12.【スティブナイト】ご機嫌バージョン
「なんか付いて来てるぞ」
「やっぱり? なんか変なことしたかなぁ」
普通の海水塩を装った岩塩をバルム商会で買い取ってもらって、私たちは買い物をしているのだけど、なんか尾行されている。
「でも敵意はなさそうよね、街を出ても付いてきたらなんとかするわ」
今更だけど、買い物をしていて、金貨5枚の価値が少しわかってきた。
古着だが、外套でも銀貨6枚、お釣りがないように大量の普段着や肌着を買うはめになった。
どう考えてもあの程度の塩で金貨5枚は貰いすぎちゃったわよね……
他にも小麦粉や、鉱石を加工する為の道具などを購入したが、金貨はまだほとんど残っている。
「なぁ、なんか増えてるぞ? しかもめんどくさそうな人間が増えてる」
「うーん、何の用だろう? この石を使うのを見られるのは困るわよね」
右手に着けている歪な形の転移石を手のひら越しに太陽に透かしてみる。
「フフッ、綺麗ね」
素知らぬ顔してしばらく店を見て回りながら人通りの少ない方へ入る。
――来た。
背後で靴音が重なった。二人、いや三人。
「お嬢ちゃん、一人でこんな所歩いてたら危ないよ」
冒険者なのか、三人のうちの一人は腰に剣を差している。ニヤニヤと気持ち悪い笑みで距離を詰めてくる。
逃げ道は、細い路地。
「何か御用でしょうか」
「へー、見た目より気が強そうだ。おじさんたちお金に困ってるんだよね」
なんだ、金貨が目当てか。
ジルコンやヌーマイトの方が金貨よりずっと価値があると思うのだがこの手の人間にモノの価値などわかるまい。
私の素性がバレたわけでもなくて良かった。
目的が分かれば私の方は用は無い。
更に路地に誘導して、
彼らの足元に石を叩きつけた。
懐に忍ばせておいた脆くて軽い黒銀色の小石【スティブナイト】(輝安鉱)だ!
投げた瞬間、『任せて!』と手の中でスティブナイトが嬉しそうに、きん、と鳴いた。
次の瞬間、
――パンッ!!
乾いた破裂音と同時に、視界が真っ白になった。
「っ!?」
ご機嫌でやる気満々なスティブナイトの白銀の閃光が路地いっぱいに弾け、続いて黒い粉と刺激臭の煙が爆発的に広がる。
光が、音が、強すぎたかしら。
熱はない。
でもちょっと派手。
金属が砕けるような音と、人の悲鳴。
「な、なんだこれ!?」 「目が、見えねぇ!」
あ――しまった。
通りの向こうで、人の声が重なる。
人が集まってくる気配がする。
「……おい」
ペンダントから低く、不機嫌そうな声。
「なんでこんな物騒なもん作ってきてんだよ」
「だ、大丈夫よ、致死量じゃないわ」
「毒かよ!」
煙の向こうで、おじさんたちが咳き込みながら転げている。
これはもう、強盗騒ぎじゃない。事件になってしまった……
遠くで誰かが叫ぶ。
「おい! 何があった!?」「爆発か!?」
親分が舌打ちするのと同時に、闇が落ちた。
光が吸い取られるように消え、辺りの色が一気に沈む。
「お前を闇で覆った。見えにくくなってるだけだから今のうちに走れ!!」
私は騒ぎの反対方向に駆け出した。
背後ではまだ、ざわめきと混乱が続いていた。
「なぁ、お前驚くほど走るの遅くないか?」
「う、うるさい。走ったことなんてないもの!」
◇◇◇
※販売されている【スティブナイト】のパワーストーンなどは水晶に包まれているため、身に付けても安全です。




