邪神の鎧、その名はヨロさん
俺が怒りのメタルボイスを響かせたちょうどその時──
ガラッ。
「うわっ、しゃべった!!」
突如、納屋の木戸が開いて、小さな少年が顔を出した。
……十歳くらい、か? 両手に薪を抱えている。
「うそ、やっぱりホントにしゃべるの!? すげぇ!!」
「えっ、まって、お前、聞こえてた? 今の?」
少年は目をキラッキラさせて、俺の目の前まで駆け寄ってくる。
なんかテンション高い。というか距離が近すぎる。
「じーちゃんが言ってたんだ。『納屋に邪神の鎧がある』って。
こえーって思ってたけど、どうしても見てみたくて……カッコいい……!」
やめろ。見んな。その目で見んな。そんなピュアな目で鎧を見るんじゃない。
「邪神……って……俺が?」
いやいや待て待て待て。
俺はただの社畜だったんですけど!?
介護施設で着ぐるみ着て、笑顔ふりまいてただけなんですけど!?
それどこの界隈の信仰だよ!? 謝れ、八百万の神々に!
「ねえねえ?しゃべれる?お名前ある?」
「名前……? いや、あるにはあるけど……」
考えてみると、異世界に来てから「俺」としての名前って、なかった。
ていうか、「しゃべる鎧」って時点でだいぶインパクトあるし、今さら名乗るのもなんか恥ずかしい。
「うーん、じゃあ僕がお名前つけていい?」
「えっ、あ、まあ……勝手にどうぞ……?」
「じゃあ……ヨロさん! 鎧だし、わかりやすいよね!」
「いや、そのまんまだな!?
お前、センスあるのかないのかマジでわかんねえぞ!?」
「ヨロさん! 今日からよろしくね!」
パシン。
「え、なに──」
少年が突然、俺の胸板(鉄)に何かを張り付けた。
──手作りっぽい、お札だった。
「よし、これでお祓い完了!」
「待て待て待て。今なに貼ったの君!?」
「これ、母ちゃんが“厄除けに持っとけ”ってくれたやつ!
ちょっとボロいけど……神様に貼ったら、なんか良くなる気がしたから!」
「いや理屈おかしいだろ!?
なんで“お守り”と“お祓い”が同時進行なんだよ!?
それ、神に貼るもんじゃなくね!?矛盾してるぞお前!!」