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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
三章 意味加味恨み
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22.フジミの湯 後編


「俺は、ここでモンスターに育てられて育ったんだ」


 立川さんが真剣な顔をしてそんなことを言った。


「え?」


 僕は聞こえてきたあり得ないことに、思わず自分の耳を疑ってしまう。

 そんな僕の様子には、立川さんも想定内であったようだ。

 わずか苦笑を漏らすと、また真剣な表情に戻って口を開いた。


「信じられないといった顔だな。事実だ。俺は年を重ね人型に化けることができるようになった《野犬》……いや、元ペットの柴犬に育てられた」


 世の中の常識からはにわかに信じがたい話だ。僕だって、普通に聞いていたら立川さんが珍しくも冗談を、なんて笑っていただろう。

 でもできなかった。冗談と捉えるには、立川さんはまっすぐに僕を見つめてきていたから。

 立川さんはドSだが、底意地の悪い人間ではない。性質の悪いことはしない人だ。人の信念を踏みにじるようなことはしまい。

 僕はどうやらいつの間にか、立川さんを心底信頼し切っていたらしい。


「え、どうやって……」


 どう聞いても困惑した声が僕の口からは漏れたが、それはその立川さんの話を真実としたら、と出てくる疑問であったのだ。

 これは自分でも意外だった。

 だって、立川さんってば僕を無理矢理冒険者にしたような人なのだ。

 そんな最悪な出会いからスタートしているってのに、仮にも元新聞記者の僕はその人柄・・から情報を信じようとしているだなんて。

 僕の困惑しきった声に、立川さんは口の端だけ器用にあげて笑った。


「さぁな。俺はどうやら捨て子だったらしいぜ」

「違いますよ! ど、どうやって育てられたんですか? 普通モンスターと言えばこちらの姿を見るやいなや襲いかかってくるじゃないですか! ……もしかして、突然変異ですか!?」


 わざとなのか、そうでないのか。

 スキルのせいもあって本気で分からない立川さんの台詞に全力でツッコミつつ、僕は立ち上がった。

 ザバンと、浴槽の湯が揺れる。白い煙が立ち上った。

 ちょうど跳ねた湯を腕でカバーしながら立川さんは答える。


「突然変異と言えば突然変異であったのだろうな。そのモンスター曰く、彼はたまたま神社まで逃げおおせた故に、操られる(・・・・)ことがなかったらしい」

「どういうことですか?」

「つまりだ、この地球にある日突然モンスターが湧き出た日があったろう」

「復活点、ですよね?」

「そうだ。そのときのモンスターは現れたものだけではなく、既存の何かが変質させられたものもあったのだ。俺を育てたモンスターはその日『声が聞こえる』ようになったのだと言う。そして、彼はその声に従いそうになったところ幸運にも神社の敷地に入った途端、聞こえなくなったのだそうだ」


 僕が記者時代に集めた情報と比較をしても矛盾点はない。

 そのような古典史料はかなり残されているのだ。『復活点』のとき、動き出した化石や復活した妖怪やモンスターのほかに、既存の動物が突然、恐ろしい怪物に変貌してしまったのだという日記史料や公文書が残されており、『復活点』を境にモノに影響力を与える何か(・・)が世界中に広まったのだろうという学説は一部で提唱されている。

 感情の面でも、理性的な判断でも、立川さんの話は嘘じゃないと僕には思えた。

 

「……つまり?」


 だからほぼ確信を持って、立川さんに結論を促す。

 立川さんはぐっと真顔になって言った。


「モンスターは自分たちの意思で人間を襲うものばかりではない、ということだ。『人間を殺せ』という謎の声に従わせられている」


 いろいろ考える。被害者を殺してきてしまったのか、とか。

 しかし、そこで気がつく。

 いや、僕攻撃力ゼロだった! 

 生まれてこのかた、なにぴとたりとも殺したことなかったわ……。


「だから俺は、復活点以前の『前時代』に人間を襲わなかったような生物を殺すのを、躊躇ってしまうんだ。……そして、何よりお前を追いかけて無理矢理にでもパーティに入れたのは」


 あ、無理矢理って自覚あったんですね。


「モンスターを殺せないだろうからだったわけだ。……いや、殺さずに旅を続けられるだろうと思ったから、が正確だな。俺はそんなクソッタレな命令を出してる奴をぶっ飛ばすことを目標としている」


 ――――でも、そろそろ一人では限界を感じていたんだ。

 立川さんはそこまで言い切るとニヒルに笑った。


「お前には悪いが付き合ってもらうぜ」

「何言ってるんですか。ついていきますよ、立川さん。だって、僕たちは『|add and halve.《足して2で割る》』じゃないですか」


 男前な顔をニヒルに笑いながらも情けなく少し諦めの表情を浮かべる立川さんに、僕に少しでも罪悪感でも感じているような立川さんに。そして、何だか壮大な覚悟を背負って孤独なヒーローを演じようとでも言いそうな顔をする立川さんに。

 僕もニヤリと笑った。


「それに、僕はこれでも元はとても優秀な記者だったんですよ? 情報収集ならどんと来い、です」


 僕は死なんてシリアスのつくれない、攻撃力ゼロの星に生まれた新聞記者……もとい立川さんに寄生するへっぽこ冒険者なのだから。

更新が非常に遅れてしまって申し訳ありませんです。しかも文字数少ない。キリが良かったんですよ!

それでも読んでくださる寛大な読者様に、最大限の感謝を!


次話はすぐ投稿します。


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