⒌【ラピスアトリウム】境界
「……いや、お前がここに入ってきたときから見てたけど、根暗で気持ち悪くて、何かに呪われてるんだろうな、って思ったぞ?」
さっき出会って、岩塩を分け合った仲のでっかいコウモリである。
「ゔっ……」
そう言われてしまうとそんな気がしないでもないけど……そんなことない!!
「そんなことないわよ。暗くないし。気持ち悪くもないもん」
「可哀想に。自分を客観的に見つめるってこと、覚えた方がいいぜ」
ぐぬぬぬぅ。
「ところで、どうしてコウモリが喋れるの?」
「フッ、オレはただのコウモリじゃない。コウモリの王! バットロードだ!」
「ロード……あ、うん」
イタイな。噂で聞いたことがある病か。
「聞いてんのかよ? ここのコウモリたちは全てオレの配下だ。そしてオレはこのラピスアトリウムを統べる王ってわけだ」
「配下ねぇ。せいぜい子分じゃない? そしてあなたもせいぜいコウモリの親分ってとこかしらね、でっかいから」
気の毒だけど、少し話しただけでも王の器じゃないことくらい世間知らずな私にもわかる。
でもなんか憎めない。
「ところで親分? ラピスアトリウムってなに?」
「え~、親分かよ、じゃあお前、オレに名前付けろよ」
「お断りします! あなた魔物でしょう? 名付けなんてしたら私、確実に死ぬもの。それにあなただって私に名付けなんてされたら契約になるわよ、いいの?」
ソラリス王国に限らず、どこの国でも魔力が合えば魔物と契約することは出来た。それほど多くもないが、従魔を連れている人は珍しくはない。
だが、もちろん私は出来ない。ライトも付けられないような極少魔力で契約など、夢見たことすらない。
「ちぇっ、じゃあ、王! って呼べ」
「ハイハイ、で、親分、ラピスアトリウムって?」
「だからぁ〜……ラピスアトリウムって、この辺一帯の名前だろ? ちなみにラピスアトリウムがオレの縄張りの範囲だ」
親分の話だと、私たち人間が『ネクロス大森林』と呼んでいたところが『ラピスアトリウム』。
たしかに『死の森』なんて人間側の目線にすぎない。人間がそう呼び始めるずっと前から『ラピスアトリウム』と呼ばれていたようだ。
「それよりなんでお前は生きてここまで辿り着いてんだ?」
ん?
「なんでって、歩いてきたから?」
「そうじゃねーよ。なんで迷わなかったんだって聞いてるの」
「そんなに塩食べて大丈夫?」
さっきからコウモリ親分は喋りながらずっと岩塩をペロペロしている。平気なんだろうか?
「なんかお前と話してると調子狂うな? 人間付き合い下手だろ?」
なっ!!!
コウモリにそんな核心を突かれるとは。
「う、うるさいな。私は全ての大地とお友達だからいいのよ!」
「あー、なるほどねぇ」
ペロペロしながらにっこり笑ってうんうん納得しているのがなんか腹立たしい。
「ところでお前の名前は?」
「ルナよ」
ルミナリアは処刑されて死んだ。
”ルミナリア”なんて、自分の名前だと思ったことすらなかった。光も魔力もないのにルミナリアってなんの冗談かと思い続けてきたのだ。
まぁ、闇を照らす月、っていうのもおこがましいけどルミナリアよりはマシでしょう。
「ルナは迷わないのになんで人間の世界に出ないんだ?」
「言ったでしょう? 帰るとこなんてないし……人間に囲まれて生きていく自信とかないし」
私ならこのネクロス大森林、改めラピスアトリウムから出ることも可能だ。
だけど、出ようとは考えなかった。
「石、いっぱいあるからここに住む」




