テオテル村物語 本編終了後小話・座敷童のお名前
本編終了直後のお話です。
「我々はミーナと呼んでいましたが、ディルクはディルクの代の呼び名を決めて下され」
「座敷童じゃダメなのか?」
エルゼが俺のプロポーズを受け入れてくれてから数日後、ようやく浮かれ気分が落ち着いてきた俺は村長から言われた言葉に頭を抱えていた。
原因はこいつだ。
俺の家の居間、もっと言えばテーブルに座っている俺の膝の上を陣取っている水色の髪を肩で切りそろえた幼女。
洋風座敷童ことテオテル村の守護精霊のちび。
エルゼの父親であるテオテル村の村長からその座を引き継ぐ事になった俺は、同時に村の守護精霊であるこの幼女も引き取らなくてはいけなくなったらしい。
名前を付けて可愛がってやって欲しいとの事だ。
幼い頃からこいつを座敷童と呼んでいた俺は、それ以外の呼び名が思いつかない。
本人も(意味が分からないから)気に入っていたが、新たに名前を付けるのも新村長の役割らしい。
待てよ? 建設予定の俺とエルゼの新居にこいつが棲み着くのか?
うんうん唸って新しい名前を考えていた俺は、嫌なことに気付いてしまった!
俺の記憶だとこいつはいつもエルゼの家でキャハキャハ笑って走り回っていたよな?
そう考えるとますます名前を考える気が失せる。
「何でもいいだろう?」
投げるような俺の言葉に反応したのは、同じくテーブルを囲んでいる三人。
「そういう訳にもいきませんよ。子々孫々に誇れる素晴らしい名前を付けましょう」
お前も懲りずにロープウェイで登って来るよな、イグナーツよ。
「ほら、新村長として最初の仕事なんだから張り切らなくちゃ!」
お前が張り切ってどうする? フィデリオよ。
「ねえディルク? 私ディルクが考えた名前を聞きたいわ」
最後に、俺の婚約者(確定)のエルゼだ。ゆるふわおさげの栗色の髪の毛と、新緑色の瞳。婚約する前以上に可愛く見えるのは俺の欲目か?
「そうだな……」
エルゼの愛らしいお願いに気を良くした俺は、思いついた単語を言ってみる。
「"イソフラボン"とか"ボヘミアン"とか"ガラパゴス"とか……」
「よく分からないけれど格好いい名前ね」
「よく分かりませんが、男性的過ぎませんか?」
「よく分からないけどディルクの悪意とやる気の無さは感じるよ」
最後のはフィデリオ。さすが親友だ。
他にも"カピパラ"やら"ステテコ"やら思いつく単語を提案したのだが、途中からは俺放ったらかしで真剣な会議になっていた。
結局、座敷童の名前はエルゼが提案した"シシィ"に決まった。