一話:転生
かなり地味な内容になりそうです。
神様のミスで死んだ。
今時流行りの転生コース一直線だ。より正確には転生チート一直線。
死後の世界で神様を名乗る幼女に話しかけられ、言い訳されて、チート能力あげるから許してくれと言われた。
特に未練もないどころか、非リア充の俺が、異世界デビューのチャンスを蹴る道理もない。二つ返事で許すことにした。
「マジで許してくれるんスか!?超チョロいじゃないッスか!」
まぁ、そういうのは聞き流す方向で問題あるまい。幼女趣味のない俺からすると、子供は大概ウザいモノだ。一言二言のクソ発言くらい寛容に受け流すべきだ。
「いや、チート能力くれるなら許すってんだからね?嘘とか吐いたら何度転生しようが許さないよ」
……まぁ、舐められるわけにもいかないから。今回、非があるのは幼女の方だからな。俺にも一応『非』はあるけど。
「よゆーよゆー。能力一覧とかあるから、そうッスね……。三つ選んでいいよ」
三つ!?あ、そういう感じか。全ステータスUPとかイメージしてた。流石にそこまで上手くいくもんじゃないよな。
能力一覧と呼ばれる本を受け取り、目を通して行く。
内容は大別して三つ。
『筋力値上昇』『魔力上昇』『聴覚鋭敏』等々の、基礎能力上昇系。
『剣術』『槍術』『火炎魔法』等々の、技能付加系。
『不老長寿』『変身』『空中歩行』等々の、特殊条件付加系。
全体で百種くらいあるだろうか。男の子的に魅力的な能力が盛りだくさんで目移りしてしまう。三つという制限が厳しい。
「えっとね、技能付加系はあまりオススメできないよ」
ウンウンと悩んでいると突然、幼女みたいな神様が口を挟んできた。技能付加系が?何故?
「所詮は技能だから、努力次第でどうにかならないこともないんだよ。もちろん、才能だけに頼ることになるから限界点は低いけどね。とはいっても、中には努力しても出来ない人だっているし、一概に取るなとは言えないんだけど」
なるほど。チートに頼るだけの考え方から抜け出す必要があるということか。確かに、魔法とか使ったことないからわからないけど、意外と使えたりするかも知れないし。でも使えないから知れないから難しいところだ。
「決め方のコツとしては、目的を明白にすることだね。例えば、異世界を見てみたいっていうなら『記憶持ち越し』は必須だし、『魔力上昇』はあって困るものでもないしね」
「あぁ……基礎能力上昇系はあって困ることなさそうだよな。どんな才能があっても更に上に行くだけだし」
「そうそう。それで言えば特殊条件付加系も困らないよ。゛特殊゛だから、才能として持っていることはないからね」
…………うん。いや、どうでもいいんだけどさ。神様の口調が変わりすぎて気持ち悪い。やっと幼女の外面に内面が慣れてきたような感じだ。本当にどうでもいいことだけど。
そんなことより能力だ。コツは目的を明白にすることだな。
目的……異世界を楽しみたい。うーん、ゆっくりと商売とかしたいな。
おぉ。そう考えると『記憶持ち越し』はいるし、戦闘技能はいらないな。なるほど、纏まり易い。
魔法も才能と努力に頼ることにしてしまえばいい。手から炎を出す程度でも出来たら、きっとそのうち飽きる。
商人をするなら、きっと色んな人と出会うよな。なら、『言語理解』があった方がよさそう。
「ちょっとは決まった?」
「あと一つ。戦闘には必要ないのでオススメは?」
「『癒し』かな。周囲を常に癒し続けるだけの曖昧で微妙な能力だけど。側にいて居心地がいいと思わせる力だから」
地味だ。でも悪くない。商人になるなら人脈は多いに越したことはない。人の寄って来る商人なんて、とても素晴らしい。
「決まった?」
「ああ」
「じゃあ、頑張ったね」
幼女の笑顔を最後に、俺の意識は白一色に包まれた。
・・・・・・・・
そろそろ、転生して3年くらい経つだろうか。俺は生まれて3年で、結構大きくなりました。
色々と煮え切らない思いはありますが、3年分を事細かに説明するのも難しい状況なので、簡潔に言います。
樹木に転生するなんて聞いてないぞバカ野郎。
正にそれだ。初めはもっと色々と燃えてたけれど、3年間も同じ場所にジッとしていると、頭も次第に冷えてくるものだ。会話する相手さえいないのだから。
それにしても、木はないだろう。木は。あまりにも酷い仕打ちに気付いた当初は動かせないはずの葉がざわめいた。
『(あのロリもどきめが〜!)ザワザワ!!』的な。たぶん気のせいだけど。
因みに、転生場所はナントカっていう森の中程。森を歩いていた冒険者らしき一行が話していただけだから確証はないが、辺りを見回す限りここが森の中であるのは間違いない。
季節は秋。意識が芽生えた当初は恐らく50㎝程度だったであろう身長も、今では倍くらいに成長している。もちろん頭にはそれなりに葉が繁っている為、今は少しずつ頭が緑から緋色に変わってきている。その葉もいずれ枝から離れ、頭が禿げ上がるのだ。
この『落葉』という行為だが、無意識のうちに起こる現象ではない。毎年自分の意思で泣く泣く禿げるのは、なかなか精神的に辛いものがあるが、まだ経験は二度しかないので、そのうち慣れるのでかも知れない。
俺達落葉樹は当然、栄養は根からの吸い上げか葉の光合成で行う。なので、秋になり日光が弱まると、葉は必要無くなる。光合成もまともに出来ない葉など、邪魔以外では見映えしかよくならない。
だから切り離す。
まぁ、切り離すのはもう少し後、今は『紅葉』という名のイメチェン中だ。とはいっても、これは既に切り離し始めているから、葉の色が褪せているのだが。
森の中では、ほとんど全ての生物が、冬眠の準備を始めている。俺の足元にも小動物が一匹巣を作っている。俺はまだ若く、木の実もまともに落とせないのが残念だ。
木の実と言えば。俺の隣に聳え立つ大木。これが俺の親だと思っていいのだろうか。見た感じだと、種類も同じだし。
そう考えると、あの木の落とした実は俺の兄弟にあたるのか。めっちゃ大量にあるけど。まぁ、大抵は森の動物達に食われていく。言うなれば、兄弟は死んでいるのだ。ちょっと寂しい。
次の春には、兄弟の芽が出ることを祈ろう。