治夫さんへ
今日は朝から、村のじいさんばあさんたちが、わらわらと集まっていた。
どうやら子どもたちの劇の稽古を、見に来たらしい。
「こっからじゃ見えんな。椅子、もうちょい高くするか?」
「でも段差つけると、腰が危ないでのう」
「ヨロさまの出番はどこじゃ。最初か? 中盤か?」
(……マジで、そこまで本気で観に来るんか……)
「リクー! セリフ間違えたー!」
「動きが棒すぎる! 神具さまはもっと重厚に! ってば!」
「俺、悪役やりたいって言ったのに〜! なんでヨロの剣役なんだよ〜!」
(いや、剣ってなに。俺そんなにアクティブじゃねえからな……)
「なんじゃ、今日は劇の稽古か」
「まぁ……声が楽しそうだったから、つい足が向いてしもうてな」
「わたしらも、若いころはよう踊ったもんじゃ……ほほほ」
(ほう、これは“観劇”じゃなくて、“見守り”ってやつか)
ばあさんたちが笑っていた。
じいさんたちが、杖をつきながら準備を手伝っていた。
俺は相変わらず、納屋から出られないままだが、
声はよく聞こえていた。
──その空気の中で、ふいに蘇ってきたのは、
生前の、とあるじいさんの記憶だった。
治夫さん。
介護施設にいた、とある利用者。
物静かで、よく読書をしてた。
着ぐるみの俺にも、ちゃんと「おはよう」と言ってくれる、
数少ない“人として接してくれた人”。
ある日、俺がピョンピョン跳ねて、ギャグみたいなことをやったとき、
他の誰も笑わなかったのに、治夫さんだけはクスッと笑ってくれた。
そして、こう言った。
「……きぐるみさん、きみ、芸が細かいねぇ」
中の人間を、透かして見ていたような口ぶりだった。
でも、責めるようでも、興味本位でもなかった。
ただ、やさしく、ふんわりとした、あの声音。
「きぐるみさん、今日もありがとね。明日もまた会おうね」
──あれには、救われたな。
汗だくで、無表情な人々の前で、
ピエロみたいに振る舞うことに、疲れ果ててたあの頃の俺にとって。
(……そうか。あれが、“俺のステージ”だったのかもな)
そんなことを思っていたら、
村のばあさんが、俺の前にそっとぬいぐるみを置いていった。
「これな、孫が作った“ミニミヨロ”言うてな。
“神具さま、やさしい顔してる”って……。
前のぬいぐるみはちょっとコワかったけぇ、作り直したらしいわ」
ぬいぐるみは、布の色も縫い目も、少し不揃いだったけど──
どこか、あたたかい雰囲気を持っていた。
ミニミヨロが、そっと納屋の隅でこちらを向いていた。
いつもの、歯が生えたデザインのやつじゃない。
ちゃんとした、やさしい顔のやつ。
(……お前、どこで売ってた?)
誰も答えなかった。
でも、どこかで“ありがとう”と言われたような気がした。
(治夫さん。あの時、あなたがくれた“言葉”は──
今も、こうして残ってるみたいです)




