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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
二章 冒険者いけんじゃん
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11.はじめての移動

 そんなわけでやって来たのは、バスの運行会社である。

 僕たちが目指す奥多摩方面は、東京都に属しているものの、その位置は東京最西端になる。そして、当然のように東京の中じゃダントツにモンスターも強い地域となっているため、奥多摩方面に向かうバスの本数は極めて少ないのだ。


「奥多摩方面の? あら、お兄さんたち、運がいいわね」


 バス会社に設置してある検索機能を使ってもよかったのだが、あいにくと僕たちは東京都の地理に明るいわけではなかったので、地名の検索がし辛いということもあり、職員であろうおばちゃんに尋ねてみると、良い回答が返ってきた。


「奥多摩方面に向かうバスはうちでは1本しか出ていないのよ」


 なんという。

 僕たちは思わず絶句した。


「そして、そのバスの発車時間は13:30。あと1時間だったわね」


 そう言ってにこりと笑うおばちゃん。

 本当運が良かった。お昼ごはんを先に食べようか2人で迷っていたのだけど、先にこっちに来ていてよかった。


「奥多摩まではどのくらいかかるんですか?」

「奥多摩に向かうまで各地のギルドがあるところでは少し停まるから結構時間がかかってしまうわ。そうね、大体3時間と言ったところかしらね」

「結構かかるんですね」

 

 僕の質問にもニコニコと癒される笑顔で答えてくださったおばちゃんであったが、その回答はかなり驚きを生むものであった。

 東京と神奈川ってもっと近いものだと思っていたよ!

 そんな僕の表情を読み取ったのか、おばちゃんは首を傾げた。


「2人は冒険者よね?」

「ああ」


 立川さん不思議そうな顔をしながらもおばちゃんの問いに頷いた。


「冒険者なら個人でジープでも買って行けば、2時間くらいでつくみたいよ」


 その手があったか! おばちゃんのナイスな提案に思わず笑顔になってしまう僕だったが、おばちゃん。バス会社の提案としてこれはどうかと思います。

 チラリと立川さんを見れば彼も僕を見ていた。


「どうします? 立川さん」

「いずれはパーティー所有の車も必要だとは思うが……今回は練習も兼ねてるんだろ」

「……あ、そうでしたね」


 忘れていた。思わず素直な言葉を漏らしてしまうと、立川さんには呆れた視線を向けられてしまった。


「お前な。……ったく。まあ俺も最終的に各地を巡りたいと思ってるから、今回の遠征が終わったらパーティーで買おうぜ」


 というわけで、交通手段はバスに決定した。

 僕たちの会話を見守ってくれていたおばちゃんも口を開く。


「じゃ、13:30に4番ホームにおいでくださいましー」


 陽気な声に見送られ、僕たちは拠点にしているホテルに向かった。






「準備は終わったな」


 必需品をリュックに詰め込んで部屋を出ると、廊下には立川さんが待ち構えていた。

 立川さんの方が一足先に荷詰めを終えていたらしい。


「遅れてすみません」


 一応謝っておくと、立川さんは爽やかに笑った。待ち合わせをしていたカップルみたいな会話になってしまったが、そこは立川さん。見事に裏切ってくださった。


「構わんさ。今晩の酒代で許す」


 はい。対価をとられるようで!

 冗談だと思うことにして、僕はアハハーと笑ってごまかしておいた。

 ぐすん。僕だって可愛い女の子と待ち合わせくらいしてみたい。何が悲しくてこんなごつい男と待ち合わせした挙句、酒を奢らねばならないのだ。


「……別に待ち合わせなんてしてませんよね」


 しかし、そこでその事実に気がついた。セーフだ。僕がここで気付かなかったら、あれよあれよという間に、上手いこと立川さんに乗せられて僕が奢る羽目になっていたに違いない。

 証拠に立川さんは小さく舌打ちをしている。


「行こう」


 忌々しい表情で腕時計を見た立川さんは、そのままの表情で歩き出した。


「へへい兄貴」


 僕はとりあえず媚びへつらっておくことにした。ノリは山賊風味である。

 それから、街で一応の保存食を買ってからバス停に向かうと、既にバスが待機していた。


「まだ1時だよな?」


 バスに乗りながら立川さんが振り返った。バスの中はスカスカだが、2,3人はもう乗っている乗客がいる。確かに、まだ発車30分前なのに待機している人がいるとは意外だった。


「日に1本しかないから早めに来たのよ」


 そんなことをガラガラのバスで話していたため、声がもろに聞こえていたのだろう。先客の人に回答をもらってしまった。声が聞こえてきた方に振り返ってみれば、そこにはアラサーになるであろうお姉さんが座っていた。ゆっくりとした癒し系のしゃべり方に、垂れ目が合わさって最高に可愛らしい。しかもボインだ。

 大事なことなのでもう一度言っておこう。

 お姉さんはボインであった。


「そ、そうなんですか」


 気の利いた切り替えしでもできれば良かったのだが、あいにくと僕には女性経験もなければコミュ力もない。何とも残念な返事しか出来なかった。


「姉さんも冒険者なのか?」


 一人自分への落胆で沈んでいると、男前立川さんが追撃をしてきた。これこそ話を繋げる力というやつだ。僕も何か質問でもすれば良かったのだ。


「いえ、違うのよ。でも私は治癒師をやっていてね。故郷に帰るところなの」


 ゆっくりとした口調でそう言うと、お姉さんはうふふと笑った。立川さんにかっこよさでもコミュ力でも惨敗してささくれ立っていた僕の心が癒される。

 ほんわかした気持ちのまま、適当にお姉さんと通路を挟んで向かい側の座席につく。

 足下に荷物を固定できる網があるので、無理矢理そこに荷物を詰め込む。昔は荷物置き場は天井近く座席の上にあったらしいのだが、モンスターから逃げたりとかなり無理な走行をすると、それが落っこちてきて悲惨なことになったらしい。

 そんなことをやっているうちにも立川さんとお姉さんの会話は続く。


「そうか。バスなら他に俺らみたいに冒険者も乗るし、比較的安全と言えるしな。里帰りか?」

「そうなのよ。でもあんまり乗客自体が居ないからいま少し不安になっていたところなの。貴方たちが来てくれて良かったわ。里帰りというか……私は横浜の治癒院で治癒のスキルを使いこなす勉強というか、資金集めを兼ねて修行をしていたの。田舎に帰って治癒院を建てるつもり」

「あっ、その、安心してくださっていいですよ! 立川さん強いんで」


 なんとか会話に割り込んだ僕だったが、若干締まらない感じになってしまった。

 僕の存在をアピールするのに根拠を他人たちかわさんにしてどうするんだ自分。

 いいとこ見せたいのに立川さん褒めてどうするんだ僕。


「あら、そうなの。良かったわ」


 そう言って僕に笑顔を見せてくれたお姉さんであったが、結局僕にはイケメン力がないことの証明にしかならない試みではあった。


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