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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
四章 まず旅立ち、島飛び立ち
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31.初攻略立ち合い

 カタタと音を立てて、甲冑が動き出した。見れば、下半分のお面が震えて、笑っているようである。

 侵入者を愚かだと笑っているのだろうか。それとも、甲冑という存在らしく、久々の戦いに歓喜しているのだろうか。


 いずれにしても、僕の心拍数は跳ね上がった。

 いきなり動き出すなってんだよな! まったくもう、甲冑が勝手に動き出すとか、そういうポルターガイスト現象はやめていただきたい。

 僕は怒っちゃうよ。立川さんに速やかな破壊行為をお願いしちゃうよ?

 結局他人だよりなのであった。


 でも、テンションだって上がっている。だって、あれはどうみてもラスボスである。

 このダンジョンのラスボスがいるのである。はじめてみる、その存在にテンションだって上がってしまう。ラスボスというからには強いに違いない。

 きっと今までのスケルトンなんかとは違って、見ごたえのある戦いを見せてくれるに違いない。


 不謹慎なことにちょっとわくわくしてきたところで、立川さんがすたすたと駆け出した。いつものように右手に剣を携えて、である。


「カッ」


 甲冑が駆け出した立川さんに反応するように、刀を抜いた。

 すっと流れるような動作で刀を構えた甲冑に立川さんは刀を振り上げ飛び込み、二人は刀でつばぜり合いをし――――なかった。

 しなかったよ!

 立川さんは、刀ごと甲冑を真っ二つに叩き割ってしまったのであった。

 剣と刀ですもんね! そして立川さんですもんね!

 かっこいい戦闘シーンなどはじめから望めないのであった。だって、僕の撮影した巨竜の討伐ムービーですら、立川さんの圧勝でしたからね……。


 半分に切られた甲冑から、魔力が発散していくのがわかる。

 浮かび上がっていたものだから、甲冑は大きな音をたてて床に崩れ落つ。バラバラに分解されてみるも無残な残骸となってしまっている。

 かくして、ダンジョンは攻略されたのであった。

 僕ははじめてダンジョンを攻略した……いや、それは誇張しすぎでした。

 そうだな。はじめてダンジョンを攻略する現場に立ち会ったのでした。


「あっけなかったですね……」


 呆然とする僕に、立川さんは獰猛に笑った。


「朝食までに戻らにゃならんだろ?」


 時刻を確認するすると、六時少し前であった。




 ダンジョンが完全に攻略されきったと認識したのだろうか。

 甲冑の魔力が発散しきると、木造であったはずの四階がコンクリート製に変わっていった。もともとの建物はコンクリート製だったんだな。

 そういえば、昔ダンジョン特集の雑誌を書くときに、ここの小田原城は『戦国』ではなくて『平成』時代に復元されたものであるとかいう資料を読んだ覚えがある。


 ダンジョンではなくなったので、各階の迷路はなくなっているし、途中の階段もコンクリート製になっているし、そもそも位置自体が変わっている。まあそこは気配という大きな見方があるので、特に迷うこともなく、地上に出て来られた。本当にあっけない。

 感慨深さとかゼロである。

 しかし、宣言どおり二時間以内に攻略を終えるどころか、一時間かからずにダンジョンを攻略してしまうとは。

 立川さんの強さがいかに隔絶しているかどうかがわかる。

 僕が群れに放りこまれなかったのもあるだろうけど。ダンジョンなどというものは『前時代』にはなかったし、それに骸骨にしても、甲冑お化けにしても、もともと人を襲う性質を持っているものだったからだろう。

 立川さんの攻撃に容赦も迷いもなかった。

 車に揺られて、宿に戻ると、朝風呂に入る余裕すらあった。女将さんふぁろうか、新しく用意してあった浴衣に着替えて、少し部屋でだらだらしてから食堂に向かうと、朝食はすでに用意されていた。

 安いビジネスホテルに泊まると、結構、バイキングと銘打った実質セルフサービスの朝食がほとんどなものだから、ちょっとリッチな気分に浸れる。

 昨日と同じテーブルに僕たちの名前の札が置いてあった。

 すぐにそれを見つけてテーブルに向かう。英心さんたちはまだ来ていなかった。


「うまー」


 朝からあじなんて、贅沢たまらん。

 鯵をもぐもぐしながら、幸せに浸る。立川さんも無表情ながら、喜んでいるらしく、ぱりぱりと音を立てながら味付けのりを食べている。


「あれ、早いッスね!」

「おはようございます」

「……す」


 ほっぺたを落っことしそうになりながらしばらくもくもくと朝食を食べていると、『栄光の散歩道』の三人がやってきた。しかし、今のいままでつっこんでこなかったけど、英心さんと浩太さんはいいとして残りの一人はめっちゃ無口だよね。

 立川さんも何も言わないし、二人もなにも言わないから、はじめ、僕だけに見えてるマッチョな幽霊かと思っちゃったよ。

 まあ、触れたからただ単にとても寡黙な人なんだろう。

 いいなぁーマッチョだと、寡黙なダンディーキャラになれるよね。僕が寡黙になったところで、なれるのはせいぜい気弱なネガティブキャラだ。しぶかっこよさとは対極にいる。


「ああ、朝の散歩に行ってきたからな」


 ほっぺにものを詰め込みすぎていて話せない僕の代わりに立川さんが答えた。

 って、それちょっと違う。


「え、お二人で散歩に行かれたんですか?」


 浩太さんがちょっとびっくりしている。僕も、立川さんと僕がなんの用事もないのに、二人で並んで散歩とかしていたら眼球が飛び出ちゃうわ。

 慌てて、口のなかのものを飲み込んだら喉に詰まった。ぐふっ……胸をたたきながらお茶を飲む。

 やっと一息ついて、口を開く。


「違いますよ! 立川さんに連れられて、小田原城を攻略してきたんです」

「え……!?」

「攻略!?」


 浩太さんと英心さんが飛び上がった。

 こちらを信じられない者をみるような眼で見ている。


「といっても僕は道案内をしていただけですけど」

「四階しかなかったしな」


 僕たちの捕捉にも、ぽかーんとしたままだ。

 残りの一名は、黙々とご飯を食べているけどな。本当冷静ですね。ちょっとあこがれちゃう。


「だって、あそこ、スケルトンはともかく迷路ってだけでも進めなくて、オレらなんて一階層までしか行ってないのに、帰るのですら大変だったんスヨ!?」


 え?


「地図をつくったりとかは……?」

「Cランクパーティーにそんな頭脳を求めないでくださいッス!」


 冒険者というのは僕が思っていた以上に脳筋であったらしい。

 この調子だと、日本各地にあるダンジョンにしても迷路のせいでクリアされていないなんてことがありそうだ。

 思わず黙り込んでしまった僕に、英心さんが眉毛を八の字にした。


「ダンジョンのなかじゃスマホは利かないんスヨ? むしろ清水さんはどうやって道案内なんてしたんスカ?」

「僕は《気配察知》ができるから……」


 僕の回答に、英心さんと浩太さんが顔を見合わせた。え、なに? なんですか、その反応。


「やっぱり、清水さんも化け物だったか……」


 浩太さんがぽつりと呟いたわけだが。

 納得いきません。化け物は立川さんだけです。僕は最弱の一般人。

 だって、気配察知くらい結構持ってるひと、いるでしょ?


「普通、《気配察知》だけで迷路を解けるひとなんていませんよ……」


 心底心外だという表情を浮かべる僕に、呆れたように浩太さんが言った。


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