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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
四章 まず旅立ち、島飛び立ち
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29.風雲 小田原城 中編


 立川さんの超人的な脚力によって、開かれてしまった扉がギイと鳴く。

 僕はそれが扉というよりは、このダンジョンが本能的にあげた悲鳴のように聞こえた。だって、立川さん怖すぎるもん。

 眼光がキラーンって。

 僕も悲鳴をあげかけた。嗜虐心にあふれたような獰猛な笑みを浮かべながら、ダンジョンのなかに進んでいった立川さん。僕は扉のわきで震えながらそれを見送ると、慌てて後ろをついて行った。


 小田原城のなかは案の定、真っ暗だった。夏に入る前だというのに、なんだか肌寒い。ぶるりと震えながら、腕をさする。これは僕の体感温度なのだろうか。

 立川さんが挙動不審な行動をとっているわけではないし。

 リュックから懐中電灯を取り出してつける。光源としては弱かったようで、あまり先の方は見えなかった。気配を察知してみると、ダンジョンのなかは迷路のような構造になっているらしかった。迷路のようにぐねぐねと曲がった道幅約二メートルくらいの通路が続いているのがわかる。

 さらには、そこにいくつもの気配があった。

 かなりゆっくり移動しているようだが、迷路のように続く道を塞ぐように配置されている。いまだにダンジョン化した建物がどのような原理で動いているかどうか解明されていないのだが、それにしてもダンジョン化した建物には最奥の『ダンジョンコア』とやらを守るようにモンスターが蠢いているらしいことは判明している。そして、ダンジョンコアになっている物質を破壊すれば、その建物のダンジョン化も解け、普通の建物に戻るのだ。そうやって、ダンジョンコアを破壊することを一般的に『ダンジョンの攻略』という。

 まあ、仕組みはわからないにしても、冒険者はダンジョンの攻略方法さえわかっていればオッケー。そんなもんだ。

 僕ら一般人にしたって、スマホやいろいろな魔道具の仕組みなど全く知らないが仕えてるんだから、同じようなものだろう。


「ここ、迷路構造になっていますね」

「ほう、お前の《気配察知》のスキルはダンジョン内の構造まで把握できるのか。便利だな」


 立川さんが感心したように言った。珍しく素直に褒められると、何か裏があるんじゃないかと恐ろしくなるが、褒められて悪い気がしないのも確かだ。

 便利な人型不思議道具、それが僕である。さすが僕。

 僕は胸を張って追加の情報を話す。


「こっちから右側の方に、上階にのぼるはしごがあるみたいです」

「そこを目指そうか」


 僕の有益な情報は、提案として受け入れられた。

 そんなわけで僕が先導して進む。歩き出すと、床がコンクリート製であることがわかった。……なんだかちょっと残念な気持ちもする。だって、ダンジョンって言葉の響きからして、床はむき出しの土とか岩とかそんなイメージがあったからね。それがコンクリートとか……なんだか一気に現実味が襲ってくる。

 立川さんならモンスターを倒すのに苦労はしないだろうから、あまり神経質に避けたりはせずに進んでいくことにする。

 しかし、僕とパーティーを組むまでは立川さんはずっとソロだったはず。

 ダンジョンを攻略したことのあるような口ぶりでさっき話していたし、それまではどうやってダンジョンを進んでいたのだろうか。立川さんはスキルの影響でまったく気配は察知できないはずだから、モンスターをよけて進むなんてできないだろうし、しらみつぶしの方法をとるにしたってかなりの労力を消費するはずである。……もしかして、立川さんのレベルが年齢の割に異常に高くてめっちゃ強い理由ってそれだったりするのだろうか。

 驚愕の真相にたどり着いてしまった……!


「今までってどうやってダンジョンを攻略してたんですか?」


 気になりすぎて思わず尋ねる。


「まあ適当に、虱潰しだな」


 ――やっぱり虱潰しだったー!


 何気なく返って来た立川さんの答えは予想通りのものでした。おいらそれにしてもびっくり。立川さんの性格からして地図をいちいちつくることもないだろうし、本当に『適当』に進んでいったのだろうな。出会ったモンスターをばっさばっさとなぎ倒す鬼神のような立川さん……。

 想像するだけでやばい光景です。さすが立川さん。ぶれない。


 コンクリートの床なだけあり、通路内には僕たちの足音や布擦れの音がよく響く。いや、それは正しくない。立川さんの足音が響く。僕には《隠密》のスキルもあるし、そもそも軽装なので足音などほとんどならない。

 まあ何が言いたいかというと、それだけ音が響きやすい構造をしているということである。

 同時に、前方からもカタリカタリという何か硬くて軽いものがぶつかるような音と、金属が擦れる音が響いてきた。僕の気配察知によると、それはやたら細っこい(・・・・)人型をしていた。


「立川さん、おそらくスケルトンが三体、前方にいます」


 僕はその報告だけすると、おとなしく立川さんの後ろまで下がった。 

 宿からそのまま直行してきてしまったので、ギルドで除霊の魔道具を借りてくることもできなかった。物理的に動けなくするしか倒す方法はない。立川さんの圧倒的な破壊力頼みなのだ。

 除霊の魔道具があったとしても、どうせ僕は攻撃力ゼロだからできることなんて何もないけどね……。

 それに、群でいるというわけでもないし、僕がいつも立川さんにやらされているように回避盾の役割をやるわけにもいかない。たぶん、スケルトンの三体くらい剣の一振りで薙ぎ払ってしまうだろう。


「カタタ……」


 ややあって、目の前に現れたスケルトンは、スケルトンというより、骸骨といったほうが当てはまるような様相をしていた。

 なんたって、古代日本の『戦国武将』とやらが着ていた鎧を装備していたからである。もっとも、その鎧は赤色の染色してもほとんど劣化して消えかかっているし、途中でちぎれていて防具の役割をしていないような有様ではあるけれども。

 ぼろぼろに刃こぼれした日本刀を抜き身で装備しているらしかった。


「カタッ!」


 僕らの姿を認識した骸骨たちが歯を打ち鳴らしながら、一斉にこちらに向かってきた。


「ふっ」


 立川さんが剣を右手で振るうと、その横薙ぎの一振りで三体のスケルトンは左に吹っ飛んでいった。そして壁にぶつかり、粉砕。

 あっけない……。

 そう、まさに想像通りのお姿であられた。おそろしい。

 こんなとき思うのは、普段僕は敵の群のど真ん中に投げ込まれて、撹乱をさせられているわけだが、立川さんにその役目は必要ないんじゃないかなぁ……という疑惑である。

 まさか僕に対するいやがらせなんじゃないかって。はっはっは。そ、そんなことないよね? ないと言って?





 それから、順調に骨を骨粉に変えながら進んでいった。

 一般にゴーストやレイスと言われる種類のモンスターは避けていく。立川さんなら何とかしそうだけど、いまの僕たちには対抗手段がないからね。

 魔道具もないし、魔法を使える人はいない。

 もし僕が魔法を使えたとしても攻撃力はゼロなのでどうせ意味がない。

 それに、立川さんなら《強者の余裕》のおかげで精神攻撃に引っかかることはないけど僕は無防備なピュアハートのままなのだ。とっても怖いのである。


 そんなわけで、ゴーストを避けるのに微妙に時間を浪費した気がしないでもないけど、十分もかからずにダンジョンに入って最初に見つけたハシゴまでたどり着いてしまった。

 しかし、気配からハシゴだと判断していたけど、実際に発見して目視してみると、これは随分と急な階段であるようだった。しかも木製でほとんど崩れかかっている。魔力的なものは感じないので罠というわけではないみたいだけど……。


「階段だな」


 立川さんに言われてしまった。

 はい、すみません。ハシゴじゃありませんでした。一応、中抜きの階段でした。

 でも、上の階に行くためのモノには変わりないんだから、問題ありませんよね?

 ね?


 階段の脇に立って、上を見上げている立川さんに向かって内心で言い訳をする。

 しかしまあボロボロである。これに体重をかけて大丈夫なんだろうか。壊れないのだろうか。


「使ったら壊れませんかこれ?」


 階段をおそるおそるつつく。幸いに板が崩れて指先に木屑が付いてきたりすることはなかったが、それにしたってひどい。何しろ、右半分しか残っていない段とかがあるのだ。


「あ? ボロボロだが、ダンジョン内の備品は普通にしてたら(・・・・・・・)壊れねえから大丈夫だぞ」

「あの、でも、さっき入口の扉が……」

「普通にしてたら大丈夫だって」


 立川さんの脚力は普通でなかったらしいと本人が認めた。


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