紅色の月
私に絡みついていたその手を切り落とした。断面から際限なく血が流れ、男は醜い叫び声と共に錯乱した。先程まで己が思うままに蹂躙していた相手にいとも容易く、赤子の手を折るがごとくもぎ取った。
床に伏す男の足を千切った。返り血が顔に付着したが、もはや不快感は無く、ただ虚無の感情のみが私を支配した。
畏怖するように、困惑するように、男は私を見る。何か叫んでいるけれど、もう私の耳には届かなかった。
耳を千切る。左目を潰した。男はなかなか失神しなかったが、玉を爆散させたとこで意識が飛んだみたいだった。
私を、そして私が弄んだ男の眉間に銃を2発撃ち込む。死んだのを確認して、魂を霊魂保管缶に収納した。
これは死ぬよりも苦しい責めを与えるためだ。CGOの掲げる正義でも、VBAの目指す大義でもない。私の、私だけの復讐のための兵器だ。
醜い男が収納された缶を立佳は見つめていた。
これは決別だった。確かにこの世界には救いも希望もあった。私はそれが美しいものだと思った。けれどこの世界には、それらを容易く塗り潰してしまうほどの絶望が多すぎる。
人は沢山の闇の中から小さな小さな光を見出して、それを導に道を歩んでいく。やがて大きな光となって、あなたを包み込む。それも分かった。でもその上で希望が安直なものだとしか思えなかったのです。
異常発生した魔素を嗅ぎつけたCGOの犬が上がってきている。恐らくBランクが3人、戦闘経験がほとんど無い私には荷が重い相手だろう。なんて、ウィルザードは思っているに違いない。
「無駄だよ」
階段で駆け上ってくるBランクの内1人の頭を爆散させる。魔素抵抗させる隙すら与えず、遠隔で爆発。さぞ彼らは混乱していることだろう。
「うん。ーー終わりだね」
夜空の闇は薄い紅に染まっている。魔素が大気に到達したものの、それより上に行けずにオゾン層に溜まっているからだとか。
月は妖しく紅色に光っている。私は半裸のまま、テラスの柵から身を乗り出した。
手を伸ばす。希望を見ないと決めたのに。絶望か、虚無か、何に縋りたくて私は紅色の月に手を伸ばしているのか。
「ーー滅びたいんだ」
ふっと呟いた私は、心に燻っていた灯火が最期に消えるのを感じたのだった。




