17 瑠璃子の意外な言い訳
英介はまた合奏練習をしに響子の家に来ている。パガニーニのカンタービレは本当に素晴らしく、酔いしれるような感じで弾いているパートもある。
ピアノの伴奏は響子にはやさしすぎてやや物足りないのだが、時々つっかえたりしながらも一生懸命に、しかも楽しそうにバイオリンを弾いている英介との合奏は響子にとっても心踊る経験だった。
先月の瑠璃子とのことは忘れかけていたし、別に気にしていなかった。昔から『女心と秋の空』というが、特に瑠璃子の年代では、まだまだ子供から脱皮していないようなところがあるので、尚更すぐに忘れて気が変わるものだと英介は思っていたからだ。
現に瑠璃子は以前と同じようにおとなしく譜めくりをしたり、姉に代わってピアノを弾いたり、デザートを用意したりしていつもの通りの瑠璃子だった。
ところが隣の部屋にある電話が鳴り、それに対応するために響子が途中でそちらの部屋へ行ってしまうと、急に瑠璃子が英介のところへ来て、彼の両肩にそれぞれの手をかけて少し背伸びをしながら唇を英介の方へ向け、
「お姉ちゃんが戻る前にキスしてちょうだい」
「そんなことできないよ。ど、どうしたの?最近の瑠璃子ちゃんおかしいよ」
「これまでの瑠璃子とは違うって言ったでしょ。もう私は中学生だから、大人の仲間入りをしたの。さあ、キスして。友達に自慢するんだから」
「それっておかしいでしょ。友達に自慢したいからキスするなんておかしいよ。気持ちが大切でしょ」
「友達に自慢するのは結果を報告するようなものよ。私がキスしたいのは、あなたが好きだからってこの前も言ったでしょ」
「まだまだ君は移り気な子供だよ。恋に恋してるって感じなんじゃない。ちょっと背伸びしたいだけなのさ」
すると瑠璃子は泣きじゃくりながら大きな声で
「違う。瑠璃子は本当に英介さんが好きなの。キスしてくれないとやだ。キスして。キスして」
するとバタンという音がして響子が怖い顔をして二人に近づいた。
「何やってるの?」
すると瑠璃子は
「英介さんが私に無理やりキスしようって迫ってくるの」
次の瞬間響子は英介に思いっきりビンタをした。
「こんな子供に手を出すなんて、最低!帰って!」




