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第10話 あといっかいですの!!

「……ルール変更を要求する」


 フィッツはぽっちゃり黒髪と何やら話しこんだ後に、急にそんなことを言い出したんですの。

 フィッツはさっきまでブツブツ独り言をしたり急にテーブルを叩いたり笑いだしたりと大変不気味でしたが、今はなんだか妙に落ち着いてますわ。


 ですが……


『ふん! ルールへんこう? むだむだァ! このしょうぶ、カイチューがコイントスをするかぎり、どんなルールでもわたくしたちはぜぇったいにまけませんの! お~ほっほ!!』


 そう! カイチューがコイントスをする限り!


「コイントスはお前じゃなくて俺がやる。攻守交代だ。文句ないよな? アリン・クレディット」

『え!?』

「当然、文句なんてない。ですわ」

『ちょちょちょ、おまちくださいまし~~!!』


 フィッツはカイチューの回答を聞くとニヤリと笑い、何やらまたぽっちゃり黒髪と話し始めた。


 だから、この人は何でそんな簡単に了承するんですの~~!! ここまでいい感じでしたのに~~!!


『ていうかそのとってつけた”ですわ”はやめてくださいまし!!』

「わ、どうしたガキンチョ」

『どうしたもこうしたも、これじゃああなた、まけてしまいますわよ!!?』

「……え、お前もしかして気づいてたの?」

『とうぜんですわ! あなたのコイントスをまいにちみておりますから!!』


 私はカイチューと出会ったあの日から、毎日空いてる時間を見つけてはカイチューにコイントスを快くやってもらっている。

 そんな折、気づいたことがあった。カイチューはコインを弾くとき、全く同じ動きで弾くことがあるということと、同じ動きで弾いたときは同じ結果になっているということだ。


 と言っても、金貨に特別な仕掛けがあるわけじゃないですわ。カイチューは、弾き方やキャッチするタイミングを変えることによる表と裏の操作していたんですの。たぶん。


 つまり、この勝負の最中カイチューはイカサマをしていましたの。それもごりっごりに。


 フィッツが表か裏かを宣言した後、その逆になるようにキャッチすれば必ず外れる結果が出る、ということですわ!! あったまいいー!


『……あれ? でもさいしょ、たしかなげたあとにききましたわよね?』

「そうだけど」

『そ、そうだけどじゃありませんわ! もしあたってたらどうするつもりだったんですの!?』

「でもフィッツは外した。だろ?」

『~~~~~!!?!』


 この懐中時計……! 正直ちょっとかっこいいとか思ってましたが、やっぱり脳(があるかは知らない)の根幹からギャンブルに侵食されてますわ!


『というか、フィッツさまのルールへんこうって、もしかしてフィッツさまがカイチューのコインそうさにきづいたからじゃないですの?』

「まさか。世俗も知らないガキが数回見ただけで気づくような稚拙な技術じゃないよ」

『じゃ、じゃあどうして』

「何が起こってるかはわからないけど、あいつにやらせるのはマズいってことに考え至ったんだろ。当然の対処だな」

『……どうするんですの、これから。あと5かい、うんのしょうぶするんですの?』

「まあ見てなって。多分勝負はあと一回だけだ」

『……?』


 時折、カイチューは何か別の物を見ているような、よくわからないことを言う。


 そんな話をしていると、フィッツも取り巻きとの話が終わったのか、ぽっちゃり黒髪が席を外しどこかへと去っていった。何でしょう急ぎ足で。トイレですの?


「おいアリン・クレディット」


 フィッツは口を開いたと同時に手に持っていたコインを投げ返してきた。


 わ! びっくりしましたの! 急に投げないでくださいまし!


 ちなみにカイチューは平然とキャッチしていた。こういうとこかっこいいの許せませんわ~~。


「コインはこちらで用意するものを使わせてもらうよ」

「へぇ、これ使ってもいいのに」

「そんな不運の塊、もう触りたくもないね。今あいつに別のを取りに行かせた。少し待っててくれ」


 ああ、それで妙に小走りでしたのね。てっきり漏れそうなのかと……。


「そして、もう一つルール変更がある」

「ほう?」

「残り5回は無しだ。勝負はあと一回にする」

『え……!』


 どういうことですの……? フィッツの方から勝負の回数を減らす提案をしてくるなんて……。それに、あと一回と、さっきカイチューが言ってた通りになりましたわ。


「お前に損はないから嫌とは言わせないぞ」

「わたくしの好意だったのに、残念。ま、いいぜ、ですわ」

「そして、その勝負で獅子が出たら俺の勝ち、杖と剣ならアリン・クレディット、君の勝ちだ」

『え。ぜ、ぜんぜんひとつじゃありませんわ!!』

「5回中4回表が出たのに、次も表が出ると?」

「今日は獅子に愛されているらしいからな」

『ふたつめですわよね!? ききましたわよねカイチュー! いまの、ふたつめ!』

「……無粋だからそういうのは黙っとこうな」

「なに? 何か異論でもあるの?」

「あ、いやなにも。OKそのルールでやろう。獅子が出たらフィッツ様の勝ちだ」

「ふん。おいキーノ」


 一つ変えると言っておきながら二つ要求してきたフィッツは、さらに後ろのキーノさんにまで図々しく声をかける。キーノさんはこの勝負の最中、後ろでずっと私を見守ってくださっていた。それをぞんざいに扱おうものなら、この私が許しませんわ! 今は私、魂ですけど!


 私の後ろに隠れていたキーノさんがおずおずと顔を出す。


「な、なに……」

「使用人でも呼んでそこのテーブルを片付けさせろ」


 フィッツがビッと指をさしたのは、複数回の振動で無残にもグラスが倒れてシャンパンやらなにやらがこぼれてぐちゃぐちゃになっているテーブルだ。


「それは、あなたが……!」

『あなたがドンドンやったからですわよね~~!! それをほかのひとにかたづけさせようとするなんて!!』

「いいからやれよ。文句あるの?」

『むき~~!! なんですのこのかたは! キーノさん、こんなかたのいうことなんてきくひつようありませんわ!』

「……わかり、ました」

『……キーノさん』


 私の魂の声は当然聞こえず、キーノさんは近くに使用人の元へ静かに駆けていく。

 そして、調子に乗ったフィッツはさらにいじめていた男の子にも悪意を差し向ける。


「おい騎士くずれ。お前は水を持ってこい」

「……」

「聞こえただろ。さっさと行けよ」


 フィッツの冷たく重い声に、その男の子は顔も上げずに従う。


 ぽつり、ぽつりと歩く姿は、今にも崩れていきそうで、危うい。


 ……あの子、勝負の最中もずっと俯いておりました。あの感じ、放ってはおけませんわね。


『あのこについていってくださいまし!』








「えぇ……めんど」

『いいからはやくいけ! ですの!』





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