ヨロさんと少年
「……で、お前、名前は?」
ズルズルと引きずられながら、俺はようやく少年に尋ねた。
「え? あ、僕? 僕はリク!」
「リクね……引っ張ってるから“引く”のリク……ってわけじゃないよな?」
「ちがうよ!陸の“リク”!じーちゃんがつけてくれたんだ!」
「……陸の“リク”ねぇ……」
やたら地に足ついた名前だな。
お前、俺を“神具”とか言ってる割に、けっこう現実的な由来じゃねぇか。
「じーちゃん、すごいんだよ!村のこと、なんでも知ってる!
納屋に鎧があるのも知ってたし、“いつか神が目覚める”って!」
「……それって、だいぶアバウトな予言だな」
「あと、ばーちゃんの腰痛も見抜いた!」
「それ多分、普通に日常観察のレベルだと思うぞ……」
「でもじーちゃん、僕に言ったんだ。『お前は“神様と出会う子”になる』って!」
「へぇ……」
やけにスピリチュアルなじーちゃんだな。そっち界隈の人間か?
「だからヨロさんと会えたの、すっごく嬉しいんだ!」
「……そうか。」
俺は屈託のない笑顔を受け止めきれずにいた。
社畜として働かされて、鎧で死んで…どこで間違ったんだろうな、俺の人生。
「ねぇねぇ、ヨロさんは、神様の中でどれくらい強いの?」
「知らねぇよ。
ていうか“神様の中の強さランキング”とか、存在すんの? この世界……」
リクは嬉しそうに話し続けていたが、
俺の中ではすでに“この世界の宗教事情”への不安が、静かに芽生え始めた。