24.そのワケ
風呂あがり。
また僕たち二人は『栄光』の三人と合流して、車へ乗り込んでいた。
え?
僕たちが温泉に入っていた間、三人は何をしていたかって?
何やら三人曰く、こんな森の深いところで素っ裸になれるか、だそうで。ええ。
確かに防具も武器もない丸腰状態になるわけですしね。
でも最初から防具をつけたところでスズメの涙程度の防御力なうえに、武器を持ったところで攻撃力ゼロの僕に死角はない。
立川さんは、たぶん素手でこのへんの魔物なんて引きちぎれるから大丈夫なのだと思う。立川さんの言うことには、この神社跡地にはあまり魔獣は近寄ってこないのだとか。
『人間を殺せ』という何者かの声を防ぐ封印の力は破壊されてしまったが、もともと清浄な土地であるので魔獣たちは神社や寺の跡地をあまり好まないのだという。
長年記者をやってきた僕でも初耳な情報です。
しかし疑っているわけではない。何しろ立川さんは当の魔獣本人からインタビューした猛者なのである。
他にも新情報が続々と出てきそうだよね。
帰ったら絶対立川さんをインタビュー漬けにしてやるんだ。質問責めで部屋に缶詰にしてやるんだ。
こんなところにいきなり連れてきた仕返しである。
地味とかいう声は聞こえない。……だって、僕に立川さんに対抗できる手段なんてないんだもの。
「ホントに送ってもらっちゃっていいんですか?」
僕が自分の考えに地味にショックを受けながら、黙々と運転をしていると後部座席から英心さんが話しかけてきた。僕はバックミラーでチラリと英心さんの様子をみると、遠慮がちな表情で所在なさげに佇んでいた。
さて現在向かっているのは、神奈川県南部の片田舎にあるとかいう彼らの拠点だ。
助けてもらった上、送ってもらうというのは申し訳ないらしい。英心さんはさっきもそう言っていたし、 今もその筋肉でムキムキな身体を精一杯縮こませていた。
それでも僕より全然大きいんだけど。というか、普通にどデカイんだけど。
英心さんは、大きな身体に見合わずとても遠慮がちで謙虚であるらしい。立川さんと大違いだ。
彼の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
「いいんですよ! まだ行ったことのないところですし興味があるんです」
「オレらも暇しているしな」
珍しく立川さんが空気を読んだ発言をした。
彼らをフォローするような発言だ。
僕は自分の耳を疑うあまり、思わず立川さんの方に視線を向けてしまった。
「……なんだよ?」
案の定立川さんには訝しげにそう言われてしまうが、だって今日の立川さんはおかしい……いや、そんなことはないか。
普段から僕以外には割合まともな常識人っぽい行動をしてたかもしれない。
僕はがっくりと肩を落とした。
「それじゃあ、ただ送っていただくだけだと申し訳ないので何かご馳走させてくださいよ」
身を縮こませている英心さんの横で、いたって平常心らしきなにくわぬ顔で座っていた浩太さんが口を開いた。
どうやら彼は英心さんと違って図太い神経を持っているらしかった。これで彼らのパーティーはバランスが取れているのかもしれない。
「いいですねぇ……観光っていうのもなかなかしませんし、いいんじゃないですか?」
「そうだな。冒険者の特権だってのにまだやってなかったし、割と楽しみでもある」
「コイツん家が宿屋やってるんで、ぜひ泊まっていってやってください」
「是非是非!」
冷静に提案してくる浩太さんと興奮して首を上下に振り回している英心さんのギャップがすごいが、好意は嬉しい。
新聞記者なんて職業やってると感謝される、なんてこともとても珍しいわけで。
なんだかむず痒いです。
しかし、立川さんの同意も得られたことだし、英心さんのご実家を目指すとしよう。
「あ、ここの道を左です!」
頷きながらアクセルを強く踏もうとしたところ、後ろからご指摘。
……立川さんを散々バカにしたけど、僕だけで来ても迷子になっていたかもしれない。
◆
神奈川県近辺の地図↓
そんなわけで英心さんの案内で到着したのは、小田原である。
小田原といえば、温泉地。
それかかまぼこってイメージがある。
しかし富士見の温泉に入ってからすぐに次の温泉地に来ることになろうとは。
まあそれはいいんだけど。だって僕らが送ってこなきゃ彼らがこの町に帰ってこられるのはいつになったことか。
それに、小田原に興味があるといったのも嘘じゃない。
僕だって記者として色々調べている間に小田原の情報はたくさん知っていたのでかなり気になっていたのだ。
例えば、もういまは日本全国で妖怪と化している『提灯』がその昔小田原で作られたものらしい、とか。
後はめっちゃ大きい古城があるとかね!
前時代の後期に造られたらしいのだけど。残念ながら古代にあたる“戦国”とか“江戸”時代に造られたものではないのだ。
それでも充分にすごいよなぁ。
だってめっちゃ大きい。
今は何やらダンジョンと化しているらしいんだけど……。ってあれ。
立川さんがここについてから、やけに楽しそうにしているのですが。
気のせいかな?
「そういえば、ここらへん『小田原城』に『旧博物館』にと実は色々あるよな」
気のせいじゃありませんでした!
ニヤリと笑った立川さんの発言で確信する。今日は何故か『栄光の』のパーティの方々に気が使えるんだなぁ……槍が降るなぁとか思っていたら!
自分の目的のために、自分が小田原に来たかっただけなんじゃ……。
「もしかして……」
僕が若干後ずさりながら呟くと、立川さんはニコリと笑った。
「せっかく来たんだから、な?」
「え……ほら、せっかくですしゆっくりしましょうよ」
「な?」
立川さん、とってもいい笑顔ですね。
「……はい」
僕に頷く他はなかったのだった。
ぐう。
どうも、こんにちは。クズです。
気が付いたら3ヶ月も経っていました。
それでも読みにきてくださった貴方に多大なる感謝を。
ぼちぼち投稿していけたらと思ってます。




