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18 響子の理想の恋愛

傷心の英介のもとに響子からメールが来た。

「今日はよく確認もしないで暴力を振るったりしてごめんなさい。あなたは言い訳もせずに帰ったけど、後になって瑠璃子が本当のことを言ったの。


あなたに迫ったのは瑠璃子なんですってね。私にこの埋め合わせをさせてちょうだい。


明日の午後2時に次のURLのピアノのあるスタジオを予約したので、ヴァイオリンを持ってきてください。こんな私を見放してなければ」


 またしても自分勝手なことを言ってきた。急に明日の午後2時になんてこちらの都合を伺おうなんてことは微塵も考えていないらしい。そこがいかにも響子らしい。


もちろん都合がつかなければその旨メールすれば、ということだろうし、それ以前に彼女の計画に合わせて都合をつけてしかるべき、と言われているようでもある。


英介は考えた。これで2回も暴力を振るわれていることだし、いっそのこと見放してやるか。


 翌日の午後、響子は予約しておいたスタジオにいた。目の前にはピアノがあり、ヴァイオリン用に譜面台もある。響子は時計を見た。既に2時を15分過ぎていたが、英介は現れない。響子は彼女にしては大きめな声で独り言を言った。


「遂に見放されたってことね。また愛も潤いも無い生活に逆戻りか。


この世には彼のような人はなかなかいない。もっと彼を信じ、彼を大切にするべきだったわ」


諦めてピアノに向かい、ベートーベンの月光を弾こうとした時、ドアがバタンと開いて英介が入ってきた。ヴァイオリンを背負っている。


「見放してなんかいないさ」

「じゃ、またパガニーニの『カンタービレ』を一緒にやってくれるの?」


「もちろん」

「あなたは心が広いのかしら。それとも変わってるのかな。それはともかく、このスタジオなら周囲が透明のガラスだから人目があるし、あなたは性的欲望を抑えやすいんじゃない?」


「そんな、どうして私が」

「ごめんなさい。冗談よ。わざと戯れにこんな言い方しちゃったの。


でも、思い出してみて。以前の私だったらこんな冗談は言わなかったでしょ。こんな言い方したりするのは、あなたを信頼し、親しみを持つようになってきているってことなのよ。


瑠璃子は無邪気な小学生を脱皮して難しい年頃になってきたみたいだから、これからは瑠璃子抜きで、このスタジオで二人でやりましょうよ。それでいいかしら?」


「いいけど、じゃスタジオの使用料は折半かな?」

「メールで埋め合わせをさせてって書いてあったでしょう。今日から5回目まではお詫びの印に私がもつわ。6回目から折半でどう?」


「了解。じゃ、始めようか」

二人はパガニーニの『カンタービレ』を心から楽しみ、味わいながら合奏した。英介のヴァイオリンはまだまだで、相変わらず音程を外したり、時々つっかえたりしたが、それでも弾いていて楽しかったし、お世辞にもうまいとは言えない自分の演奏を、響子のピアノが支え、ヴァイオリンとピアノの美しいハーモニーがスタジオに響いていた。


響子は余裕をもってピアノを弾き、時々笑顔で英介の演奏をしている様子を見ながら、心から音楽と英介との清らかな交わりを楽しんでいるのだった。これこそが響子にとって理想の恋愛なのであった。

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