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 私、クロエ・ルメールには血の繋がっていない姉がいる。その名はリア・リスティリア。今でも彼女と出会った時のことを夢に見る。


 私の暮らす孤児院に多額の寄付が寄せられて、先生がみんなに欲しいものを聞いて回っていた時に彼女は訪れた。


 ひと目見て、天使みたいだと思った。


 きめ細やかな白い肌に、この辺では珍しい長耳……つまりエルフ。そしてエルフといえば美麗なのは定番と言えるが、それ以上にリアの顔は黄金比とでも言えるくらい綺麗で、万の言葉では語り尽くせないほどだった。


 寄付してくれたのは、そんな彼女だという。今日は慈善活動の一環で遊びに来たのだとか。それから、リアはみんなと遊んでくれた。おままごとや鬼ごっこに付き合って、太陽のような明るい笑顔を絶やす事なく、周りも笑顔にしていく。そして見せつけられる母性にみんな落ちていった。


 時折、胸元を覗かせては男子を煽っているようにも見えたが……気のせいだろう。


 そんな彼女が眩しくて、気がつけば背後をつけていた。そうすれば、当然リアは気がつくわけで。


「ん? どうかしたか?」


「えっと、ええっと……」


「よしよし、落ち着け。俺は逃げないからさ」


 そっと細い指で頭を撫でられる。他人に頭を撫でさせた事なんてないのに、妙に気持ちよくて目を細めた。

 あと一人称は『俺』なんだと、どうでも良いことを考えながら、私は彼女にこう言っていた。


「リアお姉ちゃん……」


 嫌がられるだろうか、と恐怖を感じながら反応を待てば明るい笑顔が返ってきた。


「リアお姉ちゃんか、ふふふっ。いいよ、それじゃあ今から俺は君のお姉ちゃんだ」


 慈愛の籠った優しい目で言われて、胸に湧く妙な嬉しさから頷いたのを覚えている。あの感覚を、高揚というのだろう。あとは家族のいない自分にとって姉という存在がどれほど特別に感じているのかをこの時の私は知らなかった。


 それからというもの、リアは訪れる度に背後をつける私に積極的に構ってくれた。他の子達より自分を構ってくれるリアを、段々と本当の姉のように思えてきて、自分でも驚くくらい甘えた。時にはリアに抱きしめてもらいながら日向ぼっこしたり、一緒にお昼寝をしたりもした。私の数少ない自慢のひとつだ。


 ……そんなリアが昨日、前々からこの国の危機とされていた強大なドラゴンを倒しに行って、ボロボロになって帰って来たと院長先生から聞き、いてもたってもいられなくなり病院を探し回った。そして見つけた、安らかな寝顔を浮かべるリアを。


 その時に感じた安心感は忘れられそうにない。私は、私の想像の何倍もリアの事が大切なんだと分かり……布団に潜り込んで彼女の足に抱きついた。


 もう、何処にも行かないでほしい。危険な事はしないでほしいと強く思った。反面、冒険者として活動する彼女の武勇伝を聞くのも楽しみの一つであった為、矛盾した考えに悩ましく思った。

 格好いい彼女が好きだ、美しい彼女が好きだ、優しい彼女が好きだ、そうだリアは……リアは私のモノダ。


 これがイケナイ感情で、暗く澱んでいることを理解しつつも拒めなかった。


 そうして足を抱きしめているうちに寝入ってしまったようで、起きたらリアの胸に抱かれていた。


 スヤスヤと寝息を立てて眠るリアの頬を触る。私のお姉ちゃんは本当に綺麗だ。それに、こんな無防備な顔を晒してくれる事に優越感を覚え嬉しく感じる。おそらくこの顔を見れる人間はそう多くないだろう。


 だから、この気持ちのお返しとばかりに、リアの頬に触れながらそっと口づけをした。


 私のファーストキスに特別な思いを乗せて……。貴方は私のリア、と。


「ん……リアお姉ちゃん……」


 この時の呼び方は幼子にしては妙に大人びていて、色っぽかったのだが、それを知る者はいない。

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