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魔法が使えない鉱物オタクの王女は、捨てられた山で王になる  作者: May
第二章『ミネラル』

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28/45

28.図書館

 

 加工職人のデニスさんが石のことを教えてくれることになって、弟子入りした!


「ところで嬢ちゃんは、誰に加工の仕方を習ったんだ?」

「誰にも習ってません。地上の世界では鉱物に関する資料や書物もほとんどありませんでしたから」


 私がいたソラリス王国の王宮は広い。王宮の中には森もあってよくそこで植物や鉱物を観察したり採取してきたりしていた。

 私の存在を気にする人も特にいなかったので、いつも誰に咎められることもなく森へ行っていた。陰口は増えていたが。


「なるほどな、それでそんな中途半端な知識で中途半端な加工してんのか」


 悪気のない言葉ほど心を抉られる。うぐっ……


「す、すみません……」


「それなら図書館に行くといい。鉱物の本が山ほどあるからな。フラン先生の研究結果を纏めた物もあって結構面白いぞ?」


 ぴたり。


 何気ない言葉に動きが止まる。

 突然目がきらん、と光った。

 宝石の内側に日を灯したように、ぱあっと輝く。

 頬がふわっと紅潮して呼吸が静かに弾ける。

「図書館? 鉱物? 本? 沢山?」

 想像してふるふると肩が震える。

 俯きがちな少女はどこへやら、瞳は鉱脈を見つけた探鉱者そのもの。


 きらきらきらきら。


「相変わらず気持ち悪いぞお前」

 キーパーがジト目でお茶をすすっている。



 *** 

 地下都市ミネラルの図書館は、意外にも都市の中心部ではなく、研究施設が並ぶ階層にあった。近いからとデニスさんが案内してくれる。

 図書館の中は静かだった。

 静か、というより――石が息をしているような空間だった。

 天井は高く、淡く光る【カルサイト】(方解石)の板が幾重にも重なり、やわらかな白光を落としている。壁は磨き上げられた【オブシディアン】(黒曜石)と、ところどころに埋め込まれた【フローライト】(蛍石)の帯。床は淡い【ラブラドライト】で、歩くたびに青い光が足元を流れていく。

 そして、その中心に。

 ――鉱物に関する書物。


 視界いっぱいに広がるのは、背表紙の色だけで宝石箱みたいな書架。

 声にならない声が漏れた。

 ぱたぱた、と駆け寄る。

 最前列の棚に指をかける。触れた瞬間、背表紙の細かな石粉がさらりと光る。私の目も、同じくらい光っていた。

 本を一冊抜く。

 ん?……

 次も抜く。さらに抜く。

 あ……

 ページを開く。

 ぱらり。

 うーん……


「どうした? 嬢ちゃん」

「あ、あの……字が……読めません」

「えっ? 嬢ちゃん、字読めねぇのか」

「いえ、地上の世界の文字は読めます」

「あーあ……」


 文字が違ったのだ。少し考えればわかったかもしれないが、手に取るまで思いつきもしなかった。せっかくこんなに沢山鉱物の本らしきものがあるのに……


 ただ、図鑑なのか絵が沢山載ってる物や、分布図なのか地図に石の絵と共に説明書きされてる物は、パラパラとめくるだけでも楽しい。

 読めないけど鉱物の本に囲まれて私の瞳はきらきら光り続けていた。

 図書館の方も【ラブラドライト】の床が、書架の【フローライト】がほんの少しだけ嬉しそうに明るくなっている気がした。

 読めないけど……




 ――私とキーパーが地下都市ミネラルに落っこちて、文字の読解に頭を悩ませてる頃、地上都市アルカディア、いや、地上世界全体で私にとって不穏な空気が流れ始めていたのをもちろんまだ知らない。――



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