テオテル村の小さなディルク・2 文明開化の音はするか?
「本当にいいの? ディルク?」
恐る恐る……といった様子で俺に聞くフィデリオ。手には刃物を持っている。これで何度目だ。
「ああ、一思いにやってくれっ!」
俺はきっぱりと頷いた。これも何度目だ。
今の俺の格好はマントをてるてる坊主のように羽織り、椅子に座っている。いわゆるご家庭の散髪スタイルだ。
ついでに現在の俺の髪型はおかっぱ。
六歳という年齢を考えれば愛らしいが、悲しいかなこの世界では直線切りの髪型が主流で、オヤジやジジイでもおかっぱの奴が多数いる。ここで正さねば一生おかっぱの可能性もある。
おかっぱと言うと、一人の幼女を思い出す。
エルゼの家に棲みついている幼女姿の精霊は何故か人と同じサイズで、おかっぱ頭なので俺は座敷童と呼んでいる。
だが、俺は気付いてしまったのだ!
あいつの髪の毛の色は水色で俺は真っ黒。
つまり、真っ黒のおかっぱである俺のほうが座敷童だとっ!!!
これは直ちに対処せねばなるまい。
前から気になっていたが、老いも若きもおかっぱの男が普通にいるってのがおかしい。
日本男児の記憶を持つ俺としては、この世界には珍しくても短髪でいたいのだ。
「じゃあ……行くよっ」
覚悟を決めたのか、刃物を持つフィデリオの手が動いた。
「頼むっ!」俺は眉間に力を入れた。
「あ」
ザッという音とともに不吉な一言を漏らしたフィデリオ。
なんだ今の一言はっ!!? 気になり過ぎるっ!!!
目線を床に落とせば、俺の見慣れた髪の毛がごっそりと落ちている。
意を決して頭を触ってみると、やけにシャリシャリした触り心地。
根本まで切りすぎだこの野郎!!!
「ごめんっ! ディルク!!!」
普段呑気なヤツからは想像できない、焦った声が遠くで聞こえた。
数ヶ月後、俺は日本男児として生きていた時と同じ髪型を手に入れた。
しかし、犠牲はあまりにも大きかった。
「おーい! ハゲ!!!」
村のガキ大将イーゴンがからかうように俺に言った。これは断固否定せねばなるまい。
「ハゲじゃねーよ! 元坊主だよ!」
そう、俺はこの髪型を得る代償として髪の毛の一掃という悲劇にあったのだ。
エルゼが笑わなかった事だけが何よりの救いだ。
俺は……幼かった。
その数年後、村でも町でも俺の髪型を真似する奴らが出てきたが、何故かそいつらも一番最初は髪の毛を一掃するという風習が出来ていた。




