ちょっとした流行
「ねえ見て、お母さん。“あれ”売ってるよ!」
「ほんとだ……可愛いわねぇ。なんて名前なのかしら?」
「えっと、えっと……『やさ顔ミニミヨロ』って書いてある〜!」
──王都南区、雑貨通りの露店にて。
そこには、あの鎧を模したぬいぐるみが、ややデフォルメ気味のフォルムで
やたら整ったディスプレイに整列していた。
口にはチャックが付いていて、荷物が入れられる仕様。
肩には「おつかれ様」と刺繍され、なんか癒し系。
しかも──
「口から名言が出るよ!全部でランダム10種入り!」
「※例:『俺は置物だが、お前の心は動かせる』」
──誰だ、こんなの作ったの。
***
「えっ、それ君気づいてなかったの?」
「……うん。まじで知らなかった」
王都を出る前日。
リクは士官学校の校内売店の端にある小棚の前で、
完全に目を丸くして立ち尽くしていた。
隣にはユイチ。
例によって冷静に一言。
「むしろ、最近じゃそこらじゅうで見るよ。
小さい子とか、寝る時に抱っこしてるし」
リョウ先輩も後ろからひょこっと顔を出す。
「てか、“持ってると守られる”ってウワサになってるからね。
神官課程の俺たちにも人気あるし!」
「いやいやいやいやいや!」
リクは顔を覆った。
「本人、知ったらどう思うかな……」
***
「くしゅん」
『……誰かが俺の噂してる』
ヨロさんは、王都の宿の床の上、ふかふかの座布団に正座していた。
テーブルの上には、なぜかお茶と菓子。完全に“和風居間スタイル”。
『……ま、俺ぐらいになると、いろいろ語られちゃうわけよ』
彼の隣には、何かを読んでいたリクが静かに一言。
「ヨロさん。……“やさ顔ミニミヨロ”、売ってるらしいよ」
『……は?』
***
雑貨通りの一角。
ひとりの旅商人が、小さな子供に笑顔で言った。
「“あれ”はね、戦争を終わらせた奇跡の神具なんだよ」
「えー!そんなすごいの?でもかわいい〜」
「でしょ?でも内緒だよ。ホンモノは……今もどこかに、いるかもしれないからね」