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 鍛冶場では、鉄を打つ音が響いており、出来た武器や防具がショーケースに並んでいる。武器は剣から始まり魔法の杖や銃火器まで様々だ。因みに三階建てである。


 1階は見習い用の鍛冶場が備え付けられており、安い武器が売られている。主に新人から中堅の冒険者が利用している売場だ。しかし、見習いと侮るなかれ。武器の性能は一級品にも引けを取らないレベルの物が多数ある。魔物退治用の安い爆弾なんかは、ここで買うのがおすすめだ。


 そして2階以降には鍛冶長などの特別なスキルを持っている者が使う鍛冶場と、その者達が作成した高級な防具や武器が飾られている。例えば高級な武器には……魔法属性の付与された武器や、極端に壊れ難くほぼ刃こぼれしない剣、魔法の威力を増幅させてくれる杖など、ファンタジー特有のものがある。


 そんな武器達を眺めながら歩いていると、前からアデルが歩いて来るのが見えた。彼女はリアの姿を見ると満面の笑顔を浮かべて子犬のように歩み寄ってきて……ぎゅっと抱きついた。


「先輩〜、えへへ。退院したんすね」


「あぁ、心配かけたみたいだな」


 頭を撫で微笑みながら言うと、彼女はプクッと可愛らしく頬を膨らませ。


「そうっすよー!! 次、無茶するなら必ず私も呼んでくださいっす!!」


「そうするよ、頼りにするからなー」


 うりうりーと強めに撫でると、彼女は嬉しそうにしながら胸元に頬を擦り付ける。そんなまるで子犬のような仕草が可愛くて、リアは周りの視線に気がつかないまま暫く撫で続けるのだった。


………………


「そういえば先輩は鍛冶場に何の用事で? あ、もしかしてドラゴンの素材で何か作るんすか!?」


「折角だし、思い切って新しく色々と新調しようと思ってさ」


「ドラゴン装備、いいっすね。冒険者のロマンっす」


 うんうんと頷いたところで、アデルは「あっ」と何かを思い出した顔をすると。


「依頼受けてたの忘れてたっす!! すいません先輩、また今度装備見せてくださいっす!! 2人っきりで!! ではー!!」


「おう、頑張れよー」


 アデルに手を振り見送ると、リアはよしと気合を入れ直して、三階の鍛冶場までエレベーターで登ると扉を開いた。


 ムワッとした炎の熱気と鉄を打つ音が聞こえてくる。窓を全開にしていても、鍛冶場の熱は逃せないらしい。そんな鍛冶場に足を踏み入れると、白髪のポニーテールの麗人で鍛冶場長をやっているレイア・ヨハン・フェルクが手を止め立ち上がった。彼女とリアは付き合いが長く、ドラゴン討伐に使った片手剣も彼女に作ってもらった特別性だ。

 そしてレイアは気安げにリアへ話しかけた。


「おや、噂のドラゴンスレイヤーじゃないか。僕の鍛冶場に何の用……は野暮だね。ドラゴンの素材について、かい?」


「はい!! ドラゴンの素材で新しい武具を作って欲しくて。レイアにお願いしてもいいかな?」


「いいよ、喜んで。ただドラゴンの素材を扱うのは僕も初めてだけど……」


「レイアが作ってくれるから良いんだよ!! 俺の命を預ける相棒は、貴方に作って欲しいんです」


「ッ!! 嬉しい事を言ってくれる。鍛治師冥利に尽きるね。分かった、その依頼は僕が受けよう。それで? 防具はまた軽装に、武器は片手剣にするのかい?」


「うーん」


 リアは考える、今後の活動として、遺跡探索か迷宮攻略を視野に入れているからだ。そこで取り回しのいいのは片手剣よりも、長めのナイフにしようかなと考えている。腕の長さくらいの刀身だと有り難い。それから防具は、動き回るから軽装の方が良さそうだ。というのも、自分は攻撃を受けるよりも、回避するタイプである。だから防御力は最低限でいい。


 その事を伝えると、レイアは「分かった、要望にはできるだけ応えよう」と頷いてくれた。


「ありがとね、楽しみにしてる」


「うん。あ、防具の為に採寸させてもらうからもう少しだけ付き合ってね」


「……? 前から体型は変わってないよ?」


「……ほんのちょっとでも変化しているかもしれないじゃないか」


「えー、そうかな……」


 お腹をフニフニと触りつつ、リアは首を傾げながらも同意した。別に断る事でもないだろうと思って。


 そして2人は奥にある密室に入っていき、リアは採寸の為に下着のみの姿になる。衣擦れの音にドキドキするレイアとは他所に、リアは同性ならば割とタンパクであった。ただ、女の子の裸を見慣れてはおらず割と女の子同士のやりとりにはドキッとする初さは残っている。あと余談だが、自身の身体に絶対の自信を持っているのもあり、同性ならば人前で下着姿になるのは無問題であった。


 そうして瑞々しい白い肌と程よく引き締まった身体が曝け出され、レイアの目が輝いた。


「ふふっ、じゃあ採寸するね?」


 どこか、ねっとりとした手つきで採寸されているのだが、リアは勿論、気がついておらず、ちょびっと恥ずかしげにしながらも(仕事熱心だなぁ)としか思っていない。このTS娘はその辺は割と鈍感なのであった。


 あと、気を遣ってくれたのか流れ出る汗を度々ふわふわのタオルで拭いてくれて、リアはレイアの気遣いを嬉しく思うのだった。


……………


 リアが帰ったのち、採寸データを纏めてから仕事に入る前に……彼女の汗を拭いたタオルに顔を押し付けて深く深呼吸をする。リアに汗をかかせる……態々暑い部屋にした理由はここにある。今からエアコンをガンガンかけるつもりだ。


「すーはー」


 鼻に駆け抜ける彼女の香りに、恍惚の表情を浮かべた。熱に浮かされ、頭がクラクラする。理性がどうにかなりそうだ。


 彼女の事が好きだ。自身の作品を十全に扱う彼女が堪らなく愛おしい。……自身の作品を愛しているからこその感情でもあるが、レイアはそれ以上のクソデカい感情をリアに抱いている。


 ある意味で恋愛感情でもあるのだが、それ以上に厄介な感情を。


 リアがメンテナンスに出した、愛用の片手剣を撫でる。刃こぼれを起こさないように丁寧に扱われたのが分かる消耗具合だ。彼女の『風』を纏いやすい仕様にしてあるが、その事を加味しても使い手にとても合った武器だと分かる。この作品を自分が作った……どこか誇らしい気分と、この武器でドラゴンを倒してくれたという事実にビクンとする。鍛治師としてはこれほど嬉しいこともないだろう。


「リア……」


 あぁ、彼女にはどんな防具が似合うだろうか。彼女の命を預ける武器を自分は作れるだろうか。いや、だろうかではない、作るんだ。リアの命を守る装備を。


「ふふ、ふふふっ」



 そう、つまり……リアの命は自分が握っている。



 その事実に優越感と背徳感を感じ、レイアは暫くビクンビクンし続けた。


 尚この後、国のドラゴン解体に付き合い、良い鱗や堅殻に甲殻、皮と素材を見繕い、真面目に装備作りを始めるのだった。ただ、そこに沢山の愛情を注ぎながら。


 ……しかし、ドラゴンの素材は厄介だなとレイアは思った。皮は針が通らない程に固く縫いにくいし、殻は中々削れない。


 武器(長めのナイフにする予定)になる角なんかは特に削れない。これでは剣の形に削り出すのも困難だ。熱しても硬さは変わらずである。しかも、かなりデカい。この角をナイフサイズまで削る。一体何年かかるのだろうかというレベルだ。


「仕方ない、オリハルコンの加工道具を使うか」


 オリハルコンは伝説の金属とも言われているくらいで最高硬度を誇るが希少性は高い。現代化学においても、どの素材よりも硬度が高いとされているのだ。そんな金属をふんだんに使った加工道具は、レイアの奥の手でもあった。これで加工できなければ……正直、諦めるしかない。


「……本当に、よく倒せたねリア」


 ドラゴンの亡骸からも感じた迫力を思い返して、ソロで倒してしまった彼女の凄さに感嘆する。同時に、これが『英雄』というものかと納得もした。


 余談だが、リアの片手剣はオリハルコンで強化しておいた。要望のナイフの完成はまだまだ先になりそうだから。

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