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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
二章 冒険者いけんじゃん
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12.依頼の謎

 バスが発車してからは特に会話もなかった。僕の《気配察知》のスキルでも強そうなモンスターの接近は確認できなかったし、本当に東京行きの交通路は比較的安全なのだろう。

 噂によると、栃木茨木あたりの『ロマンチック街道』とやらを走るバスでは、常に護衛の冒険者が乗っており、1時間置きにモンスターとの戦闘があるとか何とか。バスにもバズーカとか鉄砲とか色々搭載はされているのだけど、あまりに接近されるとそういう飛び道具は無力だからなあ……。

 車全体を覆うスタンガンみたいなのも開発はされているらしいけど、民間で運用するにはまだまだバッテリーが足りないような代物だとか。


「無事についてよかったな」


 檜原村駅にて降車後、笑顔でそう言った立川さんだが、バスの中ですっかりお姉さんと打ち解けて、降車してしまうのをえらく惜しまれていた。

 くそ爆発しろ。

 思わず立川さんを睨みつけると目が合ってしまった。そして、僕の心境を見透かしたようにニヤける。


「むむむ……!」


 ぐっと握ったこぶしをゆっくり下ろす。そう、僕は攻撃力0。

 ここで立川さんを殴っても蹴っても何のダメージも与えられず僕が疲れるだけなのだ。空しくなる。

 そんな僕の思考すら読み取ったのだろう。立川さんが更に笑みを深めた。


「ぐっ……と、とりあえずギルドに行ってきてください! 僕は宿の予約に行くので!」


 誤魔化すように叫んだ僕は村の中央部に向かう。空は少し暗くなってきていた。時刻は5時ちょっと前。依頼の情報をもらっても今日は討伐に行くことはできないだろう。

 夜は視界も悪いし、モンスターも活発化する。

 わざわざ危険を冒す理由もないので、基本的に冒険者であっても夜に街の外に出ることはない。ということで、宿の確保は必然となる。


「わかった」


 立川さんは誤魔化されてくれることにしたみたいだ。よかった。

 ついでに未だに僕の敵地であり続ける冒険者ギルドへの訪問という仕事も押し付けられた。これで少しは僕の心も浮かばれる。


「では、冒険者ギルドの前に集合で!」


 僕はそういい残すと逃げるように駆け出した。







「あ、立川さん!」


 ギルドの前で待機していると、後から立川さんが後からやって来た。ギルドに近い方が早いかと思ったら、意外と時間がかかったらしい。


「何かあったんですか?」

「いや、それがな。依頼に関してだったんだが、何か情報が錯綜していてな」

「錯綜、と言いますと?」

「俺らは《小豆あらい》の討伐と聞いてここに来ただろう? それが、目撃談だと痩せこけた老婆だったとか、それはただの人間だったとか、いやあれは普通の小動物だろうとか……色々な話があったそうでな」


 目撃者によって話が違うということらしい。これには僕も唸ってしまった。


「それって依頼自体が嘘だったとか、そういうことはないですよね?」

「いや、近隣住民も本当に困っているようで、依頼金が何度か追加されているみたいなんだ」


 稀に起こるらしいモンスターの駆除依頼においての住民による詐称。

 大体は資金面の問題から起こることらしい。高ランクのモンスターの討伐依頼をするにはそれに応じて金額も高くなっていく。要するに、高ランクの依頼を出す金はないから低いランクのモンスターと偽ってギルドに依頼を出すというわけだ。

 そこで、今回のことを考えるとこの低く見積もった偽装という可能性はほぼゼロだと思える。だって、わざわざ追加料金までするくらいだ。それだけ困っているということだろう。


「どういうことなんだろうな?」


 しかし、すでに依頼はうけてしまった身だ。

 首をかしげながらも、英気を養おうと宿に向かった。







 翌朝、6時に起きると早速問題の河原へ向かった。

 とりあえずの探索である。こういう場面において立川さんは全く役に立たない――むしろスキルのおかげで邪魔になるので、僕だけで先行調査である。

 さて、今回の討伐対象である《小豆あらい》。

 見つけて討伐しようとしてもすぐに逃げる上、一度逃げると当分姿を現さないというやっかいな性質を持っているため、見つけたら一発で倒さないといけないのだ。


「んー……」


 僕は首を傾げざるを得なかった。森の近くには人型の気配がまるでないのだ。感じられるのは、小動物程度のものだけなのである。


「どういうことだ?」


 まさか金を無駄に出してまで嘘はつかないだろう。……と思うのは僕の貧乏性ゆえにだったのだろうか。ランクをわざと吊り上げることで都会から冒険者を呼ばせて嫌がらせとか?

 いや、ないだろう。何故そんなことをしなきゃいけないのか。

 いくら考えてもそれらしい答えは出てこない。

 ひとまず僕は考えることを放棄して何らかのモンスターを探すことにした。頭で考えてわからなかったら身体を動かせ。

 冒険者の鉄則である。


「あ、むう?」


 しばらく周辺の林を探索していると、やけに同じ形の小動物が多いことに気が付いた。耳がピンと立っていて、尻尾のある四足歩行の40cmくらいの生物。犬か猫か。そんな感じの気配がしている。

 なぜだろう。

 普通人里に近い位置に動物は縄張りを張らない。

 それが警戒心の強そうな小動物がこんな民家の裏の林にこの数居るだなんて絶対何かある。

 よし、見に行こう。


 僕は《隠密》を意識して発動させると、《気配察知》が感知する方向に向かうことにした。







「立川さん」


 僕が探索から戻ると立川さんはすでにロビーに居た。脚を組んでソファーに座る姿はすごく偉そうだ。ヤのつく職業の方と言われても納得できてしまう。

 僕は立川さんのもとに駆け寄った。


「おう、どうだった」


 僕の姿を認めた立川さんは眉を上げた。新聞を広げている。ダンディーだ。むかつく。


「それが……」


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