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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
二章 冒険者いけんじゃん
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13.原因発覚

 僕は立川さんを引き連れて森に戻ってきた。

 街の中にある林のようには、手入れのされていない森だ。もう朝になり、日が昇ったといっても森の中は若干薄暗い。

 僕は危険察知があるので、周りの様子がわかるからマシだが、立川さんはどうだろう。

 気になって立川さんの方を見てみれば、堂々とした佇まいで不安など一切感じていないように土を踏みしめ歩いていた。

 そうだ。立川さんには《強者の余裕》という地雷スキルがあるのだった。薄暗い森の中が不気味でちょっと怖いな、と思って僕ひとりがびくびくしてしまうのは僕のビビリゆえではない。単に立川さんが特殊なだけなのである。


「《小豆あらい》らしき気配が感じられないって?」


 そんなことを思いながら立川さんを観察していると、ちょうどこちらを見た立川さんと目が合ってしまった。僕のその視線に立川さんは何を思ったのか、事実確認を話題に話しかけてきた。

 なんか気遣われているような気がする。何と言うかこれは、あれだな。ホラー映画を見てしまった子どもを前にしたお兄さんのような態度で……って違う。僕は決してビビッてなどいない。きょどったりなんかもしていないはずである。


 このまま黙っていてもしょうがない。僕はビビッているのではなく、いかにも周囲の探索をしてました風にゆっくりと口を開いた。


「しょ、小動物の気配しかしないんです」

「オレはまったく気配とか感じられないからわからないんだが、それはお前の感知できる範囲にいまちょうどいないというわけではないのか?」

「違います。僕の感知できる範囲にいないなら、小豆あらいなんて雑魚がわざわざ人里に現れているはずがないんです」


 ちなみに僕のスキル、《気配察知》のレベルは化け物レベルと言われる4だ。

 そして、その察知の範囲は化け物の名に相応しく、半径10kmである。

 半径10kmというのは、《小豆あらい》といったそこまでの強さを保持しないモンスターの縄張りよりずっと広範囲だ。そしてそんなモンスターはわざわざ縄張りの外には出張ってこない。

 つまりは、このあたりには《小豆あらい》がいない、とそういう意味になる。

 もしくは、だ。


「あるいは僕の気配察知に対抗できるレベルの隠密能力でもあるとかですかね?」


 僕が可能性を声に出していうと、立川さんはあからさまに顔をしかめた。


「もし、そうだったら、この依頼、達成できるか? めんどくさいなんてレベルじゃねえぞ」


 立川さんの言葉に僕も深く頷いた。世間ではスキルのレベルをひとつでも上げられていれば達人と言われるくらいなのである。

 僕の攻撃力ゼロという代償にバグッたような数字のスキルで察知できないとなれば、それは恐らく化け物以上の何かだ。倒すなんてとんでもない。

 ということは倒す以外の方法で依頼を達成せざるを得なくなる。その方法は現時点ではまったく思いつかないし、思いついたとしてもそれがものすごく手間であることくらいは想像できる。

 おそらく、依頼も失敗してしまうだろう。


 絶対ないとは言い切れないが、そんな可能性はないに等しいと言える。

 というわけで、小動物らしき気配しかしない、この森の現状はどこからどう見ても不自然で不審なのである。


「やっぱ、依頼主の方が怪しいのか?」


 立川さんは呟いた。それは僕も思っていたところだ。でも、もしそうなら正直言って目的がまったく見えない。

 だって明らかに金の無駄使いだ。ここにすごい強そうなモンスターの気配があるならまだしも、小動物っぽい気配しかしないのだから、それを倒してもらいたいという狙いがあったとしてもわざわざ《小豆あらい》と指定して支払う料金を吊り上げる必要はない。


「まあ、とりあえずもう少し探索させてください」

「おう」


 え? 探索に立川さんを呼んだ理由?

 あまりにも森が不気味だったとかそういうわけではありません。ええ、決して。

 






 それからしばらく森を歩き回ったが、やはり小豆あらいらしき気配は掴めなかった。

 モンスターらしき気配もあることにはあるのだが、そのどれもが小動物程度の大きさしかなく、小豆あらいのような人型のモンスターは発見できなかった。

 朝早いこともあって、まだ森に人影もない。

 人型の気配は人間ですら見つけられなかった。


「本当にどういうことなんだ?」


 さすがに立川さんも険しい表情。

 僕も眉を下げるしかない。僕ってば逃げ足以外には気配を探るくらいしか能がないのに、その気配察知すら役に立てないとは。

 これでは本当の寄生じゃないか。

 なかなか察知できない気配にやきもきして汗がだらだらと出てきたときだ。


「あれは――なんだ?」


 立川さんが遠くを見つめて不審そうな声を漏らした。僕は慌てて立川さんの視線の向く方を見る。こっちの方向には小動物の気配しかしないんだけどな……。

 不思議に思いながらもそっちを見た瞬間、僕は固まった。


「ひひひ、ひっ!」


 だって、そこには青く輝く火の玉が……!!


「人魂がぁああっ!」


 思わず叫んでしまった僕を誰も責められないだろう。なんたって今は朝だ。

 誰が、誰が幽霊的なモンスターがいると予想できようか!

 何度もいうけど、僕がビビリとかそういうわけじゃないから注意。


 気付けば立川さんの背中に張り付いて隠れてしまったけれど、人間そういうこともある。これは、偶然だ。

 僕は危機管理能力が動物並みにあるので、常に逃げられる体勢をとっているだけなのだ。


「いや、待て。あれは人魂じゃない」


 立川さんの影に隠れて震える僕に立川さんは安心させるような声をかけてきた。


「へ?」

「三尾だ」


 その言葉に立川さんの背中ごしに恐る恐る、青白い炎の方をよく見てみると、そこには可愛らしいキツネがいた。確かにしっぽも3本あって、その名前のモンスターの特徴をきちんと持っていた。

 三尾。

 《三尾狐》というモンスターの俗称だ。そのモンスターの得意技は、幻術。

 人を積極的には襲うことはないが、幻術などを使っていたずらというか、嫌がらせをしてくることで有名なモンスターだ。

 僕だけが人魂に見えて怯えてしまったのは、きっとあの三尾狐が幻覚で精神攻撃をしていたに違いない。

 こんなときには立川さんの地雷スキル《強者の余裕》が役に立つんだな。

 《強者の余裕》のスキルがあれば精神攻撃は防げるのだ。


「くそぉ……あんな雑魚モンスターにぃ……」


 僕はぎりぎりと歯軋りをした。

 すごいしてやられた気分だ。すました愛らしい表情もドヤ顔に見えてきてむかつく。


「狩るか」

 

 同じことを立川さんも思ったのか、低い声で呟いた。


挿絵(By みてみん)




「これで解決とか……」


 帰りのバス。僕たちは溜息をついていた。


 結局僕たちが《小豆あらい》に出会うことはなかった。しかし、依頼は達成。

 何故かというと。


「まあいいじゃねえか。《小豆あらい》の討伐賞金を小動物の駆除でもらえたんだから。儲けモンだと思っとけって」


 そう。原因はキツネであった。

 化けたキツネがいたずらをしていたのだ。それで住民たちの証言にバラつきがあったらしい。

 というわけで、狐を狩りまくって依頼は完了。


 立川さんの言葉も最もであるのだが、何だか釈然としなかった。

 だって、はじめての遠征だったのだ。


「なんだかなぁ……」


 僕は微妙な表情でバスの車窓から遠くを見つめた。



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