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第一巻 第三章 (巫女の助言)(神への祈り)(神と捧げ物)(性欲の恐ろしさ)

 第一巻 第三章 (デルポイのアポロン神殿の巫女の助言)(神への祈り)(神と捧げ物)(ヘシオドスの助言)(節制、自制の助言)(性欲の恐ろしさ)


 私クセノフォンがソクラテスとソクラテスの友人達についての色々な思い出を記録すれば、「ソクラテスは、善行を見せて、また、言葉で会話したり議論したりして、友人達に利益をもたらした」という主張を実例で証明するのに役立つかもしれない。

 そこで、最初に、宗教についてと、神について(私クセノフォンは記録する)。

 行動と言葉においてソクラテスのふるまいはデルポイのアポロン神殿の巫女ピュティアが捧げ物や祖先崇拝や同様の問題点に触れて「どのように人は行動するべきでしょうか?」という質問への返答として定めた規則に従っていた。

 デルポイのアポロン神殿の巫女ピュティアの返答とは「あなたの国家の法と慣習に従って行動しなさい。また、信心深く行動しなさい」であった。

 ソクラテスは、「(デルポイのアポロン神殿の巫女ピュティアとは)異なる全ての原理に基づいて行動する者どもは実に、おせっかいな者どもや無分別な者どもである」という考えを抱いて、「あなたの国家の法と慣習に従って行動しなさい。また、信心深く行動しなさい」という言葉を手本に、ソクラテス自身もふるまったし、また、他人にもふるまうように熱心に勧めた。

 ソクラテスの祈り文句、祈りは次のように単純であった。

「私にとって最善である物を私にもたらしてください」

 ソクラテスは「なぜなら、神々は何が善い物であるかを最も良く知っているからである」と話している。

 金や銀や独裁的な権力を祈る事は、戦いの際に博打(ばくち)で何か特定の物を投げる事と同然である。

 また、(金や銀や独裁的な権力といった、)そのような物を祈りの対象としてしまうと、その未来の結果は明らかに不確かに成ってしまう。

 ソクラテスは、貧弱な財力によって、実に、小さな捧げ物を捧げても、「十分な蓄財から頻繁に大きな捧げ物を捧げる者達よりも決して劣っていない」と信じていた。

 仮に、神々が小さな捧げ物よりもむしろ大きな捧げ物に喜びを感じてしまうならば、まさに神々御自身にとって確実に都合が悪く成ってしまうであろう。また、多くの場合、(神々は)善人達の捧げ物よりもむしろ悪人どもの捧げ物に喜びを感じなければならなく成ってしまう。

 (

 神々は善人達の捧げ物であるならば小さな捧げ物でも喜ぶ。

 この悪い世の中では悪人が金持ちに成りやすい。

 この悪い世の中では大きな捧げ物を捧げる事ができる金持ちは悪人の可能性が高い。

 「悪い世の中では金持ちは悪人の可能性が高い」という考えは聖書にも見られる考えである。

 )

 また、人々自身の観点からも、仮に、正しい人の捧げ物よりもむしろ悪人の捧げ物が天の神の目から見て気に入られてしまうのであれば、人生は生きる価値が無い代物に成ってしまうであろう。

 ソクラテスの確信は、「神々の喜びは、(神々に捧げ物を)捧げた人の神聖さ、清らかさ(、善良さ)に比例して、より大きく成る」という物であった。

 また、ヘシオドスが言った「あなたの力に応じて不死の神々に捧げものを捧げなさい」という言葉をソクラテスは常にほめたたえていた。

 ソクラテスはよく「そうなのです。友人達や良く知らない人々と交流する際も同様に、また、一般の人生の要求についてでも、人にとって『各人は自分の力に応じて行おう』という言葉よりも良い名言は存在しないのです」と話していた。「また、他人の意見を認める際にも(、人にとって『各人は自分の力に応じて行おう』という言葉よりも良い名言は存在しないのです)」。

 もし神からの合図がソクラテスにもたらされたようにソクラテスに思われたのであれば、ソクラテスを神の警告に背くようにさせるものは何も無かった。

 ソクラテスは、道を知っている人の代わりに、どちらかと言えば、途中で道を知らない盲人を導く事を引き受けるように説得されたかった。

 そして、ソクラテスは、人々の間で何らかの不名誉を避けるために、神からの警告に反する事をする他人の愚かさを非難した。

 ソクラテスは、自ら、上(の神)からの助言と比べて全ての人からの助けを軽視した。

 ソクラテスが自分の魂と肉体を委ねた習慣と生活様式は、普通の境遇下ならば、ソクラテスの習慣と生活様式を採用した誰もが、元気に生活する様子を見る事ができる物であったし、穏やかに日々を過ごす事ができる物であった。

 ソクラテスの習慣と生活様式は、費用については確かに問題が無い。

 ソクラテスの習慣と生活様式は、とても質素だったので、ソクラテスを満足させていた額も稼ぐ事ができない人は、実に、ほとんど働く必要が無いほどであった。

 食べ物に関しては、ソクラテスは、満足するのに十分なだけしか食べなかった。

 そうしていたので、ソクラテスは、ソースだけで十分に食欲を催した。

 一方、飲む事に関しては、ソクラテスは喉が渇いた時にしか飲まなかったので、飲んだ、どの時でも気分を一新できた。

 ソクラテスは、食事の招待を受けても、飲み食いし過ぎる誘惑を難無く避ける事ができた。

 そして、食欲を一定に制御できない人々へのソクラテスの助言は、飢えていないのに食べるように誘惑したり、喉が渇いていないのに飲むように誘惑したりする物をとる事を避ける事であった。

 ソクラテスは「飢えていないのに食べるように誘惑したり、喉が渇いていないのに飲むように誘惑したりするような物は、体質を破壊するし、同様に、胃、脳、魂に悪い」と話していた。

 また、次のように、少し皮肉を込めて、ソクラテスはよく話していた。

「(ホメロスの『オデュッセイア』で)キルケが男どもを豚に変える事ができたのは、非常に多数の美味しい料理で男どもをもてなした事による物に間違いない。オデュッセウスだけが節制、自制と『神ヘルメスからの働きかけ』によって無闇に料理に手をつける事を控える事ができた。そして、同様にして、オデュッセウスだけが豚に変えられなかったのである」

 とても多くの回数、ソクラテスは、このように、軽々と、しかし、真剣に、この話題について触れました。

 しかし、愛と美の女神アフロディーテ関係(の性欲)に関しては、ソクラテスの助言は、女性の美しい諸形態の魅力から強硬に離れる事という物でした。

 一度でも指一本でも女性の美しい諸形態の魅力に手を出してしまうと、健全な思考と落ち着いた精神を保つ事は容易ではなく成ってしまいます。

 ある個別の実例を取り上げると、

「ある時クリトブロスが美しい若者であるアルキビアデスの息子に口づけだけだが、口づけした」とソクラテスは聞いた。

 クリトブロスがいたので、ソクラテスは次のように問題提起した。

「教えてくれ、クセノフォンよ、あなたクセノフォンは『クリトブロスは健全な感覚を持っている人である』、『クリトブロスは理性的であるし身勝手な人ではない』と常に信じる事はできなかったね?」、「あなたクセノフォンは『彼クリトブロスは不注意や無謀さが顕著ではなく用心が見事である』と言う事はできなかったね?」

 私クセノフォンは次のように話した。

「確かに、私クセノフォンは『彼クリトブロスは不注意や無謀さが顕著ではなく用心が見事である』とクリトブロスについて言う事はできなかったです」

 ソクラテスは次のように話した。

「では、あなたクセノフォンは今でも『彼クリトブロスは、用心などとは全く逆で、短気であるし、無謀な、ふしだらな人である』と考えているんだね」

「このクリトブロスは短剣の中に飛び込んだり火の中に飛び込んだりするたぐいの男である」

 私クセノフォンは次のように話した。

「あなたソクラテスは、『彼クリトブロスは、とても悪い人である』という評価を下していますが、彼クリトブロスが、どんな事をしたのを見たからなのでしょうか?」

 ソクラテスは次のように話した。

「あなたクセノフォンは見ましたか?」

「奴クリトブロスは、若者達の中で最も美しい、黄金期の、アルキビアデスの息子に図々しくも口づけしなかったか? した!」

 私クセノフォンは次のように話した。

「いえ、でも、美しい若者に口づけする事が無謀にも危険を犯した事に成ってしまうのであれば、私クセノフォン自身もよく出くわす危険です」

 ソクラテスは次のように話した。

「何と貧弱な人だ!」

「美しい若者への口づけの後、あなた達の運命が、どう成ると思うか?」

「よく聴きなさい」

「すぐに、あなた達は自分の自由を喪失してしまう」

「あなた達は奴隷に成る契約書に署名する事に成ってしまう」

「強制的に有害な快楽で大金を浪費する羽目に成るが、あなた達の自己責任に成ってしまう」

「あなた達には、全ての気高い研究をする暇な時間など、ほぼ無く成ってしまう」

「あなた達は、誰も、狂人ですら、関わる対象として選ばないものに、自ら、最も熱心に、関わるように駆り立てられてしまう」

 私クセノフォンは次のように話した。

「おおっ、(半神半人の英雄である)ヘラクレスよ(、助けてください)!」

「美しい若者への口づけに存在する力は何て恐ろしいんだ!」

 ソクラテスは次のように話した。

「美しい若者への口づけの恐ろしさに、あなたクセノフォンは驚いているのか? いいえ! 驚く事は無い!」

「『タランチュラは硬貨よりも大きくはないが、タランチュラが人の口に触れただけで、タランチュラは犠牲者を痛みで苦しめて平常心を失わさせてしまう』のをあなたクセノフォンは知らないのか? いいえ! 知っているはずだ!」

 私クセノフォンは次のように話した。

「はい、知っています。でも、タランチュラは刺して何らかの毒を注入します」

 ソクラテスは次のように話した。

「ああっ、何と愚かな!」

「では、あなた達は『毒が全く目に見えない(物質的な物ではない)から美人達は口づけで何も毒を注入しない』と(誤って)思い込んでしまっているのか? いいえ!」

「『タランチュラは事前に犠牲者と接触している必要が有るが、美人は、犠牲者が一目、見ただけで、接触すらしなくても、どれだけ離れていても、(性的に興奮した)男にしてしまう何らかの毒を犠牲者に注入してしまう点において、男達が美人と最盛期に呼んでいる、この猛獣は、タランチュラよりも全く恐ろしい』のをあなたクセノフォンは知らないのか? いいえ! 知っているはずだ!」

「そして、多分、これ(、美人が離れていても心を射抜いてしまう事)が愛の神エロスが『射手』とも呼ばれる理由なのである」

「なぜなら、美人は、とても遠く離れていても(心を)射抜くからである」

「実に、あなたクセノフォンへの私ソクラテスの助言は、美形の者を見かけたらすぐに振り返らずに命からがら逃走するように大急ぎで逃走する事です」

「また、あなたクリトブロスに私ソクラテスは次のように話す」

「一年間、外国へ行きなさい。あなたが恋の矢の傷を治すには、とても長い時間がかかるのである」

 また、次のようにソクラテスは話した。

「愛と美の女神アフロディーテに関わる(性欲の)事では、食べ物や飲み物に関してのように、足場が不安定な全ての場所でのように用心するべきである」

「肉体が何らかで必要とする食事は除いて、障害を生じないはずの食事であっても、魂が不要とする食事は制限するように、少なくとも、自身を制限するべきである」

 実に、ソクラテスは、自身のために、明らかに、全ての点において用心していて鉄壁でした。

 多数の他人が雑草といった無価値なものを断つよりも簡単に、ソクラテスは美中の最美のものを断つ事に到達していた。

 要約すると、飲食物や、その他の感覚を誘惑するものに関して、ソクラテスは、魂についての知によって、(感覚を誘惑するものから)独立していた。

 このような(感覚を誘惑する)ものによって自分で自分の首を絞める人達に劣らず、ソクラテスは適切な生活様式によって楽しんでいたのを実際に誇る事ができたし、(感覚を誘惑するものによって自分で自分の首を絞める人達よりも、)ソクラテスの労苦は遥かに少なかった。

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