三十二話:七色
バカが来たと言えば伝わるだろうか。
虹色でキラキラ輝く、派手で妙な鳥だ。何が目的か知らないが、バッサバッサと羽ばたいて空から舞い降りた。目がチカチカする。雪の白に七色の輝きが反射するのだ。ウザい。
「宣言通り、燃やしに来た!臭いが薄くなって探すの苦労したよ」
出会い頭から騒がしい。頭が痛くなる。頭はないから"気分的に"だけど。
「ねぇ、カイ。あれって『虹の鵬』とかいうバカだよね?」
『あぁ、うん。俺を燃やしに来たらしい』
雪の上に降り立ったレインボー君にジムシが厭な顔をする。その反応も至極当然。レインボー君は意味もなく虹色の炎を小爆発させているのだから。
「私の進化した『虹の気焔』で、木なんてあっという間に消し炭に……って、あ!また人間がいる!」
面倒くさいなぁ、と思いつつも一応ジムシに訳して伝える。といっても、俺が復唱すれば勝手に翻訳されるんだけど。
『っていうか、大概五月蝿いぞ、レインボー君。もっとこう……冬の静けさを楽しむなり、俺達の間の空気を読んで帰るなりしろ』
「間の空気?それってカイのコンプレックスの話?」
地味にジムシの発言が胸に突き刺さる。
というのも、今日は朝からジムシが雪掻きをしていた。昨晩は結構な量の雪が降り、ジムシの小さな家が潰れかけたのだ。意外と高い耐久力を持つ家は潰れこそしなかったものの、半分ほど雪に埋まってしまったので、雪掻き作業と相成った。
当然と言ってしまうと男として、元人間としてみっともない気がするけど、頑張っているのはジムシだ。ジムシに働かせて自分は正に棒立ちとか、無念でならない。
ジムシはいい運動になるとか言っているけど。それでも、動かないのと動けないのは確かに別で、体が動かない事を今更でも悔やんでいた。それをジムシに指摘されるというのはなかなか辛い。
胸にグサッと来ているが、今は降臨したバカの対処が必要なので閑話休題と言っておく。俺としてはジムシとの対話の方が重要だけど。いや、ちゃんと現実は見るけど。
「レインボー君?それはまさか私のこと?『虹の気焔』を扱う私をレインボー君と呼んでいるのかい?短絡的な思考だな」
何を上から目線で「短絡的」などと。単純に特徴を示している方が区別し易くて便利なだけだ。別に俺のネーミングセンスが悪いわけではない。
「私の名前はシチシキ!巷を賑わす『虹の鵬』とは私のことだ!」
ドカーンと特撮ばりに背後の地面を爆発させるレインボー君。
レインボー君だ。他の呼び名はバカか鳥以外認めない。もっと言えば存在も認めないところだけど、相手するのが面倒なので放置。
「カイ、なんかあの鳥の行動がイラッとするんだけど」
『俺もだ。でも一々反応してたらキリがないからな。可哀想な独りぼっちの鳥なんて無視するといい』
「ちょっと、人間の言葉はわからないけど、木の方は超失礼じゃない?」
ギャアギャアと騒ぐのはリアルの話だ。虹色の鳥がバサバサ羽ばたいて奇声を上げる。思いっきり怪鳥だ。
『じゃあ、お前は友達いるのか?自分はぼっちじゃないと自信を持って言えるのか?どうせいないだろう?『虹の鵬』』
「………カイ、ちょっとだけ酷くない?気持ちは分かるけど」
そうは言うが十中八九事実だ。レインボー君に友達はいない。怪物に転生した奴の運命なので仕方のないことだ。
「この流れ……『俺がお前の友達になってやるよ』的なことを言うつもりか……?私に勝てないと判断して懐柔することにしたのかも……」
なにやらレインボー君が急にチラチラと俺を見始めた。さっきまでガン見していたというのに、面倒な奴だ。
ここははっきりと言っておかなければならない。下手に誤魔化して勘違いしたまま付き纏われては堪らない。
『いや、ない。それは絶対にあり得ない』
「…………燃やす」
ジムシが「何があり得ないの?」と聞いてくるが一先ずスルー。レインボー君の体から虹色の炎が吹き出したのだ。
しかし、何も怒ることはないだろう。レインボー君は俺を燃やすと宣言して現れたのに、友達になれるはずがないのだから。
まさか独りぼっちが淋しかったとか言わないよな?『虹の鵬』のくせして。
「あの鳥なんか怒ってない?急に炎が出てきたけど」
『さぁ?』
よくわからない展開、でもないか。ジムシは首を傾げながらも覆面を脱いで右目周辺の穴を出す。そこから出てくるのは復活した『鉄挟虫』だ。
「食らえ!決殺!レインボーブラスター!」
虹色の炎による爆発。というよりは瞬間的な炎上だろうか。爆風より熱気の方が脅威的に感じる爆発だ。ジムシの操作した『鉄挟虫』の壁のお蔭で助かった。あれがなければ今頃火達磨になっていただろう。
「あの爆発、なんか威力上がってない?」
『派手さも三倍増だな』
決殺!レインボーブラスター。前回やって来た時、ぶつぶつと新技の構想をしていたが、これがそれだろうか。確かに新技感はある。
炎が広がるから滅茶苦茶派手だし。心の奥底でほんの僅かに綺麗だとか思った自分が悔しい。
「まだまだ!即殺!レインボーブレス!」
大きく開いた口から虹色の炎が広がる。広がる、が飛距離がない。虫の壁の端を少し焼く程度に収まった。見た目の派手さはレインボーブラスター並みだけど。
「「………………」」
ちょっと気まずい雰囲気になるジムシとレインボー君。ジムシはレインボーブラスターでレインボー君の攻撃に警戒していたのに、レインボー君は派手さを求めて威力の弱い攻撃をしてしまったことで、互いの意思が擦れ違ってしまったようだ。
「か、確殺!確殺いくよ!レインボーレーザー!」
小さく開いた嘴の先から、レーザーのような細い虹色の炎が勢いよく噴き出す。
虹色の線は虫の壁に当たり、爆発を起こす。当たった虫だけではなく周囲の虫も巻き込むとは、随分とえげつない技だ。
あと、俺的には威力と派手さのバランスを考えると、レインボーレーザーの方が派手に映った。爆発するところなんか特に。
「あぁ、もう!レインボーレーザー使うと口の中火傷するから嫌いなんだよ!」
上手い話はそうそう無いものだな。レインボー君はいつまで経っても不遇キャラだ。