37. 冬を祓う夜の炎
夜の帳が下りるころ、自由都市アルカディアの広場は昼間とは別の顔をしていた。
石畳の中央には大きな篝火が組まれ、乾いた薪が高く積まれている。火の粉がぱちぱちと夜空へ弾け、凍りつくような空気を橙色に染めていた。
冬を祓う火だ。
結局お祭り初体験の誘惑には勝てずに私は今、群衆の中にいる。
ローレンスさんに、バルム商会に行く時、強盗らしき二人組に狙われて衛兵に助けてもらった話をした。
セオドアさんもひどく心配してくれて、護衛を付けると提案されたが丁重にお断りした。
二人ともお祭りを勧めてくれたのに、女の子がひとりで歩くのはそもそも危ないなんて言われたけど、そんなに私は子供に見えるのだろうか?心外だ。
さすがにこれだけ人がいれば強盗には合うまい。
スリは居るかもしれないけど、私はスられないので心配ない。
ローレンスさんたちには、人の少ないところには行かないと約束したし。
せっかくの初体験なのに、初対面の人と一緒に過ごしたら緊張して楽しめない。
それに私は一人じゃなくて「連れ」がいるのだ。
二人で楽しみたい!
そして今に至る。
私は深く被ったマントのフードの下で目を輝かせていた。
「何食べよう?」
「全部食べたい! 片っ端から買え!」
甘い香りが鼻をくすぐる。蜂蜜を絡めた焼き菓子。隣では串に刺した肉が炭火でじゅうじゅうと脂を落としている。向かいにはシチューのような物も売っている。香辛料の匂い。温めた果実酒の湯気。
全部は食べられないから……
「ひとつ、ください」
屋台の主人はにこにこと笑い、紙包みを差し出してくれた。
受け取った焼き菓子を半分こして、周囲の視線を確認してからペンダントの中の「連れ」に渡す。
私もひと口齧る。
表面はぱりっと固く、中はほろりと崩れた。ハチミツが甘い。
「ミネラルで食べる菓子の方が美味いけど、これはこれで悪くないな。おい! 隣の肉も買ってくれ!」
目の前で篝火に薪が投げ込まれ、炎が一段と高く上がる。
歓声、拍手。
炎が大きく揺れ、火の粉が夜へと散る。
囲むように子供たちが踊り、若者たちも歌う。
広場のあちこちで”ヴェイン”の旗がなびいている。
「ありがたいねぇ」
「これできっと冬も終わるさ」
そんな囁きが耳に入る。
誰も疑っていない。配給された薪が、この祭りの炎が、冬を祓うのだと。
篝火の炎と人混みで、刺すような冬の風は和らぎ、ここはいっとき暖かい。
煙がゆらゆらと立ち昇り、空の星を滲ませる。
……この紋章、何かに似てる気がする。
魔法陣? 似てるけど丸くないし。
なんだったかしら?




