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七話:虐殺


「うわっ」


体の大きなマリアに目掛けて放たれた矢がそう簡単に外れるわけもなく、無情にもマリアの体に矢が向かう。それに驚いたマリアが体を揺すると、毒矢はマリアの体に刺さることなく体毛に弾かれた。


これは流石に予想外だ。弓矢の効かない体毛って……。本当にこの世の生物か?


「奴に弓矢は効かんぞ!」「剣を使え!刃に毒を塗れ!」「一斉に掛かるぞ!囲め!」


がさがさと最早隠れる素振りは見せずマリアを囲む人間共。その数10人。伏兵の可能性もあるが、弓矢は効かないので関係無い。


『マリア、逃げろ。毒の臭いは分かるだろう!』


「でも……」


俺のことが心配なのだろう。人間に囲まれながらも俺のことを気にしているのが分かる。


『狙いはお前だ。毒を使っているんだから、俺みたいな木を刈るつもりじゃないだろう。っていうか、流れ矢が怖いから、逃げてくれ』


最後のところは切実だ。マリアは多少の攻撃なら体毛で弾けるだろうが、俺には防御手段は何もない。何かの拍子に毒攻撃を食らえば、俺はあっさりと枯れる。俺の体はマリアほど強くないのだ。


うんうんとマリアが葛藤しているうちに、人間の準備が整ったようだ。やはり、手際はあまりよくない。逃げ出すくらいの余裕はあるだろう。


「かかれ!」


リーダー格の男の号令で、毒を塗った剣を構えた男達がマリア目掛けて走り出す。


『マリア!』


「んんー!」


ズドン!と地面を踏み抜き、消えるような速さでマリアが正面の人間に突進する。立派な太い角を持ったマリアの頭突きに反応出来ず、二人の人間の上半身と下半身が分かれる。なんて馬鹿げた威力だ。他の人間も唖然としている。


その隙にもマリアは長い鼻を振るい、人間の頭を打つ。あり得ない方向に首が曲がり、瞬く間に三人の人間がマリアによって葬られた。


更に追撃しようとマリアが身を沈めたところで、俺もやっと我に返る。


『マリア、逃げろ!別に皆殺しにする必要はない!』


俺の言葉に、マリアは鼻を手近な人間に巻き付け、他の人間に投げつけて隊列を乱す。只でさえお粗末だった人間達の連携は、最早あってないようなものだ。誰もマリアに剣を向けていない。


「ごめんなさい!」


何を謝っているのかは知らないが、マリアはそう言い残して走り去る。逃げるついでに倒れている人間の頭を踏み潰して行ったのはマリアらしい。


「お、追え!」と誰かが叫んだが、叫んだ本人も含めて誰も動かない。マリアは無事に逃げきれたと思っていいだろう。今更マリアに追い付けるとは思えない。


獲物も逃し、仲間を三人亡くした人間達は、意気消沈した行動を始める。リーダー格の男はマリアに殺られていなかったようで、怪我人の救護を指示している。


「何だったんだ……あの怪物」


「弓矢が効かないとか、本当に生物かよ」


「見た目はオックスマンモスだったが……」


「あんなデカイの聞いたことねぇよ」


やっぱりマリアは規格外だったらしい。この世界の生物が皆あんなだったらどうしようかと思った。強さがインフレ起こして森なんて吹き飛んでしまう。「本当に生物か?」とは、皆思うことは同じらしい。


あと、マリアの種別はオックスマンモスというらしい。マンモスか。猪じゃなかったのか。いや、猪だと俺は信じる。脚の太さとか首回りとか耳とか、猪だ。


「撤退だ!これ以上被害を出すわけにはいかん!」


リーダー格の男の言葉に、のそのそと動き始める。もうコイツらダメだろ。なんでまだ森の中にいるのにやる気無くしてんだ。何か猛獣が襲って来たらどうする気だ。


三人の死体は置いて行くらしく、懐から何かを取り出していた。恐らく遺品だろう。


「警戒を怠るなよ!」と指示が出ているが、人間達の士気は上がらない。森を舐めすぎだろ。あの怪物じみたマリアでさえ、この森の主にはなれないほど、この森の動物達は危険なのに。


「今ならイケそうじゃない?」「じゃあ行けよ、お前」「皆で一気に行けば……」


ほら、息を潜めていた動物達に舐められた。まぁ、皆ビビりだから実際に動く奴はいないけど。


ずっと静寂を保っていた森が騒ぎ出したことにも気付かず、人間達は7人で隊列を組む。


…………?何故か再び森が……というより辺りが静かになっている。あの人間が隊列を組んだ程度で警戒するものか?


そう思って、無い首を傾げて人間を観察していると、最後尾の男が粉々になった。周囲に大量の血を撒き散らし、べちゃりと汚い音を立てて肉塊が潰れた。


何が起こったのか全く理解出来ない。突然、一人の人間が爆ぜたように見える。


「……は?」


爆ぜた男に近く、その身に大量の血液を浴びた人間は呆けた顔で地面の染みを眺めている。警戒心無さすぎだ。どう見たって敵襲なのだから、何かしらのアクションは起こすべきだ。


その間に、今度は先頭の男が爆ぜた。その光景に、残った5人は反応出来ない。


後は只の作業だった。抵抗も逃亡も、抜剣すらしない人間達は順番に弾けて死んでいく。


それだけ見ても、本当に何が起きているのかわからない。恐らく森の獣が襲っているのだろうが、影も臭いも無いし、辺りの木が揺れることもない。よっぽど速いのか、何か魔法でも使っているのか。それすら予想出来ない。


あっという間に7人のうち6人が肉塊になり、最後にリーダー格の男が残された。血の海の中で呆然と佇んでいる。全く戦意が見えない。


「あぁー、血が付いたー」


頭上から声が響き、見上げると近くの木の上に何かいるようだった。この人間達を虐殺した犯人と見て間違いないだろう。


木から飛び降りた生物は、物音一つ立てずに木の葉の上に降り立つ。一体どういう原理か、乾いた木の葉の上を音も立てずに歩いている。とてつもなく不気味だ。


その生物を見ても人間は何も出来ず、立ち尽くしたまま首に噛み付かれる。あっさりと首を噛み千切られ、頭は獣の口の中に、胴体は血を吹き出して地面に落ちた。


獣はモゴモゴと口を動かし、口からペッと頭を吐き出す。


「マズイ」


よほど不味かったのだろう。歯形一つ付いていない。唾液に塗れ、光を失った人間の瞳と目が合い、気味の悪さに枝がざわめいた。




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