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政略結婚は白い結婚

「きみも気の毒なことだ。こんな強面のおっさんに嫁がされることになったのだから。まあ、おたがい意に添わぬ結婚というわけだ。そう認識していれば、構える必要もないだろう。おたがいに干渉せず、好きなようにすごすことにしよう。きみはまだ若くて美しいんだ。好きな男がいれば、こっそり付き合う分にはかまわない。一応、ダウリング侯爵夫人なのだから、世間体だけ注意してもらえばいい。そのかわり、おれも好きにさせてもらう。いいね?」


 ブラッドリー・ダウリング侯爵とは、最初からそんな感じだった。つまり、政略結婚だからおたがい割り切ろうということだった。


 彼は、わたしより二十歳年長である。そして、生粋の軍人で軍では将軍を務めている。彼は、強面なだけでなく超大型獣のように大きい。


 なにもかもがわたしとは正反対。


 わたしは、国王のお手つきの子。しかも、女の子ということもあって、王宮では散々な扱いを受けてきた。


 だから政略結婚だとはいえ、王宮から出て行けることがうれしくて二つ返事で嫁ぐことを了承した。


 嫁いできて最初に宣言されたのが、干渉しあわないとか浮気オッケーだとか、そういう内容だった。


 世間知らずであったことにショックを受けた。しかし、それはそれでいいのかもしれない。


 すくなくとも、王宮にいる人たちのあらゆる悪意にさらされることはない。


 それに、正直なところ嫁ぐという行為自体、まだ心の準備が出来ていない。


 あんな大きな人とだなんて、どうにかなってしまいそう。


 彼を一目見た瞬間、その大きさといかつさに恐怖した。


 いずれにせよ、彼がどんな人でどんなことを思っていようと、一人でいることには慣れている。


 ダウリング侯爵邸で一人、のんびりすごせるかもしれない。


 そう前向きに捉えることにした。


 そうして、のんびりはしているけれど寂しい毎日が始まった。



 ダウリング侯爵邸の居心地は決して悪くない。


 使用人たちの目がある為、部屋は侯爵の続きの間を使わせてもらっている。とはいえ、主寝室に負けず劣らず広い。けっして華美ではないし、置いてあるものも豪華すぎるわけではない。


 控えめだけど機能的。そういう家具や物が、ちょうどいい感じに配置されている。


 王宮であてがわれていた部屋は、その昔は使用人部屋だったところで、いまは使われていない部屋だった。その部屋は、王宮内でもだれも来ない忘れ去られた奥庭のそのまた奥にあった。


 それでも、その部屋にいるかぎりは、王宮内のあらゆる人々の悪意にさらされることがなかった。だから、古さや不便さは平気だった。


 それはともかく、いいのは部屋の居心地だけでない。侯爵家のメイドや執事や料理人たちは、親切で面倒見のいい人ばかりである。


 王宮の使用人たちとはまったく違う。


 だけど、親切にされたりかまってもらうことに慣れていないわたしは、どうしても気おくれしてしまう。だから、すごく不自然で不愛想な印象を与えているに違いない。


 なにせわたしは「ソッポ王女」と呼ばれて評判が悪いらしい。だから、それにふさわしく思われていてもおかしくない。


 いつの間にか、王宮内の人々に不愛想かつ傲慢という認識をされていた。不愛想で傲慢で、いつもソッポ向いている。


 そこから「ソッポ王女」とつけられたらしいけれど、そんなことはまったくない。


 そもそも、そう認識されるほどだれかと付き合ったことはない。それどころか、だれかに見られることもなかった。


 ほんと、わたしをどこまで貶めたらいいのかしら。だいたい、わたしみたいに価値のない人間を貶めて、なんの得になるのかしら? 意味があるのかしら?


 そう考えざるを得ないけれど、暇を持て余す人たちは、そういうことであらゆる隙間を埋めているのかもしれない。



 侯爵は、わたしが嫁いでからしばらくして王都でのデスクワークに配置替えとなり、屋敷に戻って来た。とはいえ、屋敷にいることも少なくなく、屋敷にいるときには大抵はどこかのレディに会いに行っている。


 わたしとすごすのは、公のなにかに夫婦そろって出席しなければならないときだけ。それも、人前ではエスコートしてくれたり側にいてくれるけれど、二人っきりのときには距離を置かれてしまう。


 彼に歩み寄ろうにも、わたしに対する拒否ムードが強すぎる。


 とてもではないけれど、歩み寄ったり打ち解けたりは出来なさそう。


 だから、そうそうにあきらめてしまった。


 その方が、彼もいいのかもしれないし。


 最初に宣言されてもいるから。ここは追いだされない為にも、分をわきまえてひっそりしている方がいいのでしょう。


 それにしても、あまりにもひどすぎないかしら?


 いつも彼の強面には、不機嫌か怒っているかの表情が浮かんでいる。そんな表情を見ていると、一度きりの人生、もっと楽しまなくてはと思ってしまう。そんな表情では、面白いことやしあわせが逃げてしまうわよ、とも。


 とはいえ、それはわたし自身にもいえることだけど。


 というわけで、嫁いで一年は経ったけれど、彼とすごした時間はかぎりなく少ない。


 とはいえ、さすがに年齢差や強面や体の大きさには慣れた。しかも、彼はときおりギャップを感じさせる可愛い表情になったり行動をとったりする。


 最初は怖くて不安ばかりだったそんな彼も、いまでは頼もしかったり可愛く思えたりするから不思議である。



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