魔女とお姫様
大きな森がありました
その森には誰も近づきません
そこには魔女が住んでいたからです
魔女は何も悪いことはしていませんでした
しかし、人は魔女を恐れていました
ある日森の中にお姫様が迷いこみました
お姫様はそこで魔女に出会います
よかった、人がいたのね
お姫様は安心して魔女に駆け寄ろうとしました
すると魔女は来ないで、とお姫様から離れます
どうして、とお姫様は首を傾げます
私が魔女だからです、魔女は当然のように答えました
すると、お姫様は笑いました
関係ないでしょう、お姫様は魔女に近づきました
魔女は目を見開いて驚きます
あなたは私が怖くないの?そうお姫様に訊ねました
お姫様はまた笑いました
なぜ怖がらないといけないの?あなたは何も悪いことをしてないわ
お姫様は魔女の手をとりました
魔女は初めて人に触れました
その手はとてもあたたかくて、魔女はぎゅっとそれを握りかえしました
魔女とお姫様はそれから友達になりました
魔女はお姫様が森にやって来ることが毎日とても楽しみでした
しかし、ある日、お姫様はパッタリと来なくなりました
魔女は心配しました
何があったのか知りたくて、森を出ようとしました
けれど
どうしても外の世界が怖くて、なかなか勇気が出ませんでした
数日後、ようやくお姫様が姿を現しました
お姫様はとぼとぼとうつむいてこちらへ歩いてきました
魔女は安心してお姫様に近づきます
すると、お姫様は手を触れる前に魔女から距離をとりました
どうしたの?魔女はお姫様の行動が理解できませんでした
お姫様はうつむいたまま声を発しました
あなたのせいで、私の両親は死にました
魔女は目を見開いてかたまりました
お姫様は顔をあげました
その顔は今にも泣きそうです
あなたが、私の両親に呪いをかけたんですね?
お姫様は泣き出してしまいました
ちがう、魔女はそう言おうとしてお姫様に手を伸ばします
お姫様はその手を避けるようにまた一歩離れると、魔女をキッと睨みました
その目は涙に濡れて憎悪と恐怖が入り交っています
魔女は頭が真っ白になりました
何も理解できなくなりました
悪いことはなにもしていません
ましてや、お姫様の両親を呪い殺すなんて考えたこともありません
ああ、と泣き声をあげてお姫様はうずくまってしまいました
魔女はそれを見て伸ばした手をおろしました
言いたいことはたくさんあります
私はなにもしていない
なぜ私が呪ったと思うんですか?
両親に何があったんです?
あなたに何があったんです?
私はあなたが来なくなったときは本当に心配していたんです
これからももっとたくさん遊びたいんです
あなたの手を握りたいんです
しかし、魔女は口を結びました
黙って目を閉じました
私が疑われるのはしょうがない
だって、私は魔女だから
魔女はそれは当然のことだと思いました
目を開けると魔女の顔からは表情が消えていました
魔女は泣きじゃくるお姫様を残して、そこから逃げるように立ち去りました
それから魔女とお姫様は会いませんでした
長い年月が過ぎ、魔女は病気になりました
不治の病です
もう治ることはありません
魔女は初めて触れたあのあたたかい手を思い出しました
もう一度、
もう一度だけあの手をにぎりたい
魔女は横になったまま自分の手を伸ばします
病でほとんど見えなくなった目に涙を浮かべて、魔女は必死で手を伸ばします
その手になにか触れたような気がしました
それはとてもあたたかくて魔女は静かに目を閉じました
魔女が再び目を覚ますことはありませんでした
ここまで読んでいただきありがとうございます。
よろしければ感想などもお書きください。