16.今日の運勢は?
少なくとも僕の今日の運勢が最悪だということはわかっている。
星座占いならもうぶっちぎりの12位だ。今日のアドバイスとかもらえちゃうに違いない。
何たって朝も早よから立川さんによる突然の拉致! そして富士山という指針があればと希望を持ったにも関わらず立川さんの運転の荒さにより森で遭難! モンスターに襲われる恐怖に精神を削られながらもさ迷い続ける運命に僕たちはおかれることに!
――って全部立川さんのせいだよ!
運勢とかそれ以前の問題であった。本当ひどいよ! ありえないよ!
まあ当の本人も、さすがに僕が責めなくてもいいくらい落ち込んでいるからよしとしよう。ほら、いまも僕に運転を任せて膝を抱えて沈み込んでいる。
僕は心の広い男なのである。きゃーいけめん! と黄色い声をあげてもいいんですよ?
でも神様は僕たちを見捨ててはいなかったらしい。
「立川さん!」
僕は声を張り上げて車の速度を一気に上げた。
そう、僕の《気配察知》がなんと気配を捉えたのだ。
それも、人間の!
「人間がいますよ!」
「なに!? 本当か!」
立川さんも立ち上がって喜ぶ。そして僕がハンドルを切った方向を見ているみたいだ。
気配があるのは10km先だから当然見えないのだが。
それはまさしく一筋の光として僕たちの眼には見えていた。
なぜならこの近くを歩く人間の姿がある。それはつまり、迷子からの脱却を意味しているからである。
「やっふぅうう!」
僕はアクセルを全開にした。
実は本当は走った方が早いなんてことがあったり。うん。
まあ主に僕の体力が持たない、とか荷物の持ち運びとかそういう問題から車なんだけどね。
今は車を降りてさっさと走り出したい気分だ。
だが、立川さんを放っておくと何かまた恐ろしいことが起きそうなので、それはやらない。
立川さんには何もさせず車の助手席に縛りつけ……固定していられる環境にいないとね。またひとりで暴走して迷子、とかになったら大変である。
ということで、僕の走る全速力よりは随分と遅い車の全速力で、えっちらほっちら気配の方向へと向かうのであった。
◆
森を全速力でかっ飛ばしていくというのは案外難しい。
まず、道が舗装されていないのでガッタンガッタンと車が揺れる。ついでに視界も揺れて周囲の景色の把握が難しくなる。
更に森の中なので当然木々が生い茂っており、それが視界を遮る障壁となってことごとく視界の邪魔をしてくる。
そんな森の中を全速力で走れるのはひとえに僕の【俊敏値】から来る、恐ろしいくらいの動体視力と反射神経のおかげである。
しかし、だからといって走っているのは僕の身体自身ではなく、僕たちの乗っている車だ。
途中の左右の切り替えの運転まではいいとして。
問題はブレーキである。そう、巨体ゆえに車はブレーキを押してから止まるまでに、僕の身体で同じ速度を出しそれを行うときより、より長くの距離を使うのである。
なぜ今こんなことを考えているかって?
それはだね……
「そこのお兄さんたちぃいい! 逃げてぇええ!」
そう、嬉しさのあまりアクセル全開で走っていたらブレーキを踏むタイミングを見誤って、僕はいま目標である冒険者らしき『気配』に思いっきりぶつかりそうになっているのである。
いや、この表現は正しくないな。
思いっきり彼らを轢きそうになっているのである。
と、僕の加速した思考のなかで考えているのだが、もうお兄さんたちまでの距離はほとんどない。というか目の前だ。お兄さんたちも必死に何か叫びながら足を前に進ませようとしているのは見えるのだが、どうにも間に合いそうにない。
ああ、終わりだ。
僕の冒険者生活も、新聞記者生活も、そして彼らの生命も。
なんてことをしてしまうんだろう。嬉しさにかまけて注意不足で人を殺してしまうなんて。
彼らにも明るい未来があっただろうに。愛しい人もいただろうに。
僕はそのすべてをぬり潰してしまうのか。
僕は次には視界が真っ赤に染まるだろうことを予期して、思わず目をぎゅっとつぶった。
「……」
……?
「……ん?」
しかし、待てど暮らせどボンネットが何かに当たるような衝撃は伝わってこない。
まさか。あれからお兄さんたちは僕を超えるような速度をもって、車の前から逃げおおせたというのか。
おそるおそる目を開けると。
そこには信じられない光景が待っていた。
「あれ?」
「生きてる……」
僕が小さく呟いたのと同時にお兄さんの一人が呆然と言った。
そう、お兄さんは確かに僕の運転している車のボンネットに当たったような格好で止まっているのにも関わらず、なぜか無傷なのである。もしかしてお兄さんたち、とてつもないHPを保有している高ランクな冒険者様集団であったりしたのだろうか。
しかし、それならばお兄さんが呆然と言った言葉の意味が分からない。
びっくりしたように生きていることを確認しているならば、自分にそこまでの頑丈さはないと認識しているだろうということだ。
「どゆこと?」
思わず首をかしげた僕に立川さんが呆れた目で言ってきた。
「お前のゴミステータスもこういうときには役に立つんだな……」
「――――!」
一気に理解が及ぶ。
そうか! 僕の攻撃力はゼロ!
そして、僕の運転しているこの自動車は僕の武器だとみなされたわけだな?
だから僕がこの車でお兄さんたちを轢いてもなんらダメージは与えられなかった、と。
いまだに呆然として固まっているお兄さんたちを尻目に僕たちは納得の表情で頷き合うのであった。
お久しぶりな上に超短いとかいうアレですが、お読みくださりありがとうございます。
2014年中に一話くらいは投稿したいというアレでした。
アレなんです。
2015年もよろしくしてくださると嬉しいです。




