20.【キーパー】トビラとルナを守る者
私と、トビラのガーディアンであるコウモリの魔物……じゃなくて精霊の親分は、『ミネラル』の中央にあるバレンタインさんの屋敷に招待された。
ソラリス王国の王城よりはだいぶ小さくて、城塞や城塔のような物はない。私が知っているお城とは違うけれど見える限りでは一番大きくて荘厳なお屋敷だ。
「まぁ! 可愛らしいお嬢さんね。ようこそ、自分の家だと思ってゆっくりしてね」
「フローレンス、ルナさんが驚いてしまってるよ。それに彼女には王子様が付いてるんだ。きちんと礼を尽くしなさい」
バレンタインさんがフローレンスと呼んだ女性は、濃い青の髪を低い位置で緩くまとめ、
ドレスではなくグラファイトグレー(濃い灰色)のワンピースを着ていた。こんな地味な色なのに布の質のせいか仕立ての完璧さのせいか飾りも多くないのに雅で美しかった。
そして……
「まぁ! この石が気になる?」
「は、はい……青……緑……紫?」
胸元で光るフローライトのペンダントが光の角度で色を変えている。グラファイトグレーのワンピースの為にある石のようだ。
「フフフ。フローライトはね、私の名前の石なのよ、さぁさぁ中に入ってお話しましょう? トビラとルナさんのガーディアン様もね」
悪戯な笑顔で右目をパチッとウィンクした瞳は、ターコイズのような濃い緑色をしている。
「なんでお前たちまでいるんだ?」
一同はサロンに通された。
一同とは、研究者のフレデリックさんと加工職人のデニスさんもなぜか着いてきた。
ちなみに親分の席まできちんと用意されている。
「なんでって、まだなんの話も聞いてないのに帰れるわけがないじゃろうが!」
「嬢ちゃんの体のあちこちから石の声がするぞ。石たちの正体を確かめないといかん!」
二人とも謎なことを言う。
「まぁ! デニス、年頃の女の子になんてこと言うのかしら。ガーディアン様に威嚇されてますよ」
「その、ガーディアン殿じゃがのう、名前がないというのは不便ではないか? 嬢ちゃんが名前をつけてやらんのかね?」
「ルナは魔力がないからな、魔物だと思っていたオレに名付けすると危ないと思ったんだよ」
コクリ……と頷く。
「なんじゃ、それなら今名前を付けたら良いじゃろう!」
「そうだな、精霊は名前があると存在が安定する。名付けをしても嬢ちゃんに悪いことは起きないぞ?」
「そうなのか! ルナ、じゃあオレに名前付けろ!」
全員に注目されてどうしたらいいかわからず、上目遣いで親分を見た。
コウモリ……ガーディアン……トビラ……
ゲート?
「キーパー? はどう?」
「まぁいいだろう。これからもお前を守ってやる」
「……うん! キーパー?」
「まぁまぁ! 素敵な名前じゃない! ねぇ、あなた」
「ああ、トビラとルナさんの守護者に相応しい名だな」
俯いたままそーっとみんなの様子を見ると楽しそうに笑っていた。
「ルナちゃんは甘いものは好きかしら? なにが好きかわからなかったから色々用意させたんだけれど、食べられるのあるかしら? クララ、全部取り分けてあげてね」
「かしこまりました、奥様」
クララさんはメイドさんのことのようだ。
「あ、ありがとう存じます……」
目の前には見たこともない菓子が沢山並べられた。こんなに食べられない。
親分……じゃなくてキーパーの前にも見たことがない果実が沢山並び、キーパーの口元からヨダレがこぼれそうだ。
「ねぇ、あなた、ルナちゃんはずっとうちに居てもらっていいわよね? クララたちに客間ではなく部屋を用意させたのよ」
ムシャムシャとオレンジ色の果実を齧る親……じゃなくてキーパーを楽しそうに見ながらはしゃいでいる。
「フローレンス、はしゃぎ過ぎだ。ちゃんとルナさんとキーパー殿の意見を尊重するんだぞ?」
「そんなのわかっているわよ」
バレンタインさんとフローレンスさんの間には息子さんが二人いて二人とももう一緒には住んでいないらしい。女の子がいないから嬉しいのだと言ってくれた。
「困ったものだな、すまないねルナさん。良かったら好きなだけここに居てくれ」
「あ、あの……ありがとう存じます」
「おい、ルナ、これすっげー美味いぞ、お前も食ってみろよ」
「う、うん……」
茶色い小さな宝石を少し齧ると口の中ですぐにとろけてなくなった。甘さの余韻だけがいつまでも残っているが、私の知ってる砂糖菓子のようなザラついた舌触りや頭の痛くなるような甘さはない。
「と、とても、おいしいです……」
「まぁ、良かった。ショコラは気に入ってくれたのね。また沢山つくらせましょうね」
なんだか今起こってることが現実とは思えなくてフワフワと落ち着かない。
どの菓子も美味しそうだけど、それ以上手を伸ばす気にはなれなかった。
ルナちゃんがみんなに可愛がってもらえるのが嬉しくて、なかなか話を進められず、すみません……いい加減次こそは!




