三十九話:転生2
「やっと終わったね。五年間お疲れ様」
と、彼女は言った。
「いつの間にあんな大事に巻き込まれていたんだ」
と俺が言うと、彼女は苦笑して頬を掻いた。
「彼女直々の要望だったからさ。多少の理不尽があったのは認めるから、今回は目を瞑って欲しい」
今度は俺が苦笑する番だった。過去の理不尽は多少どころのものではない。
「もし次があったら流石に許せないな」
「許されなくても実行出来るだけの力が私にはあるんだけどね」
もちろん、もうやらないよと彼女は付け足す。冗談じみた言い方だが、冗談に聞こえないから恐ろしい。
「で、次は俺に何をさせたいんだ?」
「彼女への景品ってところかな。そもそも、それが三代前の彼女の要望だったからね。愛されてるね、甲斐君」
正直、俺には人間だった頃以前の記憶は無いから茶化されても反応に困る。それくらい、ロリ神様だってわかっているだろうが。
「要望ねぇ。三代前の俺は一体何をやったんだか。そんなに魅力的だったとは思えない」
「蓼食う虫も好き好きっていうしね。実際に君の為に私の使いパシリになったんだから、少なくとも彼女には魅力的だったんだろうね」
俺のような健全な青年に向かって"蓼"呼ばわりとは。捉え方によっては褒め言葉に聞こえないこともないが、今は間違いなく貶されている。これだから子供は嫌いなんだ。
「結局のところ、健気な少女の純情を利用してまで何がしたかったんだ?『完全勝利』ってのは何だったんだ?」
「最終目標ってのがあってね。それは秘密だけど、その過程であの世界の確変が必要だったんだよ。つまり、人々の恐怖の象徴と希望の象徴がね。恐怖がある。希望がある。だったら皆、希望にすがるでしょ?」
「答える気ないだろ」
「要は、あの世界の人間に恐怖に動かされて進歩してもらいたかったんだよ。あくまでも、"恐怖"による、保身的な発展がね」
あぁ、そういう意味での恐怖の象徴か。そして発展の後押しになる希望。
「あれ?それって、俺必要あった?木だったけど」
「あんまり。敢えて言うならストックかな。あちこちたらい回しにするのが面倒だった的な」
「俺の命軽っ」
知ってたけど。命が軽いのは俺だけでなく、命とは本質的に軽いモノだと言うことも。転生なんてさせられた時点で誰だって気付く。
死んでも来世があると分かっているのなら、正直死ぬのは怖くない。死んで心残りがあるのは流石に恐ろしいが、極論では死んでもいい、次がある、という思想に陥る。本当に軽い。
「これは目的とか一切関係ない只の好奇心なんだけどさ。どうだった?目の前で友人が溶け死んでいく光景を眺めるのは」
「普通にトラウマになった。もう二度と見たくない」
「次はそんなこと起きないはずだから安心してくれていいよ。たぶん」
「そういうのが一番不安になるからやめてくれ。眠れなくなる」
本当にアレは恐怖だった。『冥焔』に包まれた生物が、火傷もせず断末魔もあげず状況も理解出来ないままに黒い液体になって蒸発する光景なんて、この世の現象ではない。本当にこの世のものではないが、そこは重要ではない。
想像して欲しい。ジムシやリブルが、ドロッと溶けてジュワッと蒸発する光景を。思い出すだけで三回は吐ける。
「まぁ、流石に冗談だよ。あんなバランスブレイクな能力はもう封印するから。今度は趣向を変えてスーッと消えるチートとかどうだろうとか考えてる」
「………会話に生産性が無いから、俺の次の転生の話をしようぜ」
「それもそうだね。君にはもう関係のない話だった」
ケラケラと笑いながら、ロリ神様はどこからともなく取り出した椅子に座る。俺は立ったままなのだが、文句は言うまい。仮にも彼女は神様で、俺は普通の人間なのだ。頭が高いとか言われないだけ有り難いと思うところだ。たぶん。
「甲斐君の次の転生だけど、さっきも言った通り彼女へのご褒美扱いだから、もう決まってるんだよね。誰になるかまでね」
「それも結構な理不尽なんじゃないかと俺は思うんだが。三代前がどうだったにしろ、今の俺の記憶には無いんだから」
「それでも押し通せるのが神様パワーだってのも、さっき言った通りだね。君なんかより、献身的に頑張り続けた彼女の要望を聞いてあげたくなるのは道理というか、聞かない方が理不尽だよね」
それはそうかも知れないけど。それでも俺には関係ないというのは変わらないわけで、納得いく理由ではない。
「まぁまぁ。一応、甲斐君の為に特典も付けてあげるから。今回の理不尽に対する謝罪も込めてるから、騙されたと思って。ね?」
騙されたと思わないと受け取れないような謝罪、誠意は微塵も感じられないのだが。そりゃ、謝る気なんて全くないロリ神様の謝罪なのだから当然だ。
「それがスーッと消えるチート能力ですとか言ったら絶対に受け取らないからな。俺はのんびり暮らすのが望みなんだから、凶悪な能力は必要ない」
「そう?面白いと思ったのに。まぁ、能力については『記憶持ち越し』と『癒し』だけにしておくよ」
「そういえばあったな。『癒し』とかいう能力。役に立った覚えが無いけど」
「自分ではそうだろうけど、傍目に見れば大活躍してたよ?」
何が?全く身に覚えがない。それとも、俺は怪物達に癒し系と思われていたのだろうか。否定できないのが辛いところだ。
「それはまぁ、置いておいて。次の転生について何か要望とかある?聞いてあげないこともないよ」
それは、前回の失敗を踏まえて約束してもらいたいことはいくつもある。前提条件だと勝手に思い込んでいると痛い目を見るのだ。
「とりあえず、自分で動ける生物にしてもらいたい。更に言うなら、自分の口で他者と意思疎通できる生物に」
「それなら次は人間になる予定だから大丈夫。特長の無い、可も不可もない地味な人間にね」
「あとは、前回みたいな厄介事を持ち込んでもらいたくない」
「大丈夫大丈夫。私も同じ魂に何度も試練を与えるほど鬼畜じゃないから」
信用ならない言葉だ。どうせまた、言葉の穴を突いた地味な嫌がらせでも準備しているのだろう。
「そう転生を恐れることはないよ。次はそれなりに意思を反映させてあげるから」
ロリ神様はニヤニヤと笑い、
「じゃあ、楽しみなよ」
そして俺の意識は白一色に包まれた。
次回が最終話になります。




