第一巻 第六章 (ソクラテスの節制、自制)(必要とする物が無いのは神性)(知恵を教える報いは善友)
第一巻 第六章 (ソクラテスの節制、自制)(必要とする物が無いのは神性)(知恵を金銭で売り渡すなかれ)(知恵を教える報いは善友)(自分だけが政治家に成るよりも多数の善い政治家を教育するべき)
これ(、節制、自制、克己)に関連して、ソフィストのアンティフォンと(ソクラテス)の、ある議論は記録するに値する。
アンティフォンは、ソクラテスの友人達を(ソクラテスから)引き離そうと望んで、ソクラテスの友人達がいる前で、ソクラテスに近づいて、次のようにソクラテスに図々しく話しかけた。
アンティフォンは次のように話した。
「ええと、ソクラテスよ、私アンティフォンは『哲学の学徒は日々幸せが大きく成る事を期待できる』と常々思っていました」
「しかし、あなたソクラテスは、あなたソクラテスの哲学から(不幸という)他の結果を刈り入れているように見えます」
「いずれにしても、私アンティフォンには『あなたソクラテスは生きている』とは言えず、あなたソクラテスは、主人に仕えている奴隷でも我慢できないかのような生活様式で、生きています」
「あなたソクラテスの飲食物は最も安物の類ですし、衣服については、あなたソクラテスは唯一の劣悪なマントを頼りにしてしまっていて、唯一の劣悪なマントを同様に夏と冬の用に供してしまっています」
「そして、あなたソクラテスは一年中、靴を足に履かないままでいますし、また、上半身の肌着を身にまとわないままでいます」
「また、あなたソクラテスは金銭をもらったり金銭をもうけたりする事に反対しますが、金銭を求めるだけでも快楽ですし、金銭の所有は生活の甘美さと独立性を全く増やしてくれるのです」
「自身に似せて教え子を作り上げようと試みたり(自身に似せて)友人の人格を形成しようと計画したりする教師の共通規則を、あなたソクラテスが守っているのかどうか、私アンティフォンは知りませんが」
(「自身に似た教え子を作り出そうと試みる教師の共通規則を、あなたソクラテスが守っているのかどうか、私アンティフォンは知りませんが」※別の版)
「しかし、もし、あなたソクラテスが、そうしてしまっているならば、自分の事を『劣悪なわざの教師』と呼ぶべきです」
ソクラテスは次のように話した。
「このように異議を唱えられたのですが」
「(次のように、)私ソクラテスは一つの事を確信しています。アンティフォンよ」
「あなたアンティフォンは、私ソクラテスの生き方を悲惨な物として、とても強烈に想像しているので、私ソクラテスのように生きるよりも、速やかに、死を自ら選ぶでしょう」
「では、私ソクラテスの生き方で何をあなたアンティフォンが非常に耐え難いと思っているのか、私ソクラテスと、あなたアンティフォンは、向き合って考えてみましょう」
「契約上、報酬を受け取る人は報酬が支払われた仕事を終わらせる必要が有るが、報酬を受け取らない私ソクラテスは、私ソクラテスが選んだ相手を除いて、話をするのに制約を受けないのでは?」
「あなたアンティフォンの食事よりも私ソクラテスの食事は健全性が足りないし増強性が足りない、または、あなたアンティフォンの食事量よりも私ソクラテスの食事量は非常に不足しているし非常に高価である、という根拠で、私ソクラテスの食事の規定量をあなたアンティフォンは軽蔑しているのですか?」
「または、あなたアンティフォンが市場で買っている調味料が結果として私ソクラテスが市場で買っている調味料を否定する事が有ったのですか?」
「あなたアンティフォンは、『食欲が激しく成るほどソースの必要性は無く成る』、『渇きが激しく成るほど風変わりな飲み物を求める欲求は無く成る(。渇きが激しく成るほど、例えば水といった、風変わりではない飲み物を求める)』と知らないのですか?」
「また、衣服については、あなたアンティフォンも知っているように、寒さのせいや暑さのせいで衣服を変えます」
「人々は足をすりむいて歩行の妨げと成らないように長靴や短靴を履くだけなのです」
「さて、私ソクラテスは、あなたアンティフォンに質問します。他の人々よりも多く、私ソクラテスが寒さのせいで家の中に留まっていたなんて事をあなたアンティフォンは今までに認めた事が有りますか?」
「暑さのせいで日陰を求めて誰かと争っている私ソクラテスをあなたアンティフォンは今までに見た事が有りますか?」
「『生まれつき病弱な者でも、訓練によって、肉体の管理をおろそかにしている大男を負かすように成る事ができる』と、あなたアンティフォンは知らないのですか?」
「訓練した特定の点において人は自身を創り上げる事ができるし、(前)より簡単に重荷に耐える事ができる」
「しかし、あれや、これや、肉体に降りかかるかもしれない(不運といった)、その他の物事を耐えるために常に自身を訓練している私ソクラテスは、例えば、多分あまり訓練していない、あなたアンティフォンよりも簡単に、全ての不運に勇敢に立ち向かう事ができる、と、あなたアンティフォンは、どうやら、知らないのでしょう」
「それで、腹の胃袋の食欲の奴隷や、眠気の奴隷や、性欲の奴隷から自由に成るために、あなたアンティフォンは、使用時に喜ばせるだけではなく、永続的な有効性により燃え上がらせられる希望によって喜ばせる、強力に興味深いものにとりつかれる事や、誘惑に抵抗する事よりも有効な手段を提案できますか?」
「また、次のように、あなたアンティフォンは知っているはずです」
「『自分が成功している事は何も無い』と感じている人には喜びが無い」
「喜びは『耕作であろうと、船による作業であろうと、人が偶然に従事するかもしれない多数の事のどれであろうと、諸事が自分と共に進歩している』と信じている人の物である」
「『諸事が自分と共に進歩している』と信じている人には、『自分は成功している』と省みる時に、喜びがもたらされる」
「しかし、全ての、このような事から齎される喜びは、合計すると、『より善く成っていっているという自意識』、『ますます善い友人達を獲得していっているという意識』よりも、倍、大きいのでしょうか?」
「私ソクラテスとしては、これ(、『より善く成っていっているという自意識』、『ますます善い友人達を獲得していっているという意識』は他よりも遥かに大いなる喜びであるという事)が、私ソクラテスが大事にし続けている確信なのです」
「さらに、もし自分の友人達や国家を助ける事が問題と成る場合、私ソクラテスと、あなたアンティフォンのうち、どちらに、これらの(、自分の友人達や国家といった)対象に専念できる自由な時間が、より多く有るでしょうか?」
「自分の友人達や国家に専念できる自由な時間が、より多く有る人は、私ソクラテスが今日も送っている人生を送っている人でしょうか? または、あなたアンティフォンが『非常に幸運である』と(誤って)思い込んでいる生活様式で生きてしまっている人でしょうか?」
「私ソクラテスと、あなたアンティフォンのうち、どちらが戦士の生活をより簡単に採用できるでしょうか?」(自分の正しい友人達や正しい国家を守るために戦う事は正しい事である。)
「戦士の生活をより簡単に採用できる人は、(あなたアンティフォンのように)贅沢な生活しか送る事ができない人でしょうか? または、(私ソクラテスのように)手に入る物なら何でも自分にとっては十分である(と少しの物で満足できる)人でしょうか?」
「(私ソクラテスと、あなたアンティフォンのうち、)どちらが、包囲されたら、より速やかに降伏して『ご容赦ください』と泣き叫ぶでしょうか?」
「(包囲されたら速やかに降伏して泣き叫ぶ人は、)(あなたアンティフォンのように)欲しい物が精巧な物である人でしょうか? または、(私ソクラテスのように)最も持ち合わせている手持ちの諸物によって幸せに暮らす事ができる人でしょうか?」
「あなたアンティフォンは、『幸福は贅沢によって成り立つ』と、(誤って、)ほのめかしてしまっているように思われます」
「私ソクラテスは、(あなたアンティフォンとは)違う確信を抱いています」
「私ソクラテスの考えでは、必要不可欠な物が全く無い事は、無上の神の特性の一つなのである」
「可能な限り必要不可欠な物がほとんど無い事は、無上の神に最も近く成る事なのである」
「そして、神聖な者は最強無比であるように、最強無比の次に強い者は、神聖な者に最も近い者なのである」
アンティフォンは、(ソクラテスからアンティフォンへの)非難に別の機会に言い返して、次のように、ソクラテスと議論して戦った。
「ソクラテスよ、私アンティフォンとしては、『あなたソクラテスは善良な正直な人である』と信じています」
「しかし、あなたソクラテスの知恵については、私アンティフォンは『(ソクラテスは知恵が)多い』と言う事ができません(。ソクラテスは愚かであると私アンティフォンは言わざるを得ません)」
「あなたソクラテスは(私アンティフォンから)ソクラテスへの(『ソクラテスは愚かである』という)評価に全く異議を唱える事ができないだろう、と私アンティフォンは考えています」
「なぜなら、私アンティフォンが言っているように、あなたソクラテスは、あなたソクラテスと交際するために金銭の支払いを求めません」
「けれども、もし、あなたソクラテスの今のマントや、家や、その他の所有物であれば、あなたソクラテスは所有物に幾らかの価値を決めているでしょうし、私アンティフォンは『無償で所有物を手放しなさい』と言うつもりは無いですが、あなたソクラテスは『(ソクラテス自身が決めた)価値よりも安く(他人の物や金銭と)交換しよう』とは決して夢にも思わないでしょう」
「私アンティフォンの考えでは、もし、あなたソクラテスが『ソクラテスとの交際には何らかの価値が有る』と思ったのであれば、その価値よりも金銭的に高いものを求めるだろう、と明らかに証明できた、と考えています」
「このように、私アンティフォンは既に話した結論に至りました」
「あなたソクラテスは善良で正直かもしれません。なぜなら、単純には利己的には、あなたソクラテスは人々をだまして金銭を奪いません」
「しかし、あなたソクラテスは賢いはずが無いです。なぜなら、あなたソクラテスの知恵には一銭の価値も無いからです」
この(アンティフォンからの)口撃に、ソクラテスは次のように話した。
「アンティフォンよ、『美しさや知恵を扱うのには正しい手段と間違った悪い手段が存在する』というのが、我々、人が頼りにしている、美しさや知恵に共通の確信です」
「(肉体の)美しさを売りにしている男は悪名を得てしまいます」
「しかし、もし同じ人(、肉体の美しさを売りにしていた男)が愛着している男の中に美しい心を認識して、その(美しい心の)男を友人にすれば、我々、人は『(美しい心の人を友人にした)男の選択は賢明である』と考えます」
「それ(、美しさ)と知恵は一緒なのです」
「最初に金銭的な価値を決めた人に金銭のために知恵を売り渡す男を、我々、ギリシャ人は『ソフィスト』と名づけています。まるで知恵を下品にも金銭で売り渡す男であるかのようにギリシャ人は(『ソフィスト』と)言うでしょう」
「しかし、もし同じ男(、ソフィスト)が、ある他人の気高い性質を認識して、この(気高い性質が有る)他人に全ての善い事を教え、この(気高い性質が有る)他人を自分の友人にすれば、我々、人は、このような人(、ソフィスト)について、『上品な心を持つ全ての善良な(都市国家)市民が行うべき義務を行っている』と言うのです」
「アンティフォンよ、この論理に従って、私ソクラテスにも審美眼が有って、ちょうど、ある人が自分の馬や猟犬に喜びを見出すように、また、ある人が自分の闘鶏に喜びを見出すように、そのように、私ソクラテスも善い友人達から喜びを受け取っているのです」
「そのため、(善い友人達から喜びを受け取っているため、)もし私ソクラテス自身に何か善い物が有れば、私ソクラテスは善い物を善い友人達に教えます」
「また、私ソクラテスは、善い友人達を、私ソクラテスが『これらの他の人達は、善い友人達が徳、善行、善への道で前進するのに役立つだろう』と思う他の人達に推薦します」
「古代の賢者達からの諸々の財産(である知恵)も、古代の賢者達の文書に書かれて後世の人達のために残されていて、私ソクラテスは、友人達と共有して、(古代の賢者達の文書を)ひもといて熟読します」
「(古代の賢者達の文書を読んでいて、)我々、ソクラテスと友人達の目が何か善い物(、知恵)に気づいた場合、我々、ソクラテスと友人達は、(知恵を)熱心に集めます」
「そうして、もし実に相互に友情を育む事ができたら、友情を『大いなる利益である』と思います」
私クセノフォンは、この(ソクラテスの)話を聞いた時に、「師ソクラテスは羨むべき人物であった」事と「ソクラテスは、我々、ソクラテスの言葉を聞き入れた人達を心の美しさと気高さへ導いてくれた」事を省みざるを得なかった。
さらに、ある機会に、アンティフォンは、「ソクラテスは、たとえ知恵が有っても、政治に自分からは関わらない一方、どうしてソクラテスは他人を政治家にするのでしょうか?」とソクラテスに質問した。
次のように、ソクラテスは答えた。
「私ソクラテスは、あなたアンティフォンに一つ質問をします」
「自分から独力で政治を行う事と、可能な限り多くの他の人達をこの政治という務めにふさわしい人達にするのに身を捧げる事のうち、どちらが、より政治家にふさわしい行動でしょうか?」