王都は今日も、平和である
王都には今日も、陽が昇る。
かつてこの街が、炎に包まれるかもしれないと誰が思っただろうか。
かつてこの街が、“神具”の噂で揺れると誰が思っただろうか。
かつて私が、命を賭して最前線に立つことを誰が予想しただろうか。
そして今、この王都には──平和がある。
「閣下、午前の会議は軍務省との連携進捗についてです」
「次いで、戦後復興の基金に関する法案審議。午後からは使節団との面会を」
「了解。後の書簡は個人で目を通そう。任せる」
文官たちの動きは実にスムーズだった。
それもそのはず、私が倒れた間にずいぶんと“整備”が進んだのだ。
フェレル、あの男の書記能力は疑いようがない。
外では、兵士たちが朝の巡回に出ていた。
一部の部隊では、朝五時になると“号令”ではなく──
「はーい、腕を前に出して〜吸って〜吐いて〜! その調子!」
と、妙に明るい掛け声が響くという噂もある。
……聞かなかったことにしておこう。
私は王都の中心、政庁のバルコニーから街を見下ろす。
行商人の声。市井のざわめき。鳩の飛ぶ音。
戦の爪痕は、もうこの街からはほとんど見えない。
だが、私は知っている。
それが「奇跡」によって得られたものであることを。
二年前、私は“助けられた”。
鎧に、名も知らぬ青年に。
神具と呼ばれた存在に。
──その鎧は、確かに意思を持っていた。
──その青年は、誰よりも誠実だった。
今になって思えば、
彼らは“希望”の象徴だったのかもしれない。
あるいは、もっと俗な言い方をするなら──
「……夢、だったのかもしれんな」
「何かおっしゃいましたか?」
「いや。独り言だ。気にするな」
私がここに立っていられるのは、あの日があったからだ。
その日が、まもなく再び問われようとしている。
この平和は“何によって保たれたのか”。
あの日、“誰が戦ったのか”。
静かに、私は回想する。
過ぎ去った、あの“戦い”の日々を。
──これは、“安寧”の裏に隠された、もう一つの記録である。