスは前脚と後ろ脚のバランスが悪いため、前傾姿勢でバランスを取っていなければ立ち上がった状態ではいられないとどこかの史料を読んだことがある。とても死んだ状態で後ろ脚二本で立っていられるとは思えない。


「っかー! 考えてもわかんねえんだ! さっさと行くしかねえな」


 顎に手を当てて考え込む僕を、心底めんどくさそうに立川さんが一喝した。

それもそうだ。

 それに最終的にはどんな状態にあったとしてもティラノサウルスと戦って倒し、素材(カネ)になってもらう必要がある。


 ぐっと両コブシを握って気合を入れている間に立川さんはさっさと歩き始めてしまった。

 慌てて後を追いかけていく。


「右のエリアはアウトなので、左側を通って行きましょう!」

「アウト?」

「キモイ虫がいっぱいいるみたいなんです」


 迂闊にも口に出してから気がついた。


 いっぱいいる、ってあれ。これフラグじゃ!? 僕が群れに放り込まれるフラグじゃ!?


 こういうこと言うといつも投げ込まれているような気がします。

 僕は学習しないバカか……。おそるおそる立川さんの表情を伺う。きっと今頃僕を見て悪魔のような微笑を浮かべているに違いない。


「それはアウトだな」


 ……あれ?

 そうでもなかった。立川さんは苦虫を噛んだような顔をしていた。

 意外なことに、犬に育てられた野生児にも虫は無理だったらしい。


 しかしながら、こうして謎を孕みながらも、僕たちの初「旧博物館」探索ははじまるのであった。


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