二十四話:虹色
「さぁ、カイの魅力を改めて確認したことだし、さっさとあの鳥を殺っちゃおう」
何故か上機嫌になったジムシは、多少ぎこちなく指を動かして鳥に狙いを定める。
「痛たたた……」
そこでレインボーな鳥が目覚めた。器用に翼を動かして自分の頭を撫でている。なんか腹立つ。
「って何、この虫!?キモッ!っていうか、花が臭い!」
『よし、さっさと殺るんだジムシ。奴は俺を侮辱した』
完全に小者のセリフではあるが、自分の手は汚さずに鳥を殺す。奴の存在全てが腹立たしい。俺は良い薫りのはずだ。強すぎるだけで。
「と、鳥風情が、カイを……?世界の敵ね。殲滅しないと」
額に青筋を浮かべたジムシは、勧告か宣言は一切せず、指を動かす。黒い雲そのものの虫は弧を描いて飛びながら、鳥を囲んでいく。
「なんかきたー!あっ!羽……ダメ、そこは!昨日手入れしたばかりなのに!」
虫の雲の中で何が起きているのかは不明だが、なにやら余裕っぽい声が聞こえてくる。身嗜みなんて気にしているし。
ジムシの方を見てみると、怪訝な表情を浮かべて虫を操っている。別に遊んで鳥をいたぶっているわけではないようだ。つまり、あのレインボーな鳥はジムシの虫の攻撃を確かに受けていることになる。本気で殺りにきた『鉄挟虫』の猛襲の中で余裕ぶっこくとか、一体なんなんだ?あのレインボー。
「あっ、ダメ!入らない入らない入らない入らない!やめなさいって……止めろ!!」
虫の雲の中から一際大きな叫び声が聞こえ、一拍遅れて爆発した。ドッカーンとコミカルとも言える音と共に虹色の爆炎が広がった。
『は?』「へ?」
「ふっ。まさか゛必殺!レインボークラスター゛を使うことになるとは……。なかなか危険な森だ。匂いトラップも作動中だし」
煙が晴れ、現れたのはポーズを決めたレインボー。翼を広げた姿はやはり派手で、ダサい。
「しかし、今の技は派手だが威力がなぁ……。もっと爆発力を絞った方がいいかな。决殺!レインボーブラスターとか……」
頭の上で小さな虹色炎を様々な威力で爆発させるレインボー君。俺はその派手さにただただ言葉を失った。
「カイ、カイ。あの鳥、なんて言ってるの?」
ジムシにペタペタと触られて我に返る。レインボー君が目立ち過ぎて、正直ジムシの存在を忘れていた。バレたら折られるから本人には言わない。
『あ、あぁ、爆発の威力に納得いかないらしい。それよりジムシ、どこか怪我したりしてないか?大丈夫か?本当に?』
「もう、カイは心配し過ぎ。でも心配してくれて嬉しいかも。カイも怪我ない?」
『ん。大丈夫。ジムシが怪我しなくてよかった』
こんな時でもイチャイチャするのを止めないのが俺達クオリティ。どっかの鳥は虹色の炎だが、俺とジムシはピンクの空気だ。何人も寄せ付けない絶対防壁だったりする。
『ジムシの虫は……』
「三分の一くらい殺られた。本当に見た目の割りに威力は低いみたい。それでも生身の人間に直撃したら只じゃ済まないだろうけど。安心して。カイに近付く前に殺すから」
爆風で散り散りになって虫を呼び集め、再び虫の雲を作る。が、やはり先程までに比べると幾分小さく、密度も低い。それでも異常な数ではあるのだけど。
「また虫が……やっぱりもっと強い炎を……」
何らかの力が働き、レインボー君の体が熱気に包まれていく。陽炎で森が歪んで見えるほどだ。単純な熱量で、辺り一帯が死滅するかも知れない。陽炎もちょっと虹色な気がするのは気のせいか。
黒い雲から一匹の虫がレインボー君に近付くと、熱にヤられて墜落、もがいた挙げ句に死んだ。『鉄挟虫』では近付くことも出来ないということだ。
それを見たジムシは大きく舌打ちを溢し、指を複雑に動かす。すると虫は一斉にこちらに向かって飛んで来て、ジムシの右目から奈落に帰って行った。虫では勝ち目がないと判断して回収したらしい。
「勝てないと悟ったか。……お蔭で無益な殺生をせずに済んだよ。ふっ。強くなりすぎるのも問題だな。……って、何!?人間がいる!一体いつの間に」
全ての虫が右目に吸い込まれた頃、やっとレインボー君はジムシに気付いたようだ。当然ながら俺の存在には目もくれない。
「っていうか、花の匂いキツゥ!鼻がもげるぅ〜!」
バッサバッサと、無駄に暴れまくるレインボー君。それをジムシは眉を寄せて睨んでいる。臨戦態勢は万全だ。言葉が通じなければそれも当然だろう。
「アレ、何て言ってるの?なんか悶えてるようにも見えるけど」
『いや、俺にもよくわからない。ジムシに気付いて驚いてはいたみたいだけど』
あぁいうテンションの高い奴は苦手だ。誰かと話すわけでもないのに、よく舌の回ることだ。派手だし。
「くっ……!しかし、こんなことでめげるわけにはいかない。人間の食糧にはなりたくない!」
またまた不思議パワーで陽炎を生み出すレインボー君。時折、頭の上で虹色炎が弾けているが、熱気自体は一度目より少ない。
「魔力が減ってきたか。しかし、私の火炎魔法『虹の気焔』は負けない!」
「カイっ。あの鳥、なんかはっちゃけてない?目とかヤバい」
『あーあーあー……。あれ多分だけどチート能力だ。能力自体は魔法みたいだし』
俺が分析している間にもレインボー君の魔力らしきものは最高潮に膨れ上がり、頭の上に虹色の玉が形成されていた。
しかし、俺とジムシは落ち着いて状況を観察している。目の前で起きているのは確かに異常事態なのに、何故か危機感が湧かないのだ。むしろ゛安定の゛安心感があるから不思議だ。
この安心感は、バトル漫画で出て来た敵がギャグ要因だった時のものに近い。詰まりは、そういうことだろう。見るからな爆発物が頭上にあるし。
「で、出来た。喰らえ人間!色殺!アルティメットレインボー!」
バサッと翼を広げてポーズを決めた瞬間、アルティメットレインボー(笑)が大爆発を起こした。効果音はチュドーン!だろうか。確かに爆風は凄まじい。
煙が晴れると、そこには煤まみれになったレインボー君(笑)が倒れていた。あの爆発でも手足が吹き飛んでいないのは流石としか言い様がない。
「か、かふっ。……誤爆、だ、と?」
何と言うか、不憫だ。




