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魔法が使えない鉱物オタクの王女は、捨てられた山で王になる  作者: May
第二章『ミネラル』

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35/45

35. 魔王誕生!?

 

 先程の小さな?事件の余韻も覚めずモヤモヤした気分で再度バルム商会へ向かう。


 街の中央に近づくにつれてなんだかいつもより明るい雰囲気が感じられた。


 広場の中央に出ると、見慣れないほど高く薪が積まれているのが見えた。

 冬の貴重な薪だけど大丈夫なのかな? 

 乾いた木肌が、白い空の下で不自然に整然としている。

 通りには色布が張られ、子どもたちが走り回り、いつもは節約のためか閉めがちな店の扉も、今日は開け放たれていた。

 ――笑い声が、多い。

 けれどその笑いは、どこか硬い。


 魚屋は桶の氷を割りながら、「今夜は祭りだぞ」と大声を張り上げる。

 祭り?

 冬の只中に、こんなに大きな火を焚くの? 

 風が冷たい。

 地上では春の気配はどこにもないのに、広場には春を呼ぶ歌の練習が響いている。

「神様の怒りを鎮めるんだとさ」

「北で魔王が生まれたらしい」

「火を焚けば、溶けるってさ」

 誰も本気で怯えてはいない顔で、そう言う。

 けれど、あの薪の山は高すぎる。

 あれだけあれば、何十軒分の夜を越せるだろう。


 あ、お祭りだから衛兵の人たちがたくさん見回りしてるのか。

 だったらお祭りに助けられたな。

 そんな事を考えながらバルム商会に到着すると、ここも例外なくいつもより賑わっていた。


「なんか忙しそうな時に来ちゃったな……」

 独り言を言いながら入るのを躊躇っていると入口で誰かと話している支配人のセオドアさんが声をかけてくれた。


「ルナさん! お待ちしてましたよ、さぁさぁどうぞ。今旦那様を呼んできますのでね」

 と、客や従業員の間をかき分けていつもの応接室に通してくれた。


 久しぶりに会うローレンスさんはいつも通り柔和な笑みを私に向けて丁寧に挨拶をしてくれる。

「あの……お祭りって知らなくて忙しい日に来てしまって申し訳ありません」

 私もできる限り丁寧に挨拶する。


「いえいえ、お祭りは急に決まったんですよ。配給のことはご存知ですか?」

「配給? ですか」

「えぇ、”ヴェイン”が世界的な大寒波への対策として燃料の配給を始めたんですよ」

「”ヴェイン”って確か……ほとんどの国が加盟する慈善団体……だったでしょうか?」

「ルナ様は博識でらっしゃいますね。概ねその通りです」


 世界的大寒波とはいえ、ここアルカディアは自由都市。商業、流通の中心地の為にまだ燃料には困っていないそうだ。

 そこでその配給された薪を使って盛大に冬を祓う祭りを開催することが急遽決まったらしい。



「えっと、困ってないとはいえ、その……い、いいんでしょうか?」

「間違いなく、良くないでしょうね」

 そう言いながら困った顔で笑顔を作っている。


「あの……、北で魔王が誕生したっていうのは……」

 今度は思い切りハッハッハ! と盛大に笑われてしまった。

「ルナ様もお伽噺がお好きなのですか? それが本当なら北の国々は大変なことになりますな」


 魔王とは、有名なお伽噺の勇者冒険譚で最後に討伐されてしまう悪者のことだ。私も小さな頃に読んでワクワクした記憶がある。


 ローレンスさんはもぅ一度ハッハッハとひとしきり笑い声をあげたあと、すっと口元の弧を消した。


 突拍子もない話だが信じる者が結構いるらしい。

 勇者待望論が上がり、どこかに勇者がいるはずだ! と国に嘆願書を出す者まで出てきたとか、自ら戦いに備えるために高価な剣も売れているという。名も無き若者たちが討伐のためのパーティーを組んで北に向かっていると言う話まであるらしい。


「人とは……魔王よりも、”わからない”ということの方が恐ろしいのですよ」

 俯きながらこぼしたその言葉は聞き取りづらかったが、核心をついていると感じた。


 だから、冬を魔王のせいにしていると……



「まぁ、そんな事を言いながら実はうちも便乗してましてね、様々な武器も取り扱っていますし、今夜の祭りにも協力して、おおいに儲けさせて頂いております」


 いたずらな笑顔を作り、重くなりかけた空気をパッとローレンスさん自身が切り替えた。


「ルナ様も祭りに参加されては如何ですか? 屋台なども多くでますよ」


 お祭りかぁ……ソラリス王国では民衆のお祭りは一度も見たこと無かったなぁ。

 でも寒いから帰ろう。





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