テオテル村の小さなディルク・1 お料理行進曲
俺はこの時を……待っていた。
先日、幼馴染のフィデリオが七歳になった。
誕生日当日、フィデリオは宿屋の店主をやっている親父さんから料理の特訓で油を使う許可を得たのだ。
これで俺は”アレ”を食べれる。
俺はレベルが上がって意気揚々としているフィデリオを「新料理を考えたら親父さん喜ぶぞ~」と唆して”アレ”をこの世界に復元する作戦に出た。
”アレ”とはヨーロッパのクロケットから派生した日本の洋食の代表格”コロッケ”だ。
前世の俺がまだ元気だった頃、よく部活帰りに仲間と一緒に商店街で肉屋のコロッケを食べたものだ。
日本の料理を恋しく思う時、俺の頭にはコロッケがトップに出てくるのだ。
ついでにゲームをする時によく食べていたポテトチップスも作ろう。
料理をした事の無い俺でも、TV番組とかの情報で作り方ぐらいは分かる。
これからはフィデリオに色々な料理を教えよう。クックックッ。
俺とフィデリオは親父さんの許可を取って宿屋の空いている時間に調理場を使わせて貰う事にした。
確か芋を茹でて潰して、玉ねぎとひき肉を炒めた物を混ぜるんだよな。
流石に料理の訓練をしているだけあってフィデリオの手際は七歳にしては見事だ。
「ディルクもちゃんと働いてよ」不満そうなフィデリオ。
「おう! 任せろ! 俺はこの炒めたひき肉と芋を……混ぜるっ!」
塩とコショウはどのタイミングだ? ここでいいか。
これを丸めて小麦粉の上に転がす。
そしてとき卵を付けた後に、作っておいたパン粉の上にまた転がす。
ああ、この愛らしい姿形は俺が愛して止まなかったコロッケだ。
「これでいいの? ディルク」
出来た生コロッケを楽しそうに見るフィデリオ。
「ああ、確かそれでいいはずだ」
俺はいそいそとコロッケを揚げる準備をする。
「あっ! 温かいまま揚げると……」
何かを言いかけたフィデリオを無視して俺はコロッケを熱した油の中に入れた。
ポンっという音とともに爆発したコロッケ!!!
俺は……幼かった。
後日フィデリオが笑顔で俺の元に駆けてきた。
「おーい、ディルク!」
「なんだ、フィデリオ?」
「この間ディルクが教えてくれた”芋と魚”宿ですごい人気だよ。酒場でも真似するってさ」
と言われても、調理場を汚しまくったお詫びと、親父さんにバレる前に一緒に証拠隠滅をしてくれたお礼に組み合わせを教えただけだが。
嬉しそうに報告するフィデリオ。
隣に居るエルゼは「すごいわね! ディルク」と尊敬の目で俺を見ている。
「……ああ、それは……よかったな……」
二人の話題がラクシュ湖のどの魚が一番揚げ物に合うかという話に移ったのを俺は遠い目をして見ていた。
俺は地球の料理”フィッシュ・アンド・チップス”をこの世界に復元した。
……って、俺は前世でナニ人だったんだよ???
タイトルはWikiでコロッケについて最終確認している時に懐かしい曲名があったので急遽付けました。
『テオテル村のエルゼ』の後にディルク視点の話を書く事にしたのですが、あまりにもディルクの態度っていうか性格っていうか根性っていうかが悪かったので幼少のみぎりを書いてみました。
……うん。「クックックッ」とか笑う子供は可愛く無いですね。惨敗!
あと、ディルクの言っている通りの作り方は正確では無いです。詳しくは某歌でw
きっと後でフィデリオが色々と訂正・改良してテオテル村版コロッケを作ってくれたと思います。