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 国の上層部や王国騎士団内では、リアの話題で持ちきりであった。見目麗しいエルフの少女が単独でドラゴンを討伐する。その偉業は王国の歴史に連なる程の事であり、同時に脅威でもあった。それだけの武力を持つ彼女が王国に反旗を翻した時、果たして勝てる者は王国内にいるのだろうか? 彼女の人柄はよく知られているし、そんな事は起こらないだろうが。だが、逆に言えば彼女が王国から抜けた場合、国の戦力は大幅に低下してしまう訳であり、治安的な不安も残る。善の陣営に強い者がいるという事実は犯罪の抑止力となる。


 中々に難しい問題だと騎士団長の女騎士、アイゼンは思った。アイゼンは紅色の長髪が映える目つきがキツい系の美人だ。しかし歴戦の雰囲気を纏っており、彼女が騎士団長という最高戦力に座している事を証明している。


 自分達、王国騎士団でもやろうと思えばドラゴン討伐は出来るだろう。いや国を護る部隊である以上は出来なければならない。しかし、ソロで討伐してしまった彼女の戦力を逃すのは惜しい。


 なんとしてでも、この国に留まってほしいと国の上層部は考えている。勿論、アイゼンも考えていた。それに、彼女のグラビアの一ファンとして他国には行って欲しくない(本音)。


 そこで、アイゼンが提案したのは国からのバックアップ有りの『ヘイロー大迷宮』の攻略である。冒険者は迷宮や遺跡攻略に憧れるもの。彼女も乗ってくれるだろうと考えての事だ。


 この国にいれば、こういうイベントもありますよという意思表示である。


(私的には、王国騎士団に勧誘するのが最も手っ取り早くも思うが)


 アイゼンとしては是非、騎士団に欲しいと思っている。それ程にリアは魅力的なのだ。そして出来るのならばお近づきになりたいとも思う。彼女の美しさに魅入られたひとりとして、交友を持ちたいと思うのは自然だろう。


 だから、今回の迷宮探索にはアイゼンも参加するつもりである。


(いやー。リアちゃんは模擬戦でよく見かけるけど、やっぱ冒険者ーしてるところも見てみたいしな!!)


 だいぶ、欲望に忠実であった。


…………………


『ヘイロー大迷宮』


 この国に近い場所にある迷宮であり、いつから存在するのかは不明。迷宮の最深部に何があるのか、それは前人未到であり誰も知らない。何故なら、無数の強いモンスターや魔物が迷宮に蠢いているからだ──。


 という訳で掲示板に書かれた参加条件を確認している時に偶々出会ったルナと、ギルドを出ようとしていたエストを捕まえ、リアの3人は揃って酒場のカウンターに座る。リアとルナは慣れたものだが、まだ未成年のエストはソワソワして黙っている。酒場は場慣れしていない様子だ。借りてきた猫のようで可愛らしい。

 そんな中、静寂をリアが切り裂いた。


「実際、皆んなどうするんだろ?」


「何がです?」


「何がだリア?」


「いや、迷宮攻略のパーティーだよ。ソロで参加する人は少ないだろう?」


 迷宮探索は基本的にパーティーを組む事を推奨されている。持ちつ持たれつの関係を築く事で不足の事態に対応できるようにする為だ。それから迷宮や遺跡にはトラップ等のイレギュラーは多い為、基本的にソロで挑む者はいない。


「みんなどうするのかなって。俺はルナとエストが組んでくれたら嬉しい」


「私は大丈夫ですよ。リアが参加するならついて行きます」


 ニッコリと微笑むルナとは対称的に、エストはむぅと難しい表情を作る。


「私は王国騎士団からの参加になるだろうからパーティーを組めるかは分からない……」


「えぇ!? 困るよエスト!!」


 ずいっと顔を近づけるリアに、少し引き気味になるエスト。まつ毛がぶつかりそうな顔の距離に、エストは思わず赤面する。それから、リアはエストの耳に口を近づけ囁く。


「……エストの力を貸してくれよ」


「……んっ。んんっ、わ、分かった!! 分かったから!!」


 ガバッと距離を取ると、耳まで真っ赤になったエストが了承の言葉を口にする。リアがヨシッ!! とガッツポーズしていると、スルリと近寄ってきたルナがリアの肩に腕を回して言った。


「……私も情熱的に誘ってください」


 酔っていないのに顔を真っ赤にしながら言うルナ。そんなに恥ずかしいならやらなければ良いのにと思うエストを他所に、リアも彼女が言わんとすることが分からない程ニブチンではないので、流れに乗った。


「……仕方ないな。ふふっ、俺のパーティーに参加してくれないか? 麗しいお嬢さん」


 リアはくさい台詞を口にすると、ルナの手を取りそっと口づけをする。キザで自分に酔った行動だが、無駄に顔の良いリアがすると絵になる訳で。エストが遠目で「夫婦かな?」と呟いた。というか、こんな小っ恥ずかしい乳繰り合いを堂々とやらないで欲しい。普通に恥ずかしいと思う。


 まぁ、そんなこんなで3人のパーティー結成が決定した訳だが。


「リア、他にも誰か誘うのか?」


「あぁ、後輩のアデルを誘おうと思ってる。というか、メールで聞いたらOKって返ってきたし決定事項だ」


 サムズアップしながらリアが言うと、ルナが目に見えてムスッとした。あぁ、やはりあの2人は仲が悪いのかと、察しのいいエストは思いつつフォローを入れる。


「ふむ、アデル程の腕を持つバッファーが居れば安心だな。私は賛成するぞ」


「……」


「ルナ? どうした?」


「何でもありませんよ」


 唇を尖らせて面白くないと雰囲気で示すルナに、リアは苦笑いを浮かべる。というのも、何故この2人の仲があまり良くないのかをリアは知らないでいる。お前が原因じゃ!! とエストは言いたい所を堪えて。


「こほん、ではパーティー結成を祝って乾杯しようじゃないか」


 努めて明るくオレンジジュースの入ったグラスを掲げるとカランカランと揺らし氷を鳴らす。リアとルナも彼女に習ってエールの入ったグラスを持ち上げると乾杯をした。


………………………


 飲み食いして談笑すること数分。依頼を終わらせたらしいアデルが合流した。彼女は明るい笑顔でやってきて。


「リア先輩!! パーティーに参加するのに条件があるっす!!」


「どういう訳で……?」


 来て早々、開幕一番にそんな事を宣言して彼女は胸を張った。ルナに意味ありげな視線を向けながら。


「ふふん、流石に私も嫌いな人と組むのは辛いですからね」


「っち、こっちの台詞だ」


 若干、酔いの入っているルナは嫌悪感を隠す事なく言葉を吐き捨てる。アデルはルナの態度に何か満足したように頷くと、リアに頭を差し出した。リアは左手でアデルの頭を撫でると「えへへ」と笑いながら彼女は条件を提示する。


「それで、条件なんですけど……今晩、泊めてください!!」


「おや?」


 エストは話半分に聞いていたが、ここで騎士団としての仕事モードが発動する。


「はて、2人はお泊まりして何をするつもりなのかな? アデルはまだ未成年……場合によってはお縄ですよリア?」


 ペシペシと膝を叩きながら言うエストに、リアは意地の悪い笑みを浮かべると耳元に口を持っていき。ふぅーと息を吹きかけてからこう言った。「場合によっては? ふふっ、君も未成年なのに何を想像しているのかな?」と。


 実際、脳内ピンク色だったエストはリアの一撃に慌てふためき、頬を朱に染めながら「なんでもないです……」と縮こまった。可愛いなぁと揶揄ったリアが思っていると。

 そこですかさずルナが口を挟んでくる。


「ず、ずるい!! 私も!! 私も泊まります!!」


「えぇ〜? ダメですよ先輩ぃ。これはリア先輩と私の取り引きです。引き下がってください」


「……くっ、貴方。リアと2人っきりでナニをするつもりなの」


 ルナの含みある言い方に気がついたアデルは口に弧を描くと。


「さぁ? あ、もしかしたらルナ先輩の想像している事かもしれませんね?」


 お互いバチバチと視線をぶつけ合う2人にリアはため息を吐いた。2人は会うたびにこんな会話を繰り広げる。水と油のような関係性だ。だから「2人とも泊まればいいじゃん。歓迎するよ?」とリアは提案するものの「「2人っきりが良いんです!!」」と2人に言われ首を傾げる。


 エストはなんでそういう所でニブイんだお前はと言いたい所を堪えて、リアに話を振った。


「リア、ちゃんと分かってるよな?」


「うん。2人ともー、泊まりに来るのはいいけど、如何わしい事したら絶交だからなー」


 如何わしい事をしようと考えていたアデルは「くっ!!」と悔しそうに喉を鳴らし、ルナもルナで「うっ」と思い当たるところがあり言葉を詰まらせる。リアは2人がそんな事する訳ないかと思っているので、冗談半分だったのだが……。反応を見て「えっ?」と声を漏らす。


「なぁ、エスト。もしかして、もしかする?」


「……私の口からは言えんな」


「いや……もうそれ答えじゃん」


「こらこら、ほっぺをツンツンするんじゃあない」


 急に察しが良くなったなとオレンジジュースで喉を潤し面白半分に3人を見るエスト。

 そして2人のことは好きなので、好意は素直に嬉しく思うリアであった。襲われるかもという若干の恐怖は無かったことにして。

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