二十一話:三者三様
梅雨明け。漸く晴れ間が増え、天気も安定してきた。これからは次第に気温も高くなっていく。
それはつまり、暑いのが苦手なら今のうちに避暑地に逃げろということだ。そして俺には、暑さに弱い獣の知り合いが一頭いるわけで、再会の約束まで勝手にされていたりする。
今年も赤と黒のごちゃごちゃした見た目の獣は俺の下を訪れた。近づいてくる足音の一つもしない、嫌悪すべき凶悪犯だ。赤い体毛が目に痛い。
「また来たよ、死にたがり君。その人間の娘は何?」
何となくデカくなった気のするリブルは、恐らくニヤニヤと笑いながら俺の根元に座るジムシを見た。獣の表情なんて正確に判別することは出来ないが、あんな目でジムシを見ないで貰いたいね。
「ねぇ、あの変な生物、何?なんかこっち見てない?」
『あぁ、そうか。二人の間じゃ言葉が通じないのか』
「その反応だと、知り合いみたいね。カイと、その怪物」
「人間とまで知り合ったのか。節操がないねぇー。その人間も転生者なのかな?」
二人が別々のことを喋るから、頭が混乱する。言葉が通じないのが分かるなら、俺が説明するまで待って欲しい。
『ジムシ。アレは俺らと同じ転生者で、獣のリブル。本物のチート野郎だ。で、リブル。こっちの人間がジムシ。察しの通り転生者だ』
「転生者の獣?それって、前言ってたカイの敵?」
『敵ってほどでもない。俺に嫉妬してるだけだ』
「一体どんな会話をしてる。こっち見て敵とか何とか言ってない?その女殺していい?」
リブルはいい加減過激な思考の持ち主だ。ジムシを殺すとか、あり得ない。ダメに決まっている。
それに、ジムシも敵意を向けるんじゃない。気持ちはよくわかるけど。俺もリブルに会うのは三回目だけど、リブルを前にすると嫌悪感が凄いし。
でも、二人とも敵対しないで欲しい。言葉が通じないから警戒するのは当然だろうけど、俺は共通の知り合いなわけだし。俺は避難出来ないし。
『まぁまぁ。一応聞くけど、リブルは何しに来たわけ?俺をへし折りに来たのか?』
「………いや、気が変わったから、ただ避暑ついでに寄ってみただけ。その人間は殺していい?」
「カイ。獣がなんか鳴いてるけど、殺した方がいいんじゃない?殺意を向けられてるし」
リブルは身を低くし、ジムシは右目を隠す布に手をかける。二人とも殺る気満々だ。まだ出会って数分のはずなのに、なんでそんなに殺意剥き出しなんだ。犬猿の仲ですか。
『仲良くしなさい。別に互いに害はないだろ。それに数少ない知り合いなんだから。っていうか巻き込まれたくない』
俺の願いは切実なのに、何故かリブルが呆れた顔で俺とジムシを見てくる。何か可笑しなことがあるだろうか。
「お前らは一体どういう関係?超気になる。っていうか、何やってんの?」
『ん?』
言われてジムシを見てみる。ジムシは俺の根元に両手を回して抱き付き、頬擦りをしている。いつも通りの体勢だ。
冗談。この光景を端から見れば筋肉女が木を抱き締めるという異常事態にしか見えないことを俺は知っている。たとえ木の中に自我が有ろうと。
『………正直、俺もよくわからない。気付いたらこうなってた』
「そうか」
「獣が唸ってる」
会話に置いてきぼりを食らっているジムシは、いつまで経ってもリブルに敵意丸出しだ。リブルは興味を無くしたようだけど。
「そういえば、他に転生者は見つかった?俺は言葉が通じないから探しようがないんだけどさぁー」
『いや、知ってるのはジムシとリブルだけだ。俺は動けないから、向こうから来てくれないと、どうにも出来ない』
冬の間は生物は見掛けなかったし、雪融けの頃はジムシだけ。その後はジムシの影響なのか生物は近寄って来なかったから、転生者どころか生物に会っていない。
「ねぇ、カイ。何の話?カイは誰か探してるの?」
『ん?あぁ、他の転生者とかいるのかなってな。別に探してるわけじゃない』
「………なんか腹立つねぇー」
それは「リア充爆発しろ」って意味だろうか。その気持ちはよくわかる。前世では俺もよく思っていた。
でも、いくら俺とジムシが仲睦まじくとも、所詮俺は木だ。事情を知らない奴から見れば、ジムシの頭が可笑しく見えるだけだ。実際はジムシの頭は筋肉だけど。
そういえば、ジムシは今世では善行を働かなければならないと言っていたが、こんな所に居て大丈夫なのだろうか。確かに俺はジムシに助けられているところもあるが、それは俺だけだ。そんなことで前世の罪を清算できるのだろうか。甚だ不安だ。
『因みに、リブルは何て理由をつけて転生させられた?』
「理由?確か、転生者を選ぶくじで当選したから。百分の一の確率で当たるとか。お前らは違うのか?」
「何て言ってんの?」
ジムシにリブルが転生した理由を説明し、リブルには俺とジムシが転生した理由を説明する。面倒な役だ。思いっきり貧乏くじを引いてしまった。
「ジムシは理解出来るけど……カイの理由は何と言うか、雑だよなぁー。大体、神がミスってのが可笑しいだろう」
『それはジムシにも言われた。でも、宗教にも由るだろう。神が全知全能か、何かを司る存在か。あの神様が全知全能ではなく、例えば輪廻転生を司る神様なら、全くあり得ない理由じゃない』
まぁ、輪廻転生を司る神って可能性はほとんどない。転生させるのが仕事なら、転生させる魂をくじで決めるというのは可笑しい。……あのロリ神の頭は可笑しかった気もするが。
それにしても、転生の理由は三者三様か。神のミス、前世の贖罪、偶々。共通点なんて前世の行いまで含めても、元人間で神様に転生の話を持ち掛けられた、という程度。あ、あと、今世で上手く生きられないって感じか。
詳しく知るにはもっと多くの転生者に話を聞くしかないな。なんとなく、百人聞けば百通りの理由が有りそうだが。
「ま、転生した理由なんてどうでもいい。俺は今世を出来るだけ楽しく生きるだけだからねぇー。せっかく無職で、何かを壊すだけで生きられる体に転生したんだし」
『ポジティブでいいねぇ。俺も似たようなものだけど』
ジムシが訳を求めたので説明すると、やはりというか抱き付いてきた。とてもいい笑顔だ。
「私も、こうして居られればいいかな」
「お熱いことで。さっさと涼しい山に行きたい」
あれ?まだ訳してないけど。




