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夢月の決断

 江戸の世には色々な殿方がいらっしゃいます。

 

 拷問に匹敵するお見合いの時を終えました。その後、私は再び三の丸大広間にて母上様と対峙しております。


「夢月。どの殿方の所に嫁入りするか決めたのですか?」

 有無を言わせない威圧感漂う母上様の表情。けれども私は恐る恐る本心をお伝えしました。

「いえ……どの殿方も私には夫婦めおととしてこの先長い時を過ごす自信がありませぬ……」

「なんですと?」

「せっかく母上様がお引き合わせ頂いた殿方ですが……」

「夢月、耐久力と言うのなら回数を重ねればついてくるものですよ?」

「いえ……そういう話ではなくて」

「それ以外に何があるのですか? 私には全く考え及びませんが?」

「……ウウッ……」

 私は一生を左右する夫候補があまりにも度が過ぎた個性で選ぶ事が困難であった事及び、母上様との会話が一向に噛み合わない事に困惑し、やり場のない涙を流してしまいました。 

「夢月。おわかりですか?」

「グスン……えっ?」

「あなたはやはり、この東州近藤家の娘ですね」

「えっ? ど、どういう事ですか母上様?」

「あなたを試したのですよ、夢月」

「ため……した?」

「あなたがお会いした殿方達は、言わば影武者です」

「影武者?」

「実はあなたに幕府から――つまり徳川将軍家から縁談の話がありました」

「えっ?! 徳川家?!」

「さようです。そこであなたが奇怪な殿方に流されないか試したのです」

「……仰る意味がわかりませぬ母上様」

「敢えて選ぶ事が困難な奇怪な殿方を三名集めて、そなたがどのような決断をするか……もし、妥協し誰かを選んだのであれば、この縁談はお断りするつもりでした」

「……」

「けれどもそなたは自分の意思を持った……その涙がその証拠です」


 これは仰天です。

 私の涙には深い意味が隠されていたのですね?


「さあ、今度こそそなたと夫婦になるお相手が特別貴賓室である亀甲の間でお待ちです。おゆきなさい」

「はい……」

「夢月、これだけは忘れてはなりませぬ。私はそなたの幸せだけを考えている……という事を……」

「はい……母上様、ありがとうございます」

 個性豊かな三名の殿方、母上様の言葉、そして徳川家からの縁談話。私は心の整理がつかないまま亀甲の間へ重い足を静々と進めました。

 しかしながら、母上様の最後の暖かいお言葉だけを頭にこだまさせ決意を新たにしました。


「おお、待ちかねたぞ夢月殿」

「遅くなり申し訳ありません。近藤家夢月にございます」

 徳川家の殿方は背が高く、目つきが鋭く整った顔立ち。いつか見た織田信長公の肖像画に似ていました。

「そなたは噂にたがわぬ美しさ。お会い出来て光栄でござるぞ」

「……そんな……ありがたき幸せです」

「さあ、それがしの鰻の舞をこれからお見せしよう」


 私は自害するしかないでしょうか?


 〈完〉


 


 

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