表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誰にでも意見を合わせる男

作者: 入川出水

ショートショート第三弾。

 あるところに、誰にでも意見を合わせる男がいた。名前をオー寺といった。


 とある夏の日に、O寺の友人ケー倉はこんなことを呟いた。

「今日は暑いなあ。こんなに暑い日はめったにないよ」

 するとO寺はにこにこと笑みをはりつけながら、

「わかります、わかります。ぼくも暑くてたまりません」

 と、両手で顔を扇ぐのだった。


 O寺はK倉と別れてまもなく、もう一人の友人エス井と出会った。S井はこんなことを語った。

「今日は涼しいなあ。今年は冷夏なのかもしれないな」

 それに対して、O寺は満面の笑みを浮かべて、

「わかります、わかります。ぼくも二の腕の辺りがひんやりとして仕方がありません」

 と、両手で肌をさするのだった。


 また別の日に、K倉はO寺にこんなことを打ち明けた。

「おれ、実はエム子のことが好きなんだ」

 O寺はいつもの笑顔でK倉の肩を叩いた。

「だいじょうぶですよ。K倉くんならきっとM子さんとうまくいきます。というよりも、K倉くんほどM子さんに似合う男は他にいません」

 と、自信たっぷりに励ますのだった。


 翌日にS井からO寺に電話が掛かってきた。S井はこんなことを漏らした。

「おれ、実はM子のことが好きなんだ。でも、K倉もM子を狙っているみたいなんだ」

「心配はいりません。M子さんは、おそらくK倉くんよりもS井くんのことのほうが好きでしょう。S井くんなら、きっとM子さんとうまくいきます。ぼくが保証します」

 と、背中を押すのだった。


 ある日、O寺がK倉とS井と一緒に昼食を摂っていたところ、M子の話題になった。

 K倉は少し照れながらこんなことを話した。

「おれはM子に告白しようと思う。O寺も、おれならM子とうまくやれると言ってくれた」

「ええ、そのとおりです。K倉くんは必ずM子さんとうまくいきます」

 O寺は一切の迷いなく言い切った。

 すると、S井が焦ってこんなことを聞いてきた。

「O寺、おまえはおれとM子の仲を保証してくれたんじゃなかったのか。彼女はK倉よりもおれのことのほうが好きだと、そう言ったじゃないか」

「ええ、言いました。S井くんは必ずM子さんとうまくいきます」

 O寺はさも当たり前のように言い放った。

 ここまできて、K倉とS井は首を傾げた。

「おまえは一体どっちの味方なんだ」

「さっきから言っていることが矛盾しているじゃないか」

 しかしO寺はまったく臆することなく、こう答えた。

「ぼくはお二人ともの味方です。とても心強い味方です。はい、確かに矛盾しています。ぼくほど矛盾している人はそういないのではないか、というくらい矛盾しています」

 O寺の言葉に、K倉とS井は顔を見合わせて、

「もうわけがわからない」

「まったくだ」

 と、あきれ返ったのだった。


 ちょうどそこに、M子がやってきた。M子はこんなことを告白した。

「わたし実はK倉くんのことが好きなの」

「本当か、M子」

 K倉とM子は見つめ合って、顔を赤らめた。S井はひどく落ち込んだ。

「よかったですね、K倉くん。ぼくはいつかこうなると信じていました」

「ありがとうO寺。さっきは疑ってすまなかった」

 しかしM子は首を振った。

「でもわたし、S井くんのことも嫌いじゃないの。いいえ、むしろ好きなのかもしれない」

「本当か、M子」

 S井は顔を上げて、M子と見つめ合った。K倉はとても落胆した。

「よかったですね、S井くん。ぼくはいつかこうなると信じていました」

 そこでK倉とS井はまたも顔を見合わせ、そして憤慨した。

「O寺、おまえは本当にはっきりしないやつだな!」

「おまえみたいな他人に合わせてばかりの人間は、最低だ!」

「そうだ、最低だ!」

 しかしO寺はやはりにこにこと笑みをはりつけながら、こんなことを言った。

「そのとおりです。ぼくは最低な人間です。最も低いと書いて、最低です」

 K倉とS井は恐ろしい顔でO寺を睨み付けた。

「最低な人間はどうなるべきかわかるか」

「はい、よくわかります」

「最低な人間は死ぬべきだ」

「ええ、絶対に死ぬべきです。生かしてはなりません」

「じゃあ、おれたちがおまえを殺す」

「そのほうがいいでしょう」



 K倉とS井は、O寺を殺した。

 誰にでも意見を合わせる男は、死んだ。


感想待ってます(^^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] Sは別に殺さなくてもいいだろ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ