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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
序章 圧巻事件危険
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プロローグ

はじめましての方ははじめまして。

はじめましてじゃない方はなじめまして。

ヘッドホン侍です。

「ギュアアアアア!!!!」


 黒い鱗を身にまとった体長は2階建ての建物に届こうかという巨大な化け物が断末魔の叫びを上げる。命尽きるという瀬戸際だと言うのに、それを感じさせないくらいの生命力を感じさせる大きな咆哮であった。

 それほどにこの巨竜というのは、圧倒的に強大で凶悪なモンスターであった。

 しかし、それもすでに過去形。

 なぜならその巨体も今ついに地に伏したのだから。それはつまり、この巨竜の死を意味していた。


「……よし」


 そのことを確認した僕は小さくガッツポーズをとった。

 本当はその場で雄叫おたけびをあげて全身を使って暴れ回りたいほどの喜びが全身をかけめぐっているのだが、僕だって馬鹿じゃない。

 こんな深い森の奥で騒ぎ立てるなど、自殺行為であることくらい鼻垂れた小僧ですら知っている常識なのだ。すぐに音を聞きつけて、凶悪なモンスターたちがたかってくることになる。


 こんな獲物もとれたことだし、こういうときはさっさと撤退するのがかしこい。

 というわけで僕は小さくガッツポーズをとると、ニヤリと笑いながら今日の獲物である――カメラ(・・・)を撫でると音もなくその場を立ち去った。







 大スクープだ。


 僕は後から後から湧き上がって来る喜びに笑みを隠せないでいた。最近、冒険者ギルドから偉い高ランクのモンスターの素材が下ろされることが多くなっていたのである。

 しかし、基本冒険者ギルドとは自由と独立の風潮。

 当然、個人の討伐情報など外部の者に教えてくれるはずもなく、一弱小新聞社に記事を売りつけているフリーの記者ルポライターの一人である自分に、そんなことを知るよしはなかったのである。

 しかし、僕だって一応はいっぱしの文屋。

 日々、情報収集は怠っていないのである。個人のランクや討伐情報は手に入れられないとしても、その素材の売買の情報に関しては別。

 高ランクの素材がギルドから卸されることなど、そうひんぱんにあるものではないし、ちょっと市場に出かければわかってしまうような情報である。その上、そんな高ランクのモンスターを討伐できるランクの高い冒険者なども大体名が売れている。必然として、その冒険者が狩ったモンスターの情報も出回るわけであって……。


 そこにあてはまらない素材を探し出せば、当然まだ無名の、もしくは隠れた実力者の発掘に至るわけである。

 冒険者の情報と言えば、老若男女が望むものだ。

 それに加えて無名の実力者となれば国も欲しがる人材であるし、隠れていたとなればそこにロマンを感じて憧れる少年などごまんといる。

 それこそ、21世紀の時代は『スポーツ選手』などという職業に就く者に少年は憧れたというが、いつの時代も『強い男』というのは尊敬の対象なのであろう。


「こりゃ酒が上手くなるなぁ!」


 僕はくっくっく、と喉をならして笑うと今日発売の新聞を酒場のテーブル席で勢いよく開いた。

 これだけ長々と語っていればわかろうというものだろう。

 そう! この僕が! ついに!

 全国の少年の憧れ『無名の実力者』の冒険者の討伐風景の撮影に成功したのである!

 更に言えば、今日がその記事が搭載された記事の発売日であり、記事を売りつけて給料を得た日でもある!

 たんまりとお金も得られたし、これで当分はお金に困るようなこともないだろう。

 僕はホクホク顔で記事を見る。


「謎のソロ冒険者、現る! 大剣を背負った黒髪の勇者、黒の巨竜をソロで討伐する!」


 自分で書いたタイトルをテンションで読み上げた僕は、その勢いのままエールを一気に煽った。


「っかー! かっこいいね! おどろきだね! 今日は素晴らしい日だ!」


 ジョッキを分厚い木造のテーブルに置くと、ガンと良い音が鳴った。


「ああ、そうだな。驚きだな。今日は素晴らしい日だ」


 と同時にガンと自分の肩から良い音が聞こえた。同時に右半身が沈み込む。

 ちょうど酒場の証明は自分の後ろに設置されていたはずなのだが、なぜか今はテーブルにもその照明の光は当たらない。視界に映るのは、何かの影に入ってしまったジョッキとそれを持つ自分の細っこい手だけ。


「あ、あはは」


 ひとりで飲んでいたはずなんだけどなぁ……なぜか背後から返ってきた返事に青ざめながら、油のきれた機械のような調子で恐る恐る振り返ると、そこにはニッコリ笑みを浮かべた黒髪の青年がいらっしゃいました。

 

 これは、オワタ。


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