17. 春
とうとう死ぬのね……
アルカディアの街で捕縛用の魔法陣の光に襲われた。
転移石のガーネットに「森の一番奥」と指定した後……
落下している最中だ。
耳の遠くで風が悲鳴のような音を立てているが、すでに恐怖で思考は切り離され、ただ眼下の景色を瞳に映しているだけだった。
あたたかい風の気持ち良さに身を委ねると、跳ねたペンダントから親分が飛び出したかと思うと、マントのフードを掴んでいた。
体が急停止して勢いでまたゆっくり落下しはじめる。
「首……絞まっちゃうんだけど」
「お、重いぞ、お前」
こんな時ちゃんとお礼を言えたらいいのに。
落下の恐怖がまだ身体に残ったまま私はゆっくり息を吸った。
――? 冷たくない。
そうだ、ここの風は柔らかくてあたたかいんだ。
「なぁ、これはなんて言うんだ?」
「……春。たぶん」
おとぎ話で見た春に似ている。
甘い土と草と花の香り。私たちの眼下に広がっていたのは雪でも灰色の大地でもなく、まるで絵の具をこぼしたような無数の色が混ざり合ってキラキラ輝く世界だった。
私だけじゃない、季節はいつも冬で人間は灰色と凍った空の青しか知らないと思っていた。
こんなにも沢山の色を作り出せる世界に一瞬で魅了されてしまった。
黙って春を見下ろす私を静かに”縁”におろすと親分もそっと隣に座る。
「すげーな、ここ」
ここは都市の上層部。巨大な空洞の内側に段々と張り付くように大地が広がっている。道は水平ではなく、ゆるやかな弧を描きながら、真下の都市部に向かって階層を繋いでいた。見える限りでは一番下の都市はアルカディアより広そうで、さらにそれぞれの階層にも田畑や様々な建物が連なっている。
下に行けば行くほど人の気配が濃いように見えるがここはまだ誰もいない。
「どこだろうね? ここ」
答えを知らない二人が問いを繰り返しながら暫く二人でただ見ていた。
風に揺れていた草が、不意にざわりと音を変えた。
親分が先に気づいた。
闇が、わずかに濃くなる。
次の瞬間、背後で金属が擦れる乾いた音がした。
「動くな」
低く、よく通る声だった。
私が振り向くより早く、視界の端に銀色が並ぶ。
五、六……いや、七人。
半円を描くように距離を保ち、こちらを囲んでいる。
先頭に立つ男が、一歩前に出た。剣先は迷いなく、私の喉元を指している。
「何者だ? どうやって入ってきた?」
春の光を受けた刃は、冬の雪よりも冷たく輝いていた。
「……何者だ」
問いは、まだ続いている。
答えを持たないまま、剣先の向こうで揺れる春を見つめた。




